部屋の大きなガラス窓の外に見える、隣のビルのお洒落な外壁。そのゆるいアーチを描くシックなタイル張りのテラスから垂れている、緑の葉をつけた数本の木の枝。午後の日差しを浴びて、壁に映る影が揺れています。
そして、そこに流れてくる優しいピアノの音。映画のワンシーンのような情景の中に私は浸っていました。
あ、すみません! ひとり悦に入ったような話で(笑) 実は先日のランチタイムの出来事なんですが。
その日、あるピアニストの方から誘われてランチに行ったのでした。その方は私がコード奏法に出会ってライブバーに習いに行き始めた最初の頃に、そこで出会った女性のピアニストさん。an弾手がこのコラムを書き始めるより数年も前のことですね。私がコード奏法を習いに行っていたそのライブバーのマスターから紹介されたのでした。
「この人、地元の音大出のクラシックピアノの先生です。もちろん楽譜さえあればバリバリ。だけど楽譜がないとムズカシイみたい。やっぱり楽譜なしで弾けるコード奏法ってスゴイんだよ」って、何だかコード奏法の凄さを説明する例みたいな感じで。
その時はほとんどお話しすることもなく、その後も時々どこかの店で演奏されているのを見かける程度でした。
ところがここ数年、その方の活躍がやけに目に入るようになりました。あれ?クラシックの先生と聞いていたのに、いつの間にかすっかりジャズピアニストに?
ジャズのバンドで演奏したり、あるシンガーソングライターと組んで数多くのライブをこなしたり、オリジナル曲を作ってジャズヴァイオリニストとのDUOのCDを出したり、海を渡ってカナダトロントのジャズフェスティバルに出演したり、熊本市内の一流ホテルで定期的にラウンジピアノを演奏したり。
実は、そんな彼女の活躍振りは、これまでこのコラムの中でも何度か取り上げていました。
例えば
第448回「an弾手、突然のホテルラウンジデビュー?」、
第461回「50歳からのヴァイオリン入門?」、
第532回「Still
Myself」などに登場する中田由美さんというピアニストが、今回書いているその人です。
えっと、話が飛び過ぎですね、すみません。そんな中田さんは街なかのお洒落な裏通りのビル3階にご自分のスタジオをお持ちで、そこでよくピアノの集いやライブなどをされているようです。ただ、私は場所は知っていてもあらためて行ったことはありませんでした。
ところが先日、そのビルの1階の高級フレンチレストランが最近ランチも始めたので一度来てみませんか、と中田さんから誘われたので行ってみたのでした。
ランチを頂きながら、これまでなかなかゆっくりお話しすることもなかった中田さんといつの間にかピアノ談議に。私が中田さんに、クラシックからジャズに転向されたいきさつやら、近く出そうと準備されているらしいオリジナルCDの話しやら、ホテルラウンジでの演奏時の心構えやら、コード奏法のコツやら、矢継ぎ早に質問していたら。
「あれ、今日は何かのインタビュー会見でしたっけ?」
と言われてしまいました。すみません、こんなにじっくり対面でお話しするの初めてなので、思わず一気に質問しまくっちゃいました〜。
やがて、オシャレなフレンチのランチが終わってから。
「どうです? 上のスタジオにちょっと寄られませんか? an弾手さんのピアノも聴かせてくださいよ」と。
このシチュエーションでそう言われて断る理由もないですよね(笑)
そのままオシャレな外階段を上がってそのビルの3階へ。裏通りに面したテラス。その奥の広いガラス張りの中に20〜30帖程?の広さのスタジオ。壁にはオシャレなタペストリー。もちろんグランドピアノが鎮座しています。
どうぞ、と言われるままにピアノの前に掛けます。そして思い付くままに「ダニー・ボーイ」、「スター・ダスト」、「酒とバラの日々」を。その後、私はソファーに移動して中田さんの演奏に耳を傾けました。曲は、今CD化の準備をされているという中から中田さんのオリジナルで「Still
Myself」。少し前にライブでも聴いたことがある曲ですが、CDのために少し編曲を変えてあるらしい。
優しいピアノのメロディーがスタジオから外のテラスへと流れていきます。
「Still Myself」……自分らしく? ついさっきまで話を聞いていた中田さんのピアノ人生の歩み。そして、不遜ながらもふと思ってしまった自分自身のささやかなピアノライフのこれまで、と、これから?
テラスの向こうに見えるお洒落なビルの壁に下がった緑の影が、ピアノの音に乗って風に揺れています。しばし、自分が映画のワンシーンの中にでもいるのかと錯覚しそうな、そんな贅沢な昼下がりのひと時でした。
(続く→原則毎週火曜日更新)
an弾手(andante)
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