2nd
Set、都浩子さんによる夏目漱石「夢十夜」の朗読と私のピアノが始まりました。(前回、第571回からの続きです)
『…日が出るでしょう。それから日が沈むでしょう。それからまた出るでしょう。そうしてまた沈むでしょう。…赤い日が東から西へ、東から西へと落ちていくうちに、…あなた、待っていられますか』
そんな朗読にあわせて、私はコード進行のメモを頼りにピアノの音を入れていきます。
『自分は黙って首肯(うなず)いた。女は静かな調子を一段張り上げて、「百年待っていてください」と思い切った声で云った。「百年、私の墓の傍(そば)に坐って待っていてください。きっと逢いに来ますから」……』
女はそう言ってぱちりと眼を閉じた。死んだ女を真珠貝で掘った穴に埋め、星の破片(かけ)の落ちたのを拾って来て土の上に墓印として乗せる主人公。その横に坐り、毎日毎日赤い日が勘定しつくせないほど頭の上を通り過ぎていくのを見ながら、女が会いに来るのをひたすら待つうちに、石の下から伸びてきた青い茎が、胸のあたりまで来て留まり、一輪の蕾がふっくらと弁(はなびら)を開く。
『……自分は首を前へ出して冷たい露の滴る、白い花弁(はなびら)に接吻した。自分が百合から顔を離す拍子に思わず、遠い空を見たら、暁の星がたった一つ瞬いていた。
百年はもう来ていたんだな、とこの時初めて気がついた』(完)
ピアノの最後は黒鍵だけのペンタトニックスケールに続けて、一転F―A♭―B♭―Cというコード進行に進んで、主人公が遠い暁の空を見上げて話が完結する情景感を出してみました。
「百年という時の流れと、それでも変わらない悠久の自然の営み。そんな中で、私たち人間の存在は本当にちっぽけで切ない様にも思えてきます。ただ、だからこそこうして一瞬一瞬の出会いも大切にしていきたいと思います。今日はおいで頂いて本当にありがとうございました…」
会場一杯のお客さまに向かって、私はそうコメントしました。
さて、その後はこの夢十夜の中に出てきた「天から落ちて来る星の破片(かけ)」という言葉に掛けて、ジャズのスタンダードナンバーから「スターダスト」を演奏、そして同じく星の破片(かけ)から連想する舞い落ちる雪に掛けて、「雪が降る」「雪の降る街を」「白い恋人たち」。自分の語りと浩子さんの歌詞朗読を絡めながら曲を続けていきます。
2nd Setは1st Setの日本の抒情歌とはグッと雰囲気を変えて大人のムードで。情景の語りを入れながら「別れの朝」「酒とバラの日々」と続いて、一足早くクリスマス気分へ。「ホワイトクリスマス」「戦場のメリークリスマス」とつないでいきました。
「秋から冬へ。遠い記憶の旅」は、こうして会場一杯のお客さまと一緒に様々な記憶の中を旅することが出来て、本当に幸せなひと時でした。
ライブの後、お客さまから温かいコメントをたくさん頂きました。
『前回よりさらに進化し、ライブを通して1つの物語の中にいるような素敵な試みが盛りだくさん(^^) 優しいピアノの音色とan弾手さんの穏やかなMC、ミンミンさんの落ち着いた語り、懐かしい気持ちにさせるマミさんのオカリナも疲れた心身に染み渡りました』とは、いつも私のライブに来て下さるジャズヴォーカリストの方。
『とっても素敵なコンサートをありがとうございました(*^_^*) とっても感動しました。おかげで、感動のあまり久しぶりになかなか眠れず、やっと6時半に寝れました(笑) 特に《戦場のメリークリスマス》は感動し、涙が出てしまいました(T^T) また聴きに飛んで伺いますね(*^^*)(笑)』とは、今回私のライブのために県外から新幹線で駆け付けて下さった方。
『まるで景色の移り変わる描写の中にいるような素敵なひとときでした。うっとりと心地よく癒されました。この場所にいられたことに感謝いたします』とは、もう何年も前に熊本県立劇場のKENGEKI@Liveに出演させて頂いた時にお世話になった司会者の方。
『物語がある素敵な時間でした。自分の世界と音楽が重なって1日の終わりにとても癒されました♪〜新たなご縁にも感謝です』とは、オハイエくまもとの活動でお世話になっている方。
『心にスーッとしみこむ音色に本当に癒やして頂きました(*^-^*) ありがとうございました』とは、プロのソプラノ歌手の方。
他にもたくさんの方から身に余る温かいお言葉を掛けて頂き、お土産、花束まで頂いて感激です。
来て頂いたたくさんのお客さま、そして、共演して頂いた朗読の都浩子さん、オカリナの福田満美さん、そして素敵な会場を提供して頂いたライブハウス酔ingさん、ありがとうございました!
(続く→原則毎週火曜日更新)
an弾手(andante)
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