(前回より続く:これまでの話はバックナンバーをご覧下さい)
何とか第一話の出番終了。その後私はステージ下に引っ込み、第1部の最後にまたステージに出てピアノソロを2曲。続くドリンクタイム(休憩)の後、第2部の最初がいよいよ問題の第五夜。寿咲さんの朗読に私のピアノ、つい数時間前に作ったばかりのピアノ構想の本番です!
Dm、Gm、A7の短いイントロ風フレーズに続いて寿咲さんのセリフ、
『第五夜、こんな夢を見た。』
これを受けて、ピアノは荒城の月の冒頭4小節だけを弾いて止まります。その後はしばらくピアノ無しで朗読が続きます。
『何でもよほど古い事で、神代に近い昔と思われるが、自分が軍(いくさ)をして運悪く敗北(まけ)たために、生捕(いけどり)になって、敵の大将の前に引き据えられた…』
深夜の戦場で生捕になり敵の大将の前に引き据えられた主人公。篝火(かがりび)に照らされる中、剣に手を掛け主人公を斬ろうとする大将。それを押し留めて、死ぬ前に一目思う女に逢いたいと頼む主人公。
『大将は夜が開けて鶏が鳴くまでなら待つと云った。鶏が鳴くまでに女をここへ呼ばなければならない。鶏が鳴いても女が来なければ、自分は逢わずに殺されてしまう。』
途中、ピアノはEm、Am、Em、B7、Emというコード進行の8小節のフレーズで夜の闇と篝火の情景を表現してみたり、A/E、Am/F、Am/F♯、Am/F、Am9と、ベース音を半音ずつ上下して緊迫感を出したりしてみます。
また、Am、Dm、E7sus4、E7という同じコード進行でも、主人公が女を思うロマンティックな場面や、別のシーンでだんだん夜が更けていく様子など、いくつか違うフレーズも工夫してみます。
そしていよいよ、前日のリハで寿咲さんから特にダメ出しをくらった、女が馬に乗って闇の中を疾走してくるシーン!
馬の蹄の音をイメージして3連音符の4拍のリズムでまずF♯、G、G♯、A7のイントロ、続いてDm、Gm、A7、Dmを一巡したら右手のコードを1オクターブ上げて繰り返し、というパターン。朗読の進行を聞きながら、打ち合わせで決められた場面まで来たらピアノストップ!
真闇(まっくら)な道の傍で、こけこっこうという鶏の声!女が思わず身をそらして手綱を引くと馬は蹄を岩に刻み込む。もう一度鶏が鳴くと…。馬は前にのめり女と共に岩の下へ。そこは深い淵であった…。
このシーンはグヮーンと思い切り両手で不協和音を鳴らし、そのままガン、ガン、ガ〜ンと鍵盤の左端まで重低音を鳴らしていきます。
『…蹄の跡はいまだに岩の上に残っている。鶏の鳴く真似をしたものは天探女(あまのじゃく)である。この蹄の痕の岩に刻みつけられている間、天探女は自分の敵(かたき)である。』
朗読の最後の言葉が終わると、ピアノがエンディングを弾いて《完》となります。
あー、終わったぁー!出来はどうだったんだろう?自分では何とも分かりませんが。もちろんピアノのタイミングがずれたり、ちょいと指がもつれたり、と色々問題はありましたが、昨夜のリハからわずか数時間前にドロ縄で作ったということで何とかご容赦を〜。
この後はプログラムの最後にもう一度ピアノソロを2曲弾いて、全て終わりとなりました。
今回のライブ、たくさんの貴重な経験をさせて頂きました。朗読のバックで単に何かの曲を弾く、というのではなく、映画やテレビドラマの音楽のように物語の場面展開に細かくシンクロさせながらその情景をピアノで表現していく、という初めての体験でした。これをきっかけに、テレビを見ていても背景の音楽が特に気になるようになり、フレーズの聴き取りの習慣が付きました。
それに、寿咲亜似さん、松崎ひろゆきさん、藤川いずみさん、というプロの方々と同じステージに立たせて頂いたというのも貴重な経験でした。感謝です。
ライブを聴いた人の感想では、「物語とピアノがすごく合っていてよかった」「あれってコード奏法なんですか?コードであんな風に弾けるなんてすごい」というお褒めの他にも「ピアノの音が大きすぎて朗読が聞きにくいところがあった」「最後の挨拶で笑顔がないのはダメ」などと親身の辛口アドバイスも頂きました。ありがとうございます。
また、今回は思わぬ出会いの不思議さ、ご縁のありがたさも感じました。そもそも最初に寿咲さんと言葉を交わすきっかけになったのは、ほんの数ヶ月前800人以上の参加者があったあるパーティーでたまたま隣の席になったという偶然。初対面なのにお話をするうちに「今度の朗読公演にピアノで参加しませんか?」とお誘いを頂いたのがきっかけになったのでした。
更にもう一つ偶然のオマケも。この公演の翌々日、全く別のある所でたまたま隣の席になった方から「一昨日の朗読ライブでピアノを弾いていた人でしょ?」と話し掛けられてびっくり!ライブに来られていた方だったのでした。話が盛り上がり、ちゃっかり自分の本の宣伝までしてしまいました(笑)。
当日のお客様は寿咲さんの関係の方が多かったのですが、an弾手つながりの方もそれぞれに平日のお忙しい時間をやり繰りして来て頂きました(中には当日重なっていた別の忘年会をキャンセルして来た人や、開演時間に間に合わせるためにその日仕事の休暇をとったという人も!)。
皆さまのお陰で貴重な体験といい思い出ができました。本当にありがとうございました!
(続く→原則毎週火曜日更新)
an弾手(andante)
■Q&Aコーナーのご質問を募集しています。
随時、このコラムの中で取り上げてみようと思います。このコラムはコード奏法超初心者から中級の入口位の方を想定していますので、その範囲ならどんな内容でも結構です。メールお待ちしています!
piano-roman@kumamoto-bunkanokaze.com
ちょっと、ひと言。 |
とうとう今年最後のコラムになりました。今年も一年間お付き合い頂きありがとうございました。日頃お会い出来ない方も、たまにお会いしたりメールを頂いた時に「毎週愛読してますよ」とか「コラムにいつも癒されてます」という様なお声を掛けて頂くことがあって、とても励みになります。そんな皆様のお声こそが何とか毎週続けらるモチベーションの元になっています。本当にありがとうございます。
お蔭さまで今年も講談社から新刊が発売になりましたし、今回のコラム本文にも書いていますように新しいライブ体験もさせて頂きました。また、ご縁あってある女子中学生のピアノレッスン(来春卒業までの短期ですが)をさせて頂いたりもしています。
皆さま、来年はどんな年になりそうですか?実はan弾手はまた新しいことを始めてみようかと密かに妄想していることもあります。
新年が皆様にとって素晴らしい年になりますように。そして素敵なピアノの輪がたくさん広がっていきますようにお祈りして、今年最後のご挨拶に代えさせて頂きます。本当にありがとうございました!
(なお、新年のコラムは1月10日からスタートの予定です)
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