「これをもちまして総会を終了いたします。この後は3時から隣の会場で交流会を開催しますのでご移動をお願いします」
司会者がそう告げます。その日はNPO法人・くまもと文化振興会の総会でした。何故か私が総会の議長に選出されて、一応大過なく(?)お役目終了。ほっとしたところに世話役の人が近づいてきました。
「交流会でピアノ弾いてもらえますか?」
「えっ?そんな話聞いてませんけどぉ……」
「交流会で出し物がないと寂しいでしょ。何か適当にお願いしますよ」
(あちゃ〜、そんな事なら予め話聞いていればちょっとは準備して来たのに〜)
油断してました。これまでこの会では何度かピアノ演奏させてもらったことがありましたが、いつも数週間位前には打診の電話があり、それなりの準備と心づもりをして臨んでいたのですが。今回は何の話もなかったので、まさか当日に会場で突然とは思ってもいませんでした。
慌てて隣の会場を覗いてみました。正面ステージの左側にドーンとグランドピアノが鎮座しています。ホテルの会場係りの人に声を掛けます。
「すみません、急にピアノ弾くことになったみたいなので、ちょっと音出ししてみていいですか?で、生では音が弱そうだったら、ピアノマイク入れてもらっていいですか?」
会場係の人が、すぐにアーム付きのマイクを用意してくれました。とりあえずピアノの前に座って音を出してみます。まだ会場に誰もいないので生でも結構響きそうですが、これに人が入ると響きが全然変わってしまうんですよね。
会場係の人が
「本番では私が聴きながらマイクのボリューム調整しますから」
と言って下さいました。
「よろしくお願いします」
さて、次は何を弾くか、決めないと。
手帳の表紙裏に挟んでいる何枚かのメモ用紙を出してみます。ありました!何かの時の為に、とっさに自分が弾けそうな候補曲をリストアップしたメモ。最近見てなかったので今でも手帳に入っているかちょっと不安でしたが、あってよかった。
7月末にライブで20曲弾いたばかり、と言えば、その中から何曲か弾けば?とお思いの方もいらっしゃるかもですが、これがどうして、ちゃんと曲名を書き出しておかないと、宙では『えっと、弾ける曲何があったっけ?』となってしまうのです。
メモ用紙を見ながらとりあえず問題なく弾けそうな曲に丸印を付けてみます。ここでは、『とりあえず問題なく弾ける』というのが重要です。何しろ全く準備も確認も試し弾きもなく(もちろん楽譜もコード進行表もなく)、いきなりお客さんの前で本番演奏なので、最後まで問題なく止まらず間違いなく弾きと通せるか、というのが最優先です。
ダニーボーイ・シークレットラブ・ムーンリバー・五番街のマリーへ・オーバーザレインボー・竹田の子守唄・赤とんぼ、に丸を付けてみました。
ま、これ位あれば何とかカッコ付くかな?
交流会が始まりました。会長挨拶、来賓紹介、乾杯、と進んで会場はざわざわと歓談が広がっています。私も同じテーブルの人と話をしながら料理をつまんではみるものの、やっぱり自分の演奏の事が気になって落ち着きません。乾杯からちょっとひと呼吸を置いて、司会者の所に行きました。
「そろそろ、私のピアノ弾いてもいいですか?どうも落ち着かなくて」
司会者に軽く紹介をしてもらって、ピアノの前に座ります。
まずはKey=Cのタラタラコード進行アドリブをしばらく回すところから始めます。そしてダニーボーイ。この曲はすっかり手に馴染んでいるので、最初にこれを弾くと指慣らし(初めて触れるピアノの鍵盤タッチに慣れる意味も)と自分の気持ちを落ち着かせる効果があります。
続いて、適当にコード進行アドリブを挟みながら、シークレットラブ、ムーンリバー、五番街のマリーへ。もうちょっと弾いてもいいかな、とも思ったんですが、このあたりで終了。曲間のコード進行アドリブも入れると、14〜15分位は弾いていたでしょうか。
1曲毎に温かい拍手を下さった会場の皆さま、ありがとうございました。
ああ、それにしても、いつ、なん時、どこでピアノ演奏をすることになっても、焦らずにスッと弾けるよう、日頃の仕込みの大切さを改めて思い知らされたその日の交流会でした。
(続く→原則毎週火曜日更新)
an弾手(andante)
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