Vol.38 ○周年[2008.4.30]
 熊本城築城400年祭「エピローグ」も、この連休まで。平成18年大晦日からお正月三カ日の「プロローグ」に始まり、「第1章」から「第5章」まで段階的に趣向を凝らしてイベントが開催されてきました。開幕500日前からのイベントも含めると、実に3年近くにわたって、熊本城はその存在感をひときわ放ったわけですね。

 “蘇る熊本城”のことは、本コラムVol.26<抜け道> でも触れたように、こちらにも新聞やテレビで伝わってきました。あるTVドキュメンタリーでは、名城復元への参加機会を得た若い大工さんの、“伝統”に関わる喜びと高揚、そして、恐れにも似た緊張が印象的でした。ともあれ、築城400年という記念すべき年を契機に、熊本の地が、これからも誇りとする名城とともに文化や自然を守り伝え、その魅力を全国に発信していくこと。周年行事には、そうした大きな意味があるのですよね。

 関西では、例えば、今年開催の京都「源氏物語千年紀事業」、再来年2010年開催の奈良「平城遷都1300年祭」などは、さすが古都らしい○周年。ちなみに、前者は、『源氏物語』に関連した記述が作者の『紫式部日記』に確認されるのですが、その日付が寛弘5(1008)年11月1日であることから。また、後者では、仏がイメージされる童子の頭に鹿の角が生えたマスコットキャラクターが賛否両論で、物議をかもしていることは御地にも伝わっているでしょうか。
 ▼源氏物語千年紀事業 −紫のゆかり、ふたたび−(京都府)
 http://www.pref.kyoto.jp/2008genji/
 ▼平城遷都1300年祭(同祭記念事業協会)
 http://www.1300.jp/

 そして、私が今回ご紹介するのが、滋賀県長浜市「黒壁スクエア」のアニバーサリー「黒壁20周年」です。長浜は、豊臣秀吉が初めて一国一城の主となった城下町。「黒壁スクエア」は、古い町家や商家を生かしたまちなみに、ガラスショップ、ガラスの美術館やギャラリー、レストランなどが建ち並ぶ観光スポットで、そのノスタルジックなまちの雰囲気とモダンなガラス文化に、年間200万人の観光客がひきつけられ、賑わっています。
 ▼黒壁スクエア
 http://www.kurokabe.co.jp/

 20年前、かつては栄えた長浜のまちも、時代の波に飲み込まれ、通るのは「1時間に4人と犬1匹」という寂れようでした。それを、地元とはなんらゆかりのないガラスに着目し、ガラス文化発信の地として再生させたのです。オリジナルブランドのガラス作品も誕生・進化し、また、工芸つながりでアニメキャラクターなどのフィギュアの博物館も仲間入りしたり、地域のお年寄りが店舗運営するエリアも隣接したり、となかなか興味深いまちです。

 “箱物”に頼らず(長浜の場合、ステレオタイプな発想であれば、地元名産のちりめん織物にちなんだ資料館など造っていたかも)、一過性のイベントに終わらないまちづくりということでは、本コラムVol.25<わが町> にもある高知県黒潮町の「砂浜美術館」もそうでした。美しい砂浜を美術館に見立てるという、発想力と遊び心を効かせてまちを元気にし、こちらも今年は開館20周年を迎えたようです。

 「熊本城築城400年祭」や古都の○周年は、地域の歴史と伝統を徹底的に生かし未来につなごうとするもの。「黒壁20周年」は、地域に生み出したまったく新しい文化資産を未来につなごうとするもの。そして、「砂浜美術館開館20周年」は、視点を変えて活かした地域の魅力を未来へつなごうとするもの。これらの○周年から見えてくるのは、地域活性化策の基本3タイプ。

 そしてまた、それは人生の転機を乗り切る際の方法に通じるようです。例えば、昨年2007年は団塊世代の退職者がピークでした。会社を去った後の人生を、自分がそれまでに培った知恵や技術を、他の場所で活かすなり、後人に伝え育成していくなり、そんな“熊本城&古都タイプ”で生きるのも良し。まったく違うことを一から始める“黒壁タイプ”も良し。培ったものをちょっと違った形で活かす“砂浜美術館タイプ”も良し。

 いずれにせよ、そんな新たな道も、その人がそれまでの人生で得たもの、養ったもの、感じたこと、考えたことが発露する道のつづき。先のNHK連続テレビ「ちりとてちん」で、輪島塗箸の職人であるおじいちゃんをはじめ登場人物の何人かが口にしていたように、「人間も箸と同なじや。研いで出てくるのは、塗り重ねたものだけや。悩んだことも落ち込んだこともきれいな模様になって出てくる」ということでしょうね。