宇野千代さんと言えば、『おはん』『色ざんげ』などの名作を生んだ作家にして、着物デザイナーなど実業家の顔も持つ多才な女性。1998年、98歳で「何だか私死なないような気がするんですよ。はははは
は」と言って世間を驚かせ、その年、大往生しました。恋多く波乱に富んだその生涯は、天晴れなまでに破天荒。恋愛や結婚の相手は文壇デビュー以後でも、尾崎士郎、東郷青児、北原武夫などなどそうそうたる顔ぶれです。
そんな彼女が、晩年、こんな意味のことを言っていました。目の前を仲睦まじく歩く老夫婦を見ていると微笑ましくていいなと思う。人としての本当の姿だと思う。でも自分にはできなかった、と。もちろん、彼女が人生を後悔しているわけではなく、人を高みから見ているわけでもない。ただ、現実をそう受け止めているのだと思います。
大そうな例を引き合いに出しましたが、いろんな地域から伝わってくる「まちおこし」のお話は、故郷を去り、大阪のまちを転々と暮らしてきた私に、宇野千代の晩年の心境に似たものをもたらします。地域の自然・文化を生かしたイベント・観光戦略で沸いたり、“シャッター商店街”が住民の努力で活気を取り戻したり、特許庁が地域名を冠した「地域ブランド」を認めるようになり、その育成に取り組むところも増えてきました。今の私には縁の遠い世界ですが、心からいいな、と思うのです。
熊本でもまちおこしはいろいろ。露天風呂に活路を見出し、癒しの温泉として近年とみに有名な黒川温泉などは、その先輩格になるのでしょうか。また、このサイト「くまもと文化の風」から入手できる、熊本県広報課発行の週刊メルマガ「気になる!
くまもと」には、まちおこしの話題満載。例えば、絶えず流れる音楽を耳に、絵画、舞踏などの芸術が楽しめる上通り・下通りのイベント「ストリートアートプレックス」や、昭和初期の雰囲気が漂い、ギャラリー喫茶やハーブの店など個性的な店が集まる河原町の商店街イベント「河原町リンクスタイル」など、楽しそうですね。
もちろん大阪でも活発です。その一つ、市内平野町の「町ぐるみ博物館」を取材したことがあります。住民が自分の家や店を博物館に見立て、所蔵品などを、披露するもの。ほぼ毎月第4日曜日に開館します。こうした試みは各地に広がっているようですが、その先駆けです。
この平野町の町ぐるみ博物館では、例えば創業約120年という大阪最古の新聞販売店さんの博物館は、丹念に保存されてきた品々に、地域に根づき、日本特有の新聞戸別配達制度を守りながら文化を支えてきた誇りのようなものを感じました。また、昔ながらの町家で歴史資料やノスタルジックな調度品を展示するご夫婦は、なんともうれしそうにあれこれ説明してくれます。人を心でもてなすとはこういうことか、としみじみ思ったものです。
ところで、以前ご紹介した鳥取県境港市の「水木しげるロード」も、仕事で知ったまちおこしでしたが、最近の仕事で知ったのが、高知県の黒潮町にある「砂浜美術館」です。こちらは「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です」のコンセプトが象徴するように、なんと、砂浜そのものを美術館に見立てたもの。豪勢な“箱物”に頼らず、自分たちも楽しみながら自分たちの町を手づくりで元気にしていく。ほんといいですね。砂浜美術館のメインイベント「Tシャツアート展」の作品募集も締め切り間近。興味のある方は、ぜひ下をクリックしてみてください。
さて、件の宇野千代さん。奔放な恋によって逃げ出した故郷、山口県岩国市の生家は記念館になっているようですね。下のサイトのフロントには、「私は、とても故郷に感謝している。人間をつくるのは、故郷なのです」という彼女の言葉が掲げられています。
●平野・町ぐるみ博物館
http://www.omoroide.com/index_em.html
●砂浜美術館
http://sunabi.com/
●宇野千代生家
http://www.unochiyoseika.com/ |
|
|
|
|