Vol.56 うまいもん[2012.4.26]
 熊本弁で言えば「うまかもん」ですね。そう、美味しいもの。海の幸・山の幸。匠の味。

 少し前になりますが、あるデパートの催しで、熊本の「うにコロッケ」が紹介されていたので買って食べました。うにという高級食材と、庶民の味といわれてきたコロッケ。そのミスマッチというか、意外な出合いがいいですね。食したのは、とろっとしたうにが、ジャガイモベース、サツマイモベース、ご飯ベース(リゾット)ベースに溶けあった3タイプ。どれも本当に美味しゅうございました。

 添付の、これまたとろっとしたうに風味のソースが絶品で、これをコロッケにかけて食べるので「うに度」もアップ。このソースは、スパゲッティなどの料理に使っても美味しそうです。

 大阪のおばちゃんは、特にこうした食品の展示販売場となると、ほんとに容赦ありません。私の前に並んでいた彼女らは、「ソース、ほんまにちゃんと入れてくれたん!? 見てへんやったから」「袋な、大きい方、欲しいねん!!」などなど、楽しい(?)一言を添えて買っていました。

 うにコロッケのうには、天草の海の恵み。そういえば、もう7年ほど前になりますが、このコラムVol.8 <鱧(はも)>の鱧も天草産でしたね。「ここは海が浅かけん、太陽の光ば届いて黄金になるわけたい」と天草産の鱧自慢をしていた漁師さん。鱧であれ、うにであれ、豊かな漁場、豊かな自然があってこその美味なんですよね。

 そういえば、こちらの三重県では「美(うま)し国おこし・三重」という地域づくりが行われておりまして、三重を美し国とするのは、アップされている県の資料によると、『日本書紀』の中で、伊勢国が「うましくに」と記述されていることに由来します。

 少し脱線しますが、「美」は「うま(し)・うま(い)」とも読むわけでして、辞書にもあるように「美い」「美味い」「甘い」「旨い」は、み〜んな「うまい」と読んで「おいしい」といった意味であるわけでして、同じ「うまい」でも「上手い」「巧い」と書いちゃうと、上手(じょうず)とか優れているとかの意味になるわけでして……なにやら日本語の曖昧さ・融通無碍さを感じますが、要するに、「美い」は「よい(良い)」ということになります。

 で、「美(うま)し国おこし・三重」ですが、県の資料は、こう言っています。「『美し国』という言葉には、伊勢国が永久の理想郷とされる「常世(とこよ)」に隣接する、「心の満たされる地である」という意味も含まれていると言われています。つまり、『美し国』とは、海や山の自然に恵まれ、また、心が満たされる、まさに、人が暮らすのに『理想的な地域』であると言うことができるのではないでしょうか」と。

 伊勢国に限らず、『万葉集』では「…うまし国そ あきづ島 大和の国は」と大和地方が歌われていますし、伊勢や大和に限らず、四季折々の自然が恵む日本国全体が素晴らしいでしょうし、日本に限らず、多様な生命が息づく地球という惑星自体が素晴らしいでしょうし……と話は大きくなってしまうのですが、自然の恵みがあっての人間なわけですよね。

 震災と原発事故後の日本のことや、食料自給率が低くて廃棄食料(食品ロス)が多い日本のことや、にわかに地球寒冷化が論じられ出し、食糧・資源問題が深刻化しそうな地球のことを考えると、こうしてうまいもんを食べられることが、とてもありがたく、幸せで、ほんともったいない、と思うのです。


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