『シガケイコのトキめく映画音楽講座』、先週が最終回でした。10月頭に始まって週1回、最初はまだ暑くて室内はクーラーが入っていましたが、あっという間に全10回のコースが過ぎ、すっかり寒くなりました。
講師・志娥慶香さんの簡単なプロフィールを、このコラムのバックナンバー
第613回に第1回目の講座の概要とあわせて書いていますのでご覧ください。
映画音楽講座、というタイトルが付いていますが、音楽、作曲の専門的な話ではなく、サイレント映画(音楽は生演奏)の時代から始まり、その後サウンド版(音楽だけあり、セリフは字幕のみ)、そして音声付きの映画(しゃべる映画=トーキング・ピクチャー=トーキー)へと進化していく映画の歴史を追いながら、その時々の代表的な映画を例にとって映画と音楽の係わりを解説して頂きました。
そして最終回は「映画音楽作曲実践」というテーマ。会場に電子ピアノがセットされ、志娥さんが実際に音楽制作に係わった映画「NOT
LONG AT NIGHT」を例にとりながら、映画音楽が生まれる過程をライブ実演して頂きました。
音楽無し(音楽以外の環境音はあり)の5分間程の場面を会場のスクリーンに映しながら、実際に志娥さんが映画音楽を創っていくステップの実演でした(実際の映画制作でも、監督からこの段階の映像を受け取って音楽を付けていくそうです)。
この映画は、若い女性(主人公)が、様々な葛藤や不思議な運命の中で、道端にキーを付けたまま停まっていた車の運転席に一人乗り込み海に向かいます。その道の途中で様々な人や出来事、風景に出会い、最後にたどり着いた海から人生の何かを感じ取る、という?不思議なストーリー(あくまでも私の解釈ですが)。
この映画の中から、今回の講座で映画音楽制作の実例として取り上げられたシーンは次の部分です。
主人公の女性が海に向かう道の途中で車を停め、スマホを触り、何かを決意したような表情で目を上げる。そしてふと運転席横のボックスを開けると一冊の緑色の手帳が入っている。手帳を手に取り中を開こうとする女性。その時、車の外から聞こえてくる犬の吠え声。女性は手帳をそのままボックスの中に戻してドアを開け、犬の声がする方へ向かって歩き始める。少し進むと、鎖に繋がれた2匹の犬が彼女の方を向いて激しく吠えている。その様子をしばらくじっと見ている彼女の表情。やがて視線を上げてまた車の方へ戻って行く。車に戻ると、おもむろに左手薬指の婚約指輪を外して視線を上げる……。
以上のシーンです。これにどんな手順で音楽を付けていくのでしょうか。
まず、映像を観ながら、場面の展開や登場人物の仕草、表情、視線の動きなど、ドラマの展開に係わるポイントを言葉で書き出していきます。
この例では、
@ 停めた車の中でスマホを触り、その後視線が上がる→(彼女が何かを決意)
A 緑の手帳を手に取る→(これ何? と観客に思わせる)
B 犬が激しく吠える→(緊張感が高まる)
C 犬をじっと見つめている表情→(心の変化がある)
D 指輪を外し視線を上げる→(再び決意)
このようにしてポイントを書き出し、次にこのポイントをベースに主人公の感情の変化を表現する音楽を創る、という実例を電子ピアノで実演して頂きました。
例えば、
A緑の手帳のシーン→不気味なアクセントになる音。不協和音。
B犬の吠えるシーン→緊張感を出す音。ストリングスの重低音がズーンと聴こえてくる。
C主人公の心の変化→ここでテーマのメロディーが聴こえ始める。
テーマは、切なくモノ哀しい中に女性らしさが感じられるメロディーにしてみましょう、ということで映像に合わせて即興で弾いて頂きました。
それを聴きながらノートにメモメモっ! 私には絶対音感はありませんのでキーはハッキリは分かりませんが、相対音感?で何とか階名をつかんで走り書き。手書きで五線を引いて音符にしてみました。はい、それがこれです。
あくまでも私の耳コピーですので、実際に志娥さんが弾かれたのとは少し違うかも知れません。特に最後の2小節はもっと細かく音が動いていたような。
でも、後日ピアノで弾いて確認してみたら、それなりの雰囲気に聴こえなくもありませんね(笑)。
ま、それはそれとして、映画音楽制作の現場をチラッとでも覗かせて頂いて大変参考になりました。
私は本格的な映画音楽制作に係わることはないと思いますが、このところ「物語と音楽」にはこだわっています。自分のライブでも語りを入れたり、また朗読に音楽を合わせたりもしますので、そんな時は同じような発想が使えるのかな、と思いました。
(続く→原則毎週火曜日更新)
an弾手(andante)
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