朝、目が覚めたら、頭の中に「ひまわり」のメロディーが流れていました。そう言えばずっと夢の中でも鳴っていたような。
前の日、あるライブレストランであった熊本復興支援コンサートに行った帰り、車を停めていた駐車場に向かう途中でホテル日航熊本の中のラウンジ前を通り掛かったのですが。
「あ、土曜の夜はここで知り合いのピアニストの人がラウンジピアノを弾いていたっけ」
そう思ってピアノの方を覗いてみたら。ピアノの蓋は開いていますがピアニストの姿はなし。
「ちょうど今、休憩時間かな?」
そう思った瞬間、ピアノ近くのテーブルにいた別の知ってる人と目が合いました。
「あ、今日はどうしたんですか?」
そう聞いたら
「今日はいつものピアニストの代わりに私が演奏やってるんです」と。
なんでもいつもの人は別の用事があって、今日は代役を頼まれたらしい。
「そこの席、いいですか?」
そう言ってラウンジに入り、ちゃっかり同じテーブルに掛けさせてもらいました。
懐かしい。もう10年程も前になるかな。その頃、夜の街に出るとよく足を運んでいたあるクラブで、いつも素敵なピアノ演奏をしていた女性ピアニストさん。私も自分の本が2〜3冊出版された頃で、あちこちで飛び入り演奏に励んでいたなぁ(笑) 当然そのクラブでもその専属ピアニストさんの演奏の合間にちょっと弾かせてもらったり、そのピアニストさんと軽く言葉を交わしたりしていました。もちろんプロの演奏は素晴らしく、いつも聴き惚れていたものです。
その後、私はどちらかというとライブ系の店に行くことが多くなり、そのクラブにもずっとご無沙汰でした。
「あそこでは今もピアノ弾いてるんですか」
「はい、今も弾いてますよ。あ、そう言えばあの店のオーナー代わったの知ってます?」
「え?そうなんだ。知らなかった。もうずいぶん行ってないし」
ちょっとした時の流れを感じました。
そうこうしているうちに、次の演奏タイムになったらしく、彼女はピアノの方へ。
暖かい照明と高級な雰囲気が漂う広いホテルラウンジ。あちこちのシートで幾組みものお客さんが会話を交わしています。私は久し振りに聴く彼女のピアノに耳を傾けました。このような場にふさわしい、ゆったりと心地よいお洒落な音色。さすがです。
約30分、演奏タイム終了。彼女がまたテーブルに戻ってきました。と、そこでひと言。
「どう? ちょっと弾いてみませんか?」
「え? いきなり私が? 大丈夫かなぁ。ホテルの人に叱られませんかね」
「大丈夫ですよ」
という訳で。
ま、お前もどうせそのつもりだったんだろ? と言われそうですがぁ(笑)。
このホテルラウンジで弾かせてもらうの、数年振りの2回目かな。
曲はいつもながら、こんな突発演奏時の切り札(?)ダニー・ボーイ(おいおい、またか)。
さっきまで彼女の優しいピアノサウンドが流れていたので、その雰囲気やこの場の空気を壊してはいけないと思い、ついゆっくり優しく、を意識し過ぎたようで所々音が飛んじゃったみたいだったけど。
弾き終わって席に戻ったら
「素敵でしたよ。気持ちが伝わってくるようで癒されました」
とフォローしてくれました。
やがて彼女のラスト演奏タイム。
再び優しいピアノサウンドに浸らせて頂きました。細かい所はそのままマネ出来なくても、この全体的な雰囲気は盗まなくっちゃ、と心に刻むつもりで聴いていました。そしてこれがいよいよラストの曲、というところでサプライズ!?
「あ、あの曲だ!」
10年ほど前に行っていたクラブで彼女がいつもラストに弾いていた曲、「ひまわり」。
実は私もレパートリーにしていて、拙著「コードで弾く憧れの洋楽スタンダード」(ドレミ楽譜出版社)にもラストに入れている曲です。それでも10年振りに聴く彼女の「ひまわり」は、当然私のアレンジとは全く違い、別の曲を聴いているようでした。私も、自分の「ひまわり」の雰囲気をまた少し工夫してみようかという気になりました。
その日も、たくさんの新しい刺激に感謝です(あ〜、その夜は夢にまで出てきたし)。
ピアノって、理論や技術だけでなく、こんな『雰囲気を読む。ストーリーを奏でる』というのも大切なんですよね。
(続く→原則毎週火曜日更新)
an弾手(andante)
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