成人のピアノ教育に関する研究論文を頂きました。
大阪で大人専門のピアノ教室主宰のほか、阿倍野近鉄文化サロンやよみうり文化センター堺のピアノ講師、進学塾非常勤講師をされている三上香子先生です。拙著「2週間速習ピアノ講座」(講談社)を、大阪教育大学の図書館でたまたま目にされたのがきっかけでメールを頂くようになり、ご自身が配信されているメルマガも読ませてもらうようになりました。そんな三上先生が、大阪教育大学の堀薫夫先生と共著で成人のピアノ教育に関する研究論文を書かれたとお聞きし、興味があったので特別に送って頂いたのでした。
まず表紙を見てビックリ! はい、そのタイトルがこれ。
「アンドラゴジーの視点から見た成人のピアノ教育における学習指導に関する研究」。
うわっ、難しそう! アンドラゴジーって何?
そして中を開いてタジタジ。文字が小さい〜〜〜(笑) いえ、単に小さい文字が見えにくくなっているという、おじさんの個人的な理由なんですが。
ま、それはそれとして、論文の中身は?
私が表紙でいきなり挫折しそうになった「アンドラゴジー」という言葉は、読んでみたら何となく分かったような…。ギリシャ語で成人を意味するanerと、指導を意味するagogusが合成された造語で、「成人教育学」という意味らしい。成人のピアノ学習者へのピアノ指導に、成人の特性を活かしたアンドラゴジー論の適用の可能性を検討した研究だそうです。
……と、今回のコラム、固い話になりそうだなぁ(笑)
いえ、それでもあえて今回この話を書いてみようかなと思ったのは、私がこれまでこのコラムや自分の本の中で散々書いてきた「大人のピアノの楽しみ方」、みたいなものと結構共通するところがあって、「そうそう、そうだよね〜」と嬉しくなったからなんです。
私はもっぱら自分の体験をベースに、実体験としての大人のピアノの楽しみ方を語ってきてますが、この論文ではピアノ指導者の立場から同じことを考察されているんですね。実際に現役のピアノ教師の人達にもアンケートやヒヤリングを行って、成人に対するピアノ指導の在り方を考察されています。
このコラムではその詳しい内容のご紹介はスペース的にも無理ですが、共感する部分がたくさんありました。そして、世の中のピアノ指導の先生方と成人のピアノ学習者が、同じ方向を向いて取り組めたら、きっと楽しい大人のピアノワールドが広がるだろうなぁ、と妄想した次第です。
論文を読んだ後で三上先生にお送りした私の感想文の中から、一部を引用してみます。
アンドラゴジー論のピアノ教育への適用可能性で書かれている
@学習者の経験の役割
A学習への動機づけ
の部分で思った事ですが。
まず、ここで言われている「経験」ということですが、論文の中で多く触れられている「経験」とは、学習者のこれまでの人生の中での「ピアノの経験」を中心に語られているような感じがしました。私も成人学習者のこれまでの「経験」というのはとても大きな意味があると思っていますが、私がイメージしている「経験」とは「ピアノ経験」よりむしろ「人生経験」の方です。
過去の経験、現在進行中の生活(今をどう生きるか)、そしてこの先の自分の人生をどう生きたいか、みたいなものが成人のピアノ学習の動機や目的の中に深くかかわっているような気がします。本人がはっきり意識しているかどうかは別にしても。
それは論文の、A学習への動機づけ、の中で書かれているように、
「何ゆえに成人が改めてピアノ学習に向き合おうとしているのか、この点への省察が求められているのである。」
という部分に集約されていて、とても納得した次第です。
もしかしたら学習者本人もはっきり自覚していなくても、深層心理の奥にはそれがあって、指導者がそれをうまく引き出し共有していくことが大切なんじゃないかな、という気もしました
すみません、ここだけ読まれても話の全体像が見えないかもですが。
私は拙著「大人のピアノ入門」(講談社+α文庫)のあとがきで、次のようなことも書いていました。
『…しかし、大人には大人にしかない大きな「武器」があります。それは、これまで生きてきた「時間」、喜びや悲しみを数多く重ねてきた人生経験。そして、自分の中の「ピアノを弾きたい!」という強い思い。それだけあれば十分です。たとえプロのピアニストにはなれなくても、暮らしの中で折々の心の機微を奏でる、人生のピアニストにはなれるはずです』
人生のピアニスト……。指導者と学習者が一緒になって、そんな夢のような夢が実現したらいいなあと、夢見ています(笑)
(続く→原則毎週火曜日更新)
an弾手(andante)
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