第451回「電子ピアノと生ピアノの違い(使い分け)」

[2013.6.11]

 28ヵ月振りでした!
久し振りに我が家のピアノの調律をしました。もう1年以上前から「調律しなければ」と思いながらも、清和での演奏やら熊本県立劇場での演奏やら知り合いの結婚披露宴での演奏の準備(練習)やら、その合間には本の原稿書きの予定を入れていたりして、日曜日を調律で潰すのが何となくもったいない?気がして、調律をお願いするのが延び延びになっていました。
その間、我が家のピアノをちょっと弾いてみたら「何これ!?」って思うくらい変な音になっていて、とても弾く気になりませんでした。では、どうやって自分の練習をしていたのかと言うと、もっぱら電子ピアノ(YAMAHAクラビノーバ)です。
「え?電子ピアノってタッチや音が生ピアノと違うので本格的な練習には向かないのでは?」とお思いの方もいらっしゃると思いますが。
今回はそんな電子ピアノと生ピアノとの違い(使い分け)について、個人的な感想と体験を書いてみようと思います。

皆さまご存知のように電子ピアノと生ピアノではそもそも発音の仕組みが全く違うのでタッチや音が違うのは当然です。電子ピアノのメーカーとしては色々な開発テーマがあると思うのですが、大きく言えば、
@ いかに生ピアノに近付けるか(タッチと音)
A いかに生ピアノから離れるか(生ピアノには出来ない機能を盛り込む)
の2つではないかと思います。Aの生ピアノには出来ない機能とは、たくさんの音色を使い分けられたり、音の高さを変えられたり、録音再生が出来たり、デモ演奏が出来たり、ディスプレイに楽譜を表示して鍵盤と連動させたり、デジタルデータでパソコンや他の機器とデータのやり取りが出来たり色々ありますが、今回のコラムのテーマはそちらではなく、@のタッチと音についてです。

実は私が最初に触り始めたのは娘のために買ったクラビノーバでした。その後、コード奏法を習いにライブバーに行くようになってから、自宅のクラビノーバとレッスン先のグランドピアノとのタッチの違いに戸惑って、3ヵ月目に早くもグランドピアノ(中古)を買ってしまったのでした(その後YAMAHAのC3Lの新品に買い換えました)。
でもそれから、少しずつ他の夜の店でも弾かせてもらったり、ホテルのパーティーやレストランなどで弾かせてもらったりするうちに分かったのは、一口にグランドピアノと言ってもそのタッチや音は1台1台全て違う、ということでした。たとえ自分の家にグランドピアノがあってそれで練習していたとしても、別の場所に行って初めてのピアノを弾くと、その違いにビックリしてしまいます。日頃弾きなれているタッチや音を自分の中で「標準」だと無意識に思っていて、よそでもそのつもりで弾いてしまうからなんでしょうね。考えてみると、日頃弾いているピアノは標準でも何でもなくて、世の中の無数にあるピアノの中の特殊な1台なんですね。ですから、よそで弾く時は「さて、このピアノはどんなタッチ、音なんだろう」って試すつもりで弾き始めると、違いに対する心の準備ができるのであまり戸惑わなくて済みそうです。

私の場合は日頃は夜に練習する事が多く、クラビノーバにヘッドホンを付けて弾いています(そのままだと音が耳元にベタッと付いて違和感がありますが、ステレオシンフォニックというエフェクトを掛けると音が空間から響いてくる感じでとても自然です)。そして音の出せる休日の昼間にグランドピアノを弾いてタッチの違いへの適応練習をします。確かに両者のタッチや音は全く違います。この両者の違いを、どっちが本物?とは思わずに同じ曲を2種類の全く違うピアノでそれぞれ一番良い感じに弾き分けるつもりで弾きます。そうすると、外でまた別のピアノを弾く時も「ああ、これもまたどうせ違うんだから」と開き直れるので、あまり戸惑わずに済むような気がします。
色々なピアノに触れる機会が少ない方は、時々は楽器店などのピアノレッスン室を借りて弾いてみるのもいいかと思います。その日に当たるピアノによって、面白いくらいタッチも音も違いますよ。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

■Q&Aコーナーのご質問を募集しています。
随時、このコラムの中で取り上げてみようと思います。このコラムはコード奏法超初心者から中級の入口位の方を想定していますので、その範囲ならどんな内容でも結構です。メールお待ちしています!
piano-roman@kumamoto-bunkanokaze.com

ちょっと、ひと言。

 今、渋谷の「DJおまわりさん」が話題になっていますね。6月4日サッカーワールドカップ予選でブラジル大会出場を決めた日本代表に歓喜して、たくさんのファンやサポーターが集まった渋谷スクランブル交差点。そこで警備車の上からアナウンスしていたおまわりさん。
「皆さんは12番目の選手です。日本代表はルールとマナーを守ることで知られています。フライングは禁止です。おまわりさん達も嬉しいんです。こんな良き日に怒りたくはありません。チームワークで駅の方にゆっくり進んでください!ありがとうございます!」
絶妙なアナウンスですね。見習いたいものです。

 
−an 弾手−


452「弾手の会、カーサ・クラシカセッションナイトのご報告」

[2013.6.18]

 6月15日(土)休日の朝。熊本の自宅でメールを開いたら…。
深夜の午前1:09に東京「弾手の会」の中島さんからメールが来ていました。
「今夜の赤坂カーサは席がびっしり埋まるほどの盛況で、いろんなジャンルが聴けて素晴らしかったです!」
前々回のコラム第450回でお知らせしました6月14日(金)夜の「弾手の会とカーサ・クラシカセッションナイト」から帰宅されて、興奮冷めやらぬままに深夜のメールを頂いたようでした。
「弾手の会」とは千葉在住の中島さんがこのan弾手コラムを通して呼び掛けられた、大人の音楽(演奏)愛好家の方の集いです。私も数年前に何度か上京して皆さんと一緒にピアノを囲んで楽しいひと時を過ごさせていただきました。今回、中島さんの呼び掛けで久し振りに東京赤坂のライブハウス「カーサ・クラシカ」に集まりましょうということになったようです。

今回、私は参加できませんでしたが、中島さんからのメールを元に当日の様子を少しご紹介してみたいと思います。

今回は弾手の会からは世話役の中島さんの他、以前から参加されている白と黒さん(女性)、ハリマオさん(男性)、それに、今回私のコラムを見て新たにご連絡いただいたMさん(女性)とKさん(男性)が参加されたようです。その他にも沢山のお客さんで店は埋まり、皆さんが順次前に出て演奏を楽しまれたようです。ジャンルもジャズありポピュラーありクラシックあり、演奏形態も弾き語りあり、合唱あり、ハーモニカを吹きながらのピアノ演奏ありと多彩で、特に圧巻だったのは今回初参加のKさん。口笛を吹きながらピアノを演奏するという、日本でも数少ない音楽表現スタイルの「吹き弾き?」でチゴイネルワイゼンを演奏され、店内がブラボーの嵐だったそうです。
もう1人の新規ご参加Mさんもムード溢れるジャズテイストの演奏と歌で、特に「So in Love」という曲が心に沁みた、と中島さんのメールにありました。
中島さん、白と黒さん、ハリマオさんも、久し振りの再会と演奏を楽しまれたようです。今回は来店のお客さんが多く、演奏の順番がなかなか回ってこなかったのがちょっと残念だったとおっしゃるほど、6時から10時までびっしり音楽好きの皆さんで盛り上がった様子が中島さんのメールからも伝わってきました。

「今回は弾手の会発祥のカーサ・クラシカでの久し振りの再会でしたが、新しいご参加の方も増えたこともあり、また改めて会場を貸し切って『弾手の会』の集いを開きたいと思いました。思い出多い原宿表参道カワイのスタジオで盛大な『弾手の会』をプランしたいですね」と中島さん。
また素晴らしい音楽仲間の輪が広がるのを、私も楽しみにしています!
本コラムを見られてご興味がおありの方は中島さんまでお問合せください。

【an弾手からのお詫び】
このコラム第450回で弾手の会のご紹介をした時、連絡先として中島さんのメールアドレスを書いていたのですが、表示のアドレスは正しいのにコーディング上の不具合からアドレスをクリックしてもつながらない(メーラーが立ち上がらない)状態になっていたようです。もしクリックされて接続できずに諦められた方がおられましたら心からお詫び申し上げます。現在のバックナンバー第450回では不具合は解消されています。
念のために、こちらにも再度連絡先を書いておきます。

●弾手の会・連絡先
中島富士夫(千葉市在住 年齢50代)
某外資系証券会社勤務
自宅連絡先メールアドレス
fnakajim@cnc.jp



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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ちょっと、ひと言。

  このところずっと「梅雨はどこに行った?」って天気が続いていましたが、今週は日本各地でまとまった雨が降りそうですね。ここ熊本市は今のところ(6月18日午前中現在)まだ降ってはいませんが、午後から夕方に掛けて降り出しそうです。
激しい雨や災害は困りますが、シトシトと降り続く雨は何となく気持ちが落ち着いたりしませんか? そんな雨の休日など、すっかり茂ってきた庭の緑に滴るしずくを見ていると何だか時が止まったような気がします。これからの季節、しばらく雨を楽しんでみようかと思います。

 
−an 弾手−


453「ボサノバライブの夜。思わぬ出会いに感謝」

[2013.6.25]

 もう日付も変りそうだし、アフターセッションも何組か聴かせてもらったし、そろそろ引き上げるとするか、と席を立ったら。
「あれ、もう帰るんですか!?今から指名しようと思っていたのに!」
司会をしていたKBC(熊本ボサノバクラブ)の会長さんがマイクでそう叫びました。
「あ、ええ、そろそろ…」と私。
「ダメですよ〜。何かやってくださいよ〜!」と会長。
そんなやり取りを見て、
「え?この方も何かされる人なんですか?」と声を上げたのは、その日福岡からライブ出演で演奏に来ていたボサノバグループ『ノバエラ』のシンガー倉光陽子さんとピアニストの緒方公治さん。
「実はこの人はですね〜」と会長の解説が始まりました。

その日はKBC会長から案内をもらって、いつものライブハウスにボサノバライブを聴きに行ったのでした。いつもながら1人で行って一番前の席に掛けたら見知らぬカップルと3人で相席?ちょっと落ち着かないなぁと思いつつ(笑)、それでも後ろのテーブルに来た顔見知りの人と時々振り返って話をしながら、ボサノバ楽しみました。
Vocal & Guitarの倉光陽子さんを中心に、Pianoの緒方公治さん、Baseの民谷利通さんの3人グループ。ギターを鳴らしながら歌う美貌の倉光さんの澄んだ歌声とこぼれるような笑顔のMCに思わず引き込まれながら、私はやはりピアノも気になります。言葉で説明するのが難しいのですが、とにかく軽やかなリズム感や華やかなサウンド、ボサノバ特有(?)のコード感は初めて聴く感覚。すごいテクニックなのに威圧感がなくとても優しい雰囲気で、すっかり聴き入ってしまいました。何か盗みたいとは思ったんですが、とても私が盗める次元じゃなくて、ですね。

2ステージ終ってセッションタイム。KBCのメンバーの人が何人か来ていて、ヴォーカル、ギター、ピアノと次々に飛び入り演奏。同じテーブルのカップルはお帰りになったので、私一人になったテーブルにステージを終えた倉光さん、緒方さんが来てくださって色々と話をすることが出来ました。倉光さんはFacebookをされているらしく、演奏中の写真を私がアップしたことを話したら、その場で早速お友達申請!一人、プロのミュージシャンとお友達になることができました。

ひとしきりお話をして「それでは、そろそろお先に」と席を立ったら。
「あれ、帰るんですか!?今から指名しようと思っていたのに!」
KBC会長の声がマイクから響いたのでした!
「この人、作家さんです。ドレミ楽譜から本を出されているし」
と会長の突然の紹介に
「えーっ、そうなんですか!」と、倉光さん緒方さんがびっくりされた様子。
こんな時に備えて、日頃からすぐ弾ける曲を複数仕込んでおく、というのが最近改めて自分に課した課題ではあったのですが。とりあえずはピアノの前に掛けて軽く自己紹介の後、とりあえずはいつもの「ダニー・ボーイ」。(いい加減、他の曲にしろっ!と声が飛んで来そうですね)
素晴らしい演奏をされたばかりのプロの前でやっぱり緊張してしまったのですが、民谷さんが所々ピアノに合わせて即興でベースを入れて下さいました。弾き終わって席に戻ったら、倉光さん緒方さんがさっきまでとはまた違う空気で迎えて下さいました。
「えっと、ペンネームは何でしたっけ?」と聞かれて、やっとan弾手の名刺を出してご挨拶(遅いっ!)。
「私の本は大人の初心者の人がコードを使って易しくピアノが始められるように、自分の体験を元に書いたものです」
そう言ったら、レッスン講師もされているらしいお二人、
「自分で弾けても、それを人に説明するのってすごく難しいんですよね。その本、レッスンの参考になるかも」
と言って下さいました。嬉しい限りです。

素晴らしいプロの方と親しくお話をして自分の演奏を聞いて頂いて本の宣伝までして(笑)
その夜も、思わぬ出会いに感謝です。



(続く→原則毎週火曜日更新)

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ちょっと、ひと言。

 ボサノバライブで深夜(朝?)帰りの翌日・日曜日。今度は阿蘇まで「はなしのぶコンサート」に出掛けました。「はなしのぶ」とは6月頃に薄紫色の可憐な花を咲かせる野草で、今では阿蘇の一部の草原でしか見られない絶滅危惧種らしいです。コンサートの場所は南阿蘇野草園。はなしのぶに囲まれた林の中で女子高生が弾くマンドリンの演奏の予定でしたが、あいにくの雨で近くの体育館に移動。でも、しっとりと雨に煙る野草園の雰囲気も素敵で、癒されました。

 
−an 弾手−


454「白昼夢のタイムトリップと脳内妄想ピアノ」

[2013.7.2]

 住宅地の路地を右に曲がり、突き当たりから左へ小さな橋を渡ると、右手に広々とした湿地帯が広がります。遠くまでびっしりと葦や青芒(あおすすき)が茂り、所々に顔を出している水面(みなも)には水草が浮かんでいます。

ここは坪井川遊水地。その日、会社の近くでお昼を食べた後、ちょっとここまでウォーキングに来たのでした。この遊水地のすぐ向こうには頻繁に車が行き交う国道3号が走っているのですが、ここだけは忽然と別世界のような自然が広がっています。
この遊水地の中に延びる堤の上を歩く散策路。時々、仕事の合間に時間を見つけてはここを歩くのですが、この風景にはいつも癒されます。今の時期は見渡す限りの緑ですが、春には所々に黄色い菜の花の群生、秋には風にそよぐ一面のススキが白く輝きながら迎えてくれます。

そんな風景の中を歩いていると、どこからか透明なピアノの音が聴こえてくるような…。風の音、緑の光、水の気配。そんな空気の中から湧き出してくるようなピアノの調べ…。あはっ、またまた得意の?妄想タイムか(笑)
私はいわゆるノリノリのピアノにはなかなか馴染めないのですが、静かな癒し系のピアノには心底憧れます。コードでアレンジして弾いていると、どんな曲もいつの間にかそんな静かなヒーリング系の雰囲気になってしまいます。それだと何時間弾き続けても自分で飽きる事はありません。まあ、周囲はハタ迷惑かもしれませんが。

その日も、脳内妄想ピアノを楽しみながら、この広々とした水辺の風景を歩いて行きました。すると、緑一面の中に何やら動く白い影が。卵形の体にスラリと延びた首。シラサギ?水草の中を歩きながら、辺りを見回し、時々首を伸ばして口ばしを水の中に突っ込んでいます。餌を探しているのかな?
彼(彼女?)を驚かさないように少し歩を緩めて、静かに近づいてみました。それでも人の気配を感じたのか、こちらに背を向けて少しずつ向こうへ向こうへと歩いていきます。やがて、パタパタと白い羽を広げて飛んで行きました。この間数分。静かに餌を探していたのに、邪魔してごめんなさい。

でも、お陰で私の脳内妄想ピアノにもちょっとした変化が。最初はどこまでも静かに広がる緑の湿原のテーマ。そこから一転、真っ白なシラサギが登場してサビのような動きのあるテーマに場面転換。やがてシラサギが飛び去った後には、また再び静かな湿原が広がります。でも、そこは最初の湿原とはちょっと違った風景でした。

やがて昼食後のウォーキングも終わり再び街なかの職場へ。いきなり現実に引き戻されます。さっきまでの事がどこか別世界の出来事のようです。あれ、あの湿原とシラサギの世界、ほんとに見てきたんだっけ?それとも…白昼夢?
でも心に残っている脳内妄想ピアノの調べが、確かに自分がさっきまであの風景の中を歩いていたことを語ってくれている…、そんな気がします。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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ちょっと、ひと言。

 もう7月なんですね。気が付けばあと1週間もしないうちに七夕!?少し前からネットでもよく笹の葉とか短冊への願い事とかいう話題が飛び交っているのを見て、「何で今頃?気が早いこと」と思っていたのですが、冷静に考えるともうそんな季節だったんだ(いや、冷静に考えなくても分かるだろっ)。
今日の熊本はくすんだ空から薄明るい陽が射していますが、まだまだ梅雨は続くようで。年に1回のランデブー、無事に逢えればいいのですが。

 
−an 弾手−


第455回 Q&Aコーナー

        「簡単なコード付けの方法は?77歳の主婦の方より」
[2013.7.9 ]

 拙著「パパも弾きたいピアノ入門」(ドリーム・ミュージック・ファクトリー刊)の読者の方からメールを頂きました。東京にお住まいの、77歳の主婦、とおっしゃる方です。嬉しいです。確かに、本のあとがきに「ご感想、ご質問などがありましたらan弾手までお気軽にお寄せください」と書いているのですが、実際に本の著者にメールを出すというのはなかなか勇気がいることだと思います。私だって逆の立場だったらそう感じますし。
でも、これまでにもこうやって「ピアノ」をキーワードにお互いの気持ちを伝え合える方とのご縁をたくさん頂いてきました。本当にありがとうございます。
今回はご質問の内容がこのコラムの読者の方にも何かの参考になりそうなので、ご本人のご了解を頂いてこの「Q&Aコーナー」でご紹介させて頂きます。

(以下、頂いたメールです)
はじめまして。
東京の77歳の主婦です。幼稚園から高校まで楽しくピアノを弾いてきました。40代にまたちょこっとエレクトーンを弾きましたが、そのあとはゼロです。
今年に入ってピアノが無性に弾きたくなり「すぐ弾ける、初めての久しぶりの大人のピアノ・永遠の映画音楽編」(片岡博久著)というのを買ってきました。映画音楽なら大好きなので弾けると思ったのです。
でもメロディーの部分と伴奏の部分、別々には何とか弾けるのですが両手同時となるとまったくお手上げです。それでいったんはピアノを諦めたのですが、とうしても諦められなくてまた楽譜を探しに行ってan弾手さんの「パパも弾きたいピアノ入門」に出会いました。今「大きな古時計」まで弾けるようになりました。

それで、お教え願いたいことは次のようなことです。
コーラス部に入っておりますので菅野よう子さんの「花は咲く」を歌っております。したがいましてメロディーは弾けるのですがコードのつけ方がわかりません。
一番簡単なコードのつけ方をお教え願えないでしょうか。
(以下、an弾手からの返信)
メール、ありがとうございます!
拙著「パパも弾きたいピアノ入門」手にしていただいたとのこと光栄です。こうして、全国の見知らない方々とピアノを通して同じ思いの輪が広がっていくのが嬉しいです。

さっそくですが、ご質問の件です。
コード付けについては「パパも弾きたいピアノ入門」では具体的に触れていません。というのも、本書のレベルを少し超える、次のステップの話になりますので。
ただ、その導入として57ページからの「コード進行の不思議」という章を設けています。その中でダイアトニックコードとコードの機能(主要3和音と代理和音)の働きを解説していますので、まずはこれを理解してください。これが分かると、基本的なコード付けはすぐ出来る様になります。
曲のコード進行は、もっともシンプルな形がトニック(T)→ドミナント(X)→トニック(T)という進行です。いまなさっている「花は咲く」のKeyが何か分かりませんが、もしKey=F(ヘ長調)であれば、トニック(T)がF、ドミナント(X)がCですから基本はF→C→Fというコード進行になります。
とにかく曲の最初をFで始めて、フレーズの切れ目で一旦Cになり、また次のフレーズの始まりがFで、を繰り返し、曲の最後の一つ前がCになって最後はFで終わります。つまりF→C→Fの繰り返しです。
実際はその途中に別のダイアトニックコード(Key=FならGmとかB♭とかDmなど)を使って変化を付けます。とにかく、その曲のKeyのダイアトニックコードのどれかを当てはめてみて合いそうだったらそれでOK、何か違うと思ったら別のコードを試してみる、で、大体うまくいきます。
ちなみに61ページに書いていますがKey=FのダイアトニックコードはF、Gm、Am、B♭、C、Dm、Em(♭5)です。この7つのコードのどれかを当てはめればそれで決まります。もし、Keyが違う場合は、そのKeyのダイアトニックコードを書き出してみてそれを使ってください。各Keyのダイアトニックコードの作り方は57ページのKey=Cの場合のダイアトニックコードの作り方にならって、そのKeyのスケールの音の上にそのスケールに出てくる音を重ねて和音にすればOKです。

と、文章だけで書いても分かりにくいですね。すみません!
どうか、57ページからの解説(図)と、このメールに書いたことを読み返して頂いて、後は実際に鍵盤上でコードを当てはめて試してみて、変だと思ったら変える、合ってると思ったらそれでOKです。大きな流れとしてトニック(T)→ドミナント(X)→トニック(T)のコード進行さえきちんと入っていれば、その他は人によって好みによって変わっても全然問題ありません。

実際にやってみられて、また何かありましたらいつでもメールください。ありがとうございました!
(以下、再度ご質問のメール)
先生、早速お返事をいただきまして恐縮いたしました。これからお手紙をプリントアウトしてじっくりと勉強いたします。
ちなみに「花は咲く」は第3線にフラットがついておりますので、F=へ長調です。
(中略)
ところで、東京にシニア初心者のための「an弾手の会」のようなものがありますでしょうか。メールの会でもいいのですが。一人よりもお仲間と励ましあって弾くほうがより楽しいと思いましたものですから・・・。
(以下an弾手より返信)
こんにちは。
東京の「an弾手の会」のようなもの、とのことですが、まさにおっしゃるような「弾手の会」という会があります。あまり頻繁には集まっておられないようですが大人のピアノ(以外にもギターやウクレレ、ライアーなど)の愛好家の方が連絡を取り合って、時々、赤坂のカーサ・クラシカというライブハウスで演奏したり、たまにはピアノスタジオを貸し切って交流会を開いておられます。私も2〜3度、熊本から上京して参加させて頂きました。皆さんとてもいい方ばかりでアットホームな雰囲気ですよ。
たまたま最近も集まられたようですので、その様子を私の連載コラム「an弾手のピアノ奮戦記」に書いています。
下記からご覧ください。
世話役の方は中島さんとおっしゃる50代の男性の方で連絡先メールアドレスも下記のページ内に書いてあります。
http://www.kumamoto-bunkanokaze.com/andante/andante45.html#450
http://www.kumamoto-bunkanokaze.com/andante/andante46.html#452
ご参考にされてください。
それでは、またそのうちに、近況などお聞きできるのを楽しみにしています。
ありがとうございました。
an弾手



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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ちょっと、ひと言。

 暑〜〜〜っ! 梅雨が明けたと思ったら、いきなりの猛暑ですね。皆さまいかがお過ごしでしょうか?
こんな日、昼間会社にいる間はエアコンのお陰でなんとかいいのですが、打ち合わせ等で外出する際、屋外の駐車場に車を停めると大変ですね。しばらくして車に戻ると灼熱地獄です(笑)。熱中症にならないようにしっかり水分を摂らねば。
まだまだ夏は始まったばかり。先が思いやられますが、ま、出来ることから着実に、この夏も乗り切っていきたいものです。

 
−an 弾手−


第456回 「ドゥ・アート・スペースでの素敵な出会いに感謝」

[2013.7.16]

 初めて入ったお洒落なお菓子屋さん。その日は7月7日の七夕ということでしょうか、女性の店員さんがみんな浴衣姿で迎えてくれます。ショーケースの前を過ぎると丸いテーブルが幾つか並んだカフェコーナー。その向こうには数メートル低くなったフロアから高い天井まで、ポッカリと広〜い空間が広がっています。ゆるい階段を下りると、床にたくさん置かれた不思議な木の彫刻。奥にはグランドピアノ。

ここはお菓子の香梅・帯山店のドゥ・アート・スペース。香梅さんの紹介チラシから引用すると…
『絵画、音楽、造形などの芸術とお菓子の世界が融合し、新しい文化を創り出す場所。それが香梅の「ドゥ・アート・スペース」。お菓子の販売、カフェスペースに加え、芸術を自由に表現できるギャラリースペースを併設いたしました』
とあります。
その日は、そこで開催されている田中章さんという方の『チェーンソーアート展』でBGMピアノを弾いています、というピアニスト山口りえこさんからのご案内で来てみたのでした。山口りえこさんは、本コラムバックナンバー第389回「海辺のカフェテラス」でもご紹介していますが、オリジナルのピアノ曲でCDを2枚も出されているピアニストです。

会場に入ってまずビックリしたのは展示してある彫刻。太い1本の丸太から削り出された鳥や動物達の躍動感溢れる姿でした。チェーンソーアートという言葉も初めて聞いたんですが、なんと山林の伐採作業で実際に使われているチェーンソーを使ってこの姿を彫り出していくんだとか。全体のプロポーションはもちろんですが、筋肉の細かな動きから鳥の羽ばたき、動物の毛並みまで実にリアル。チェーンソー1本で削り出しているとはとても想像が付かない作品群でした。彫刻実演中の写真もありましたが、森林組合所属の田中さんが山仕事のスタイルで帽子、耳カバー、サングラスを掛けチェーンソーを構えて丸太に向き合う姿は、カッコいい!のひと言でした。

と、そこに流れてきた心地よいピアノの音。山口さんの演奏が始まったようです。ご自身のヒーリング系オリジナル曲。私も山口さんのCDは持っているので聴いたことはあるのですが、こうしてこんな素敵な空間で聴く生演奏はまた格別です。それにここの高い天井に音が美しく広がり微妙な時間差で反響して耳に届く感じが、本格的なコンサートホールで聴くような音響効果を彷彿とさせてびっくりしました。

会場には田中さんや山口さんのお知り合いらしいお客さんが三々五々やって来られて彫刻作品を見ながら山口さんのピアノに耳を傾けています。
やがて、ピアノから立って来られた山口さんがお客さんと挨拶を交わしながら、私にも皆さんを紹介して下さいました。元消防音楽隊指揮者の方とその奥様、インテリアコーディネータの方、絵画教室の先生、等々。あ、やっぱり皆さん何か芸術に関係のある方が多いんだ。

と、突然、山口さんが私に向かって言いました。
「どうぞ、ピアノ弾いてください」
(えっ、こんな会場で私に?)
…と書いてしまうと、今これを読まれている方の中には『おいおい、どうせ自分も弾くつもりで行ったんでしょ。何ぶりっ子してるの?』と思われる方もいらっしゃるかもですが(笑)
いやいや、その日どんな会場でどんなシチュエーションで山口さんが弾かれているのかも分からずに来たので、多分私に振られる可能性は低いだろうとは思っていたのですが。もっとも、その可能性がゼロではないかも?というのは、確かに心のどこかに御座いましたのは事実ですが。
そんな時のために、最近はいつでも弾けるレパートリーリストのメンテナンスを課題にしているan弾手で御座いますので〜。

ピアノの前に掛けると、とりあえずはいつもの「ダニー・ボーイ」で指慣らし。続いて、結構ご年配のお客様もいらっしゃるので、しっとりと日本の叙情歌で「花かげ」。そしてもう一曲「オーバー・ザ・レインボー」、と3曲続けてしまいました。

そして、続いて山口さんの演奏がひとしきりあった後、またまた…
「はい、次、弾いてください」
(えっ、また!?)さっきの私のピアノを聴かれた後で懲りずにまたまた私に振って下さるとは。とりあえず合格点?ありがたいことです。
今度は「ひき潮」「ひまわり」「五番街のマリーへ」の3曲弾いてみました。

その後山口さんの演奏があって…。
「では、次、またどうぞ」と山口さん。
(えっ、何だか山口さんとan弾手の2人リサイタル状態になってきたぞ!?)
今度は「ムーン・リバー」にしてみました。

その後、お客様が増えて店の来客用駐車場が満車になったらしく、店の方から裏の業務車両駐車場への移動のお願いがあったので、私はそろそろおいとますることに。
素晴らしいチェーンソーアートとの出会い、山口さんにご紹介いただいたお客様との出会い、そして、素敵な空間でピアノを弾かせて頂いた今日の出会いに感謝しながら、お店を後にしたのでした。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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ちょっと、ひと言。

 昨日7月15日(7月第3月曜日)は「海の日」でしたね。いよいよ本格的な夏になって各地で海開きも始まるし、家族で海水浴でも楽しみましょう、っていう位の意味かな、と思っていたら。この海の日、実は結構大層な意味があったんですね。国民の祝日に関する法律によると「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う」ことを趣旨としているそうです。最近の近隣国との海洋問題なども考え合わせるとなかなか深い?
ま、とりあえずは夏の海を楽しみながら海の恩恵に感謝しますか。

 
−an 弾手−


第457回 「ひまわりが咲いた夜」

[2013.7.23]

 その日、街なかへ向けて運転していた車のカーラジオから、こんな会話が流れてきました。
「日本で初めての気象観測静止衛星が打ち上げられたのが今から36年前の今日、7月14日でした。その衛星の愛称が『ひまわり』です」
(へぇ、そうなんだ。確かに『ひまわり』って名前、テレビの天気予報なんかでもよく耳にするよね。あ、そうだ!このネタ、今夜使えるかも!)

その日、私が向かった先は…。
10数年前、やはりカーラジオがきっかけでピアノコード奏法に出会い、それまであまり縁がなかったライブハウスや夜の街徘徊(?)に目覚めた私。そんなライブの店で時々顔を会わせるようになった一人の男性がいました。彼もその頃ピアノを触り始めたらしく、時々店のピアノを弾かせてもらっているのを見掛けたことがありました。
それから時は流れ、彼とはあまり会うこともなかったのですが、最近はあるバンドに所属して定期的にライブをこなしているといううわさを風の便りに聞いていました。
その彼が、なんと!自分で手造りのピアノバーをオープンするというじゃないですか!
ピアノバー『ハート・ムーン』。オープンの7月14日、私もお祝いで駆け付けたのでした。

熊本市のオシャレなブティックなどが並ぶ、通称シャワー通り。その一番奥に彼の店はありました。この手の店は大概、窓も無いようなビルの地下や奥まった所にあるのが多いのですが、ここは違いました。通りに面した一階で、広〜いショーウインドゥのようなガラス張りから店内がスケルトン。オープン予定の19時にはまだ少し時間があったのですが、店の近くまで来たらリハーサルをやっているらしいドラムやサックスの音が、まだ夕暮れの明るさの残る通りまでガンガン響いているじゃないですか。これだったら初めて来ても店の場所すぐ分かるよね(笑)

店内はすでに沢山のお客さんで賑わっていました。全て彼の手造りという内装は、ハッピーな心を届けたい、という彼のコンセプトに従って華やかなレインボーカラーをあしらった装い。店内数ヵ所に巡らせた客席カウンター、小さなグランドピアノ型テーブル、バックライト付きボトルケース、壁の漆喰、天井照明など、彼がDIY店で材木1本1本買ってきて鋸で切って組み立て、ペンキを塗って仕上げたらしい。床を開けて配水管まで自分で施工した、というのには感心というよりちょっと心配も(笑)

でも、何はともあれ、おめでとうございます!当面、彼と男性バーテンダーの2人でこの店からハッピーを届けていきたいという思い、店内に溢れていました。

その日は彼が所属するバンドのメンバーが本拠地の八代から駆けつけてきていきなりのライブ全開です。お客さんもほとんどが顔見知りのミュージシャンで、入れ代り立ち代り熱の入ったセッションが続きました。

で、メンバーチェンジでちょっと間が空いた時。
「では、ここでan弾手さん、お願いします〜!」との声が。はい、私はバンド演奏の山と山の間の息継ぎタイムピアノでございます〜。

まず『ダニー・ボーイ』を1曲弾いてから、おもむろにマイクを取ります。
「実は、さっきこちらに来る時、車のカーラジオでたまたま聞いたんですが。今日7月14日は日本初の気象衛星が打ち上げられた日らしいですね。そんな日に、ここハート・ムーンのオープンおめでとうございます。あと数年もしたら、7月14日と言えば『ピアノバー・ハート・ムーンがオープンした日です』と、ラジオでも話題になっているかも知れませんね。
ところで、この気象衛星の名前ご存知ですか?そう、『ひまわり』です。
ということで、続いて『ひまわり』、弾いてみたいと思います」

ヘンリー・マンシーニ作曲、イタリア映画『ひまわり』のテーマ曲、“Loss of Love”
暑い夏の宵、店内にも飾ってあったひまわりにちなんだ曲を弾かせてもらったのでした。

ところで、私が「ひまわりを弾いてみたいと思います」と言った時、バンドのメンバーやヴォーカリストが一瞬微妙な顔をしたのが気になっていたのですが。
後で聞いたら、この後バンドでもこの『ひまわり』を演奏する予定だったとか。そうとは知らず私が先にやっちゃった。あの瞬間の微妙な空気、やっと後から意味が分かりました。

でも、その後、バンドでも『ひまわり』をやってくれて、すっかり『ひまわり』が咲き乱れたハート・ムーンオープンの夜になったのでした。



(続く→原則毎週火曜日更新)

an弾手(andante)

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随時、このコラムの中で取り上げてみようと思います。このコラムはコード奏者超初心者から中級の入口位の方を想定していますので、その範囲ならどんな内容でも結構です。メールお待ちしています!
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ちょっと、ひと言。

 昨日7月22日は土用の丑の日でした。うなぎ召し上がられましたか?
最近はめっきりうなぎが減ってしまったそうで、え?絶滅危惧種に指定された?って本当?
我が家では昨日の夕食、思い掛けず「うな丼」がサプライズで登場。びっくりしましたがありがたく頂きました。
という訳で今日は「大暑」。もうずっと前から「大暑」の日が続いて今さらの感もありますが。この後も熱中症にならないように気を付けて過ごしましょう。

 
−an 弾手−


第458回 「真夏の夜。笑顔の出会い」

[2013.7.30]

 「えーっ!あの人とどんな関係なんですか!?」
私はビックリして声を上げてしまいました。
「ええ、あの人は私の伯父なんですよ」
と、その日の女性ヴォーカリストさん。

私が本業の仕事でずっと以前から親しくお世話になっていたある会社の社長さんと、本業とは全く関係ない夜の街の音楽つながりで知り合ったその女性と、私の中では全く別空間の2人だったのですが、人って、どこでどうつながっているのか分かりませんね。
「今日は奥さんが見えるらしいですよ」
その社長の奥様も以前別の会社にお勤めだった時にそちらの仕事で随分お世話になった1人です。しばらくお会いしてないなぁ。
「母も一緒に来ます」
そうか、あの社長が彼女の伯父さんということは、その社長の奥様と彼女のお母さんも身内になるんだ。

その女性ヴォーカリストさん、以前からレッスンを重ねながら発表会その他では随分実績を積んで来たようで、私もこれまで色々な場所で何回も聴かせてもらいましたが、もうすっかり素人の域は越えてるなあと、感心していました。
その日はちょっと高級なそのラウンジで、プロのピアニストと一緒にちゃんとした営業出演。この店では2回目の出演らしいですが、このままレギュラーミュージシャンに名を連ねそうな勢いです。

やがて店に入ってきた女性二人連れ。私の顔を見るなり
「あーら、久し振りです!」
と満面の笑顔で声を掛けて下さいました。噂していた社長の奥様。女性ヴォーカリストのお母様と一緒です。
「こちらこそ、ご無沙汰しています!さっきからお噂していましたよ。社長は相変わらずご活躍の様で!」
すると、社長の奥様、
「それはそうと、この前も新聞に出ていらっしゃったの見ましたよ。もう何冊目なんですか?」
「ええ、お陰さまで7冊目になります」
「えーっ!7冊も!?お仕事お忙しいでしょうに、いつ書いている時間があるんですか?」
「あ、いえいえ、そっちは遊びながらやってますから」
「いつかあなたのピアノも聴かせて下さいね」
な〜んて、私の本やピアノの話にも振っていただいて恐縮です。

それまで1人でポツンと掛けていた私は、話し相手が出来てすっかりなごやかな空気の中でライブを楽しむ事が出来ました。

ライブのステージの合間には彼女も私達と同じテーブルにやってきて話に花が咲きます。
「○○ちゃんが、こーんなに小さかった時から知ってるからね。まさかこんな大人の歌を歌うようになるとはね」
と社長の奥様。
「まあ、こんなんで人様の前で歌って大丈夫かと、いつも冷や汗で」
と彼女のお母さん。
どこのお母さんも、ご自分のお子さんのことはいつまでも心配なんですね。
「いえいえ、立派なものです。大丈夫ですよ、お母さん」
と私が言うと、社長の奥様も
「そうですよ、すごいです。私初めて聴いたけど、こんなに上手だとはびっくりしました。ほら、こーんなに小さい時から知ってるから(笑)」
夜の街のオトナな雰囲気の店で交わされるこんなアットホームな会話も、またいいものですね。

「今度は是非社長もご一緒に」
「そうですね、次は主人も連れて来ます」
そんな挨拶を交わして店を出ると、真夏の夜の歓楽街はまだまだ熱い人並みに溢れていました。



(続く→原則毎週火曜日更新)

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ちょっと、ひと言。

 各地ですごい豪雨になってますね。皆さまの所はいかがですか?豪雨にみまわれている地域の方々には心よりお見舞い申し上げます。引き続きお気を付け下さい。熊本市でもここ数日、時折激しく降ったりしていますが私の身の周りでは大きな被害の話は聞いていません。ずっと雨が降らずにカラカラ猛暑続きと思っていたら、降ったら降ったで今度は「これまでに経験したことのないような」大雨。どうなってるんでしょうね。
さて、ほんとに早いもので明後日からはもう8月。手帳を見たらお盆を挟んでプライベートのイベントも目白押しだし。体調に気を付けながら8月も乗り切りたいと思います。

 
−an 弾手−


第459回 「或星」

[2013.8.6]

 とっぷりと暮れた空。目の前に、荒野のように広がる大地。その向こうにはこんもりと浮かぶ黒い木々のシルエット。
縄文時代人のような衣類をまとった女が2人、こちらに背を向けて黒い闇の向こうへ歩いていきます。
するとその時、2人が向かう闇の空に、点滅する灯りが。かすかなグォーンという爆音とともに現れたのは夜間飛行の旅客機?左上からやや右下に向かって、点滅しながらゆっくりと横切っていきます。それと合わせるかのように、2人の女の後姿も遠い闇の中に消えていきます。

先日観に行った野外劇のラストシーンです。劇団ゼロソー公演「或星」・太田省吾「裸足のフーガ」より。松岡優子舞台生活30周年記念公演群第1弾。
会場は浮島周辺水辺公園ということで事前にチェックしていたのですが、水辺公園の駐車場まで行ってもどこにもそれらしい気配も案内も無く、場所間違ったのか?、公演日間違ったのか?、と不安になりながらも開演時間は迫ってくるし。最後の手段、携帯に登録していた出演者・松岡優子さんの番号に電話しても、むなしく呼び出し音が鳴るだけ。ま、開演時間が迫ってるこの時間、役者本人が携帯電話に出るわけないか、と半分あきらめながら、しょうがない、少し周辺を確認してみようと車に戻り、駐車場から道路に出たところで携帯の呼び出し音。
「こちら松岡の携帯からです。いまお電話されましたか?私、劇団ゼロソーの者です」
聞いたら、駐車場は間違っていなかったみたい。駐車場から遊水池の横の小さな橋を渡り、木の間をずっと右のほうに進んでいくと受付があるそうな。こりゃ絶対分からないわ!
再び駐車場に戻ったら、たまたま顔見知りの人とバッタリ。
「観にこられたんですか?会場の場所分かります?」
「よく分かりませんが、さっき何人かの人があっちの茂みの方に流れて行ってましたから、多分あっちの方かと…」
「じゃ、一緒にいいですか?」
という訳で、何とか会場に辿り着きました!

だいぶ前に松岡さんから「野外劇が出来る場所を探しています。生命感の無いような荒涼とした場所をご存じないですか?」と聞かれたことがあったのですが、選ばれたのがここだったんですね。なるほど何も無い。今、ここに来る時も茂みの中の荒れた小さな道を、不安にかられながら辿って来ましたよ(笑)。ひょっとしてこれも演出の一つ?もう既に劇は始まっているのか?

大きく息を吸い ゆっくりと吐き出す
それから 静かに目を開ける ―――光がさしこんでくる

見える
見える、のは……ひと
たぶん、ひと

たぶん、女 ふたりの、女
昨日生まれ 明日死ぬ
老婆のような ふたりの女……が、いる
立って いる

だとしたら ここは いったい どこ なのだろう
ここは きっと
或星…
(「或星」公演フライヤーより抜粋)

何だか、ピアノと関係のない話しが延々と続いてしまってすみません!
でも自分の中では、自分でピアノを弾くのも、人のライブを聴くのも、演劇を観るのも、気持ちのどこかで一つにつながっているような気がするのです。
そこに一つの空間が広がり、ドラマが生まれ、いつもとは違う世界が見えてくる。そんな体験が、また自分が弾くピアノにも巡ってくるような、あ、いえ、巡ってくればいいなぁと。
自分の本でも書いていますが、ピアノを弾く時は映画監督になったつもりで。音符の表面的なコピーではなく、その曲に込められた想いを自分なりに解釈しながら、映画監督になったつもりで一つのドラマを創っていくと楽しいですね。
何だろうと思わせるオープニング(この日、会場に辿り着くまでの不思議な困惑?)、いくつかのエピソードやクライマックス(次第に陽が落ちて行く荒野に繰り広げられた、たくさんのドラマ)、そして思い掛けないラストシーン(正面の夜空に流れた夜間飛行の灯り?)。

そんなドラマを見せられると、無性にピアノが弾きたくなるan弾手なのであります(笑)



(続く→原則毎週火曜日更新)

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ちょっと、ひと言。

 8月最初の火曜日ですが。なんと、明日は立秋ですよ!
実はだいぶ前から調子が悪かった我が家のエアコン、毎日暑い暑いと言いながらこの猛暑の夏を過ごし、やっと新しいのに取り替えたのが昨日。そしたら明日はもう立秋だって!(笑)
いやいや、暑さはまだまだ続くから、と無理やり自分を納得させております。
明日からは残暑お見舞い?まだ続きそうな残暑ですが、皆さまもどうかご自愛ください。

 
−an 弾手−


第460回 「中川ハカセのまたまたピアノ解体新書」

[2013.8.20]

 先日の熊本県立劇場コンサートホール。ステージ上の大スクリーンに映し出されたのは一枚の楽譜。
…でも音符がない?確かにト音部、へ音部の5線がある2段の楽譜なのですが、書かれているのは音符ではなくて落書きのような記号?
黒丸とか、波線とか、上下にジグザグ引かれた折れ線だけ。
「では、これを今から弾いてみましょう」
その日の出演者・中川ハカセがピアノの前に掛けます。

なるほど〜そういうことか!黒丸はコブシで鍵盤を叩く。波線はいわゆるグリッサンドで鍵盤を下から上、あるいは上から下へジャ〜〜〜ンと掻き鳴らす。ジグザグの折れ線は、まさにジグザグに鍵盤を叩いていく。

もしどこかのピアノを子供がこんな風に叩いたら、大人が飛んできて「こらっ、やめなさいっ!」て叫びそうな演奏ですが。でもこれちゃんとした作曲家の曲らしい。ネットで検索したらamazonでも楽天でも、ちゃんと楽譜が売られてました。
ハンガリーの作曲家・ピアニストのクルタ−ク作曲「遊び」より『バーリントエンドレを想って』という曲らしいです。

その日のコンサートのタイトルは「中川ハカセのまたまたピアノ解体新書」。
夏休み、親子でピアノのヒミツをさぐる特別企画、ということで、500人程のお客さんのほとんどは小学生位のお子さん連れのご家族でした。
事前のチラシによると
@大きなホールで、マイクを使わないで一番後ろの席まで音がひびくのはなぜ?
Aピアノの音が出るしくみって、どうなってるの?
B「♪」など日頃見なれた音符がなくても演奏できる楽譜があるって知ってる??

タイトルの「解体新書」よろしく、ステージ上でフルコンサートピアノを本当に解体して見せたり、小さなオルゴールをそのまま回しても客席にはほとんど音が聞こえないのに、ピアノの響盤に乗せた瞬間、ホール中に音が響いて客席から歓声が上がったり、観客全員が行列しながらステージに上がって演奏中のピアノの響盤やボディーに触って振動を感じたり、一風変わったコンサートでした。

その第2部がまたまたちょっと変わったピアノ演奏のコーナー。冒頭の音符のない楽譜の演奏もそのひとつ。私は事前のチラシに「音符がなくても演奏できる楽譜があるって知ってる??」とあったので、「知ってる知ってる!!それってコード奏法のことでしょ!?」と期待して行ったのですが…。まあ、その期待はあっさりと外れちゃいましたが。
でも、世の中にこんな落書きみたいな楽譜があって、それも著名な作曲家が書いた楽譜で世の中にちゃんと販売されてるって、初めて知りました。

他に、ジョン・ケージという作曲家の作品「4分33秒」の演奏(?)も。
ステージの大スクリーンに映された楽譜には次のように書いてあります。

T(第T楽章)
TACET(休み)
U(第U楽章)
TACET(休み)
V(第V楽章)
TACET(休み)

ステージの中川ハカセ、
「では、今から演奏します」
と言ってピアノの前に掛けたままじっと動きません。…1分…2分…3分…4分…33秒。
そのまま立ち上がって一礼。
この曲は『「無音の音楽」とも言われ、演奏者は舞台に出場し、楽章の区切りを示す以外は楽器とともに何もせずに過ごし、一定の時間(通例4分33秒)が経過したら退場する』、らしい。『いわゆる「無」を聴くというよりも、演奏会場内外のさまざまな雑音、すなわち、鳥の声、木々の揺れる音、会場のざわめきなどを聴くものとされている。数種類の(無音の)CDも存在する』(以上、『 』内はウィキペディアより引用)。

最後はオランダの作曲家・ヤーコブ・テル・フェルトホイス作曲、「ボディ・オブ・ユア・ドリームズ」(あなたの夢の肉体)という激しいラップミュージックのCD音響に合わせてのピアノ演奏。

ちょっと不思議なコンサートでしたが、初めて見聴きすることも一杯あったし、暑気払いになったかな?



(続く→原則毎週火曜日更新)

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ちょっと、ひと言。

 ほんと「これまで経験したことの無いような」暑さが続いています。熊本も超暑いですが日本にはもっと暑い地域もあるんですよね。酷暑お見舞い申し上げます。
この「これまでに経験したことの無いような〜」という言葉、最近しゅっちゅう聞いていると、「あれ、これって昨日も一昨日も経験したような気がするけど…」って思ってしまうのは私だけ?
これだけ次々に「新しい経験」が起きると、何が新しいんだか古いんだか。
異常気象や災害は「新しいこと」はなるべく起きて欲しくないものですが、例えば今回のコンサートみたいな「新しい経験」は、これからももっともっと起きてほしい、というか、自ら起こしていかなければ、と思います。

 
−an 弾手−
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