新型インフルエンザの正体も判明し、過剰な騒ぎも一段落したようです。大阪の街を“マスクマン集団”が行き交う様は、ちょっと怖かったですね。いわゆる「パンデミック」を少しだけどリアルに感じたし、日本人の集団心理というか“大本営発表”の力もわかるような気がしました。メディア等が緊迫した雰囲気で「マスク・うがい・手洗いを」と言うと、私など小心者はやはり“右にならえ”してしまいますもの。そして、マスクの効用が論じられる前から信じていなかった欧米人タイプの友人からは冷笑される、という始末でした。
さて、肥後国益城郡中島ご出身の田代孫右衛門さんの碑に発する、「女と男」の続きです。
NHKスペシャル<性の謎を最新科学で読み解くシリーズ3「女と男」>では、「Y染色体の悲劇」が紹介されていました。そう、染色体は女性が「XX」で、男性は「XY」。Y染色体は男性特有のものですね。そもそもYはXに比べ随分と貧弱タイプの染色体。しかも、長年にわたるコピーの繰り返しが招いたエラーの蓄積により、今、退化の過程にあるそうなのです。最近の研究では、数百万年後にはY染色体は完全に消滅すると予測されているとか。
自然界には、メスだけになってしまい、処女懐胎という手段を取って種を守ることに成功した生き物もあるそうですが、哺乳類の場合は、無理。というのもY染色体がないと、胎盤ができないそうなのです。なんかうるわしい、男女共同参画事業の原初がここにあるのですね。胎生は、卵で産むより安全だと考えた哺乳類が選択したものですが、これが「死のキッス」だったというわけ。
いわゆる、最近よく聞く男性の精子の脆弱化ですが、人類は一夫一妻制の定着で生殖の競争が失われ、弱ったとのこと。また、環境汚染などいろいろと要因が考えられるそうです。確かに、テレビに映し出された顕微鏡映像の精子の動きは“スローダンス”。哺乳類の中でも乱婚のチンパンジーの場合は、精子は強いものが生き残ってきたので元気ハツラツで、“激しいダンス”を見せていました。
人類の進化や社会の発展は、皮肉な犠牲を伴うものだったのですね。この先の先、種の保存のために人類はどんな選択をするのでしょうか。
で、そもそも、生き物の“基本形”はXXのメスであり、XYのオスはそこから派生した、ということが生物学の常識だそうです(学校で習いましたっけ? 私は忘れていたのか習わなかったのかわかりませんが、とにかく知りませんでした)。
そこで、読んでみたのが『できそこないの男たち』(福岡伸一著)。福岡さんの前著『生物と無生物のあいだ』同様、その詩的な文章に魅せられ、ぐっと引きこまれたものの、残念ながら、専門的なところになると私はほとんどお手上げで内容にはついていけませんでした。が、つまりは、「アダムのあばら骨からイブがつくられた」とする旧約聖書を覆す世界を、科学が格調高く説いていたのは確かです。
そして、次に読んだのが男女逆転の江戸時代を描くコミック『大奥』(よしながふみ作)。物語は――男性だけがかかる疫病で男子が激減。徳川家光もその病で亡くなり、娘が家光を名乗ることになる。以後、家綱も綱吉もそして吉宗も女性。だから大奥は“女の園”ではなくて“男の園”。史実を踏まえながらうまくフィクションを構築していて、まあ、面白いこと。女性中心の社会になっても女性の負担が増すだけ(庶民の労働においても、将軍という権力者の生き方においても)という皮肉や悲しみが描かれていたり、かなり深い恋愛が描かれています(「ベルばら」を詳しく知らない私が言うのもなんですが、似た味わいのある純愛物語なのかもしれません)。
と、仕事の合間に、こんな「女と男」を逍遥していた私。前回のこのコラムにあった古事記がひきずる原始女系社会は、やっぱり、生命の基本形がメスであることとリンクしているのでしょうか。また、昨今のいわゆる草食系男子の増加は、なんだかY染色体の悲劇と符合しているようにも思えるし…と、女と男について今までにない視点から考えを巡らせたことでした。
■『できそこないの男たち』(福岡伸一著)
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%81%9D%E3%81%93%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%AE%E7%94%B7%E3%81%9F%E3%81%A1-%E5%85%89%E6%96%87%E7%A4%BE%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E7%A6%8F%E5%B2%A1%E4%BC%B8%E4%B8%80/dp/4334034748
■『大奥』(よしながふみ作)
http://www.hakusensha.co.jp/women/com.html
実写映画化も決まったようですよ。2010年の春からの撮影開始予定だそうで、公開日や出演者は今のところ未定。 |
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