Vol.42 住宅[2008.10.31]
 「200年住宅構想」ってご存じですか? 昨年春、自民党政務調査会が豊かな住生活の実現に向けてまとめた長寿命住宅の構想です。耐久性や耐震性に優れ、バリアフリーや省エネなどの要件を満たす良質の住宅を増やしていこうというビジョンですね。福田前首相が首相就任前から肝いりして始めた構想ですが、旗を振っていたご本人があっけなく退場してしまい、具体的な法案策定などがどうなっていくのかよくわかりませんが、これからの日本の住宅づくりの大きな指標が、200年住宅に象徴される“丈夫で長持ちする快適便利な家”であることは間違いないようです。

 というのも、今、日本の住宅の平均寿命は30年。ドイツのそれは79年、フランス86年、アメリカ96年、そしてイギリス141年というデータがあり、先進諸国の中で日本がいかに住宅を使い捨ててきたかを示しています。戦後の荒廃から立ち直り、高度成長時代へと昇りつめる時代には、質より量が優先されたのは仕方ないことだったのかもしれません。しかし、時代は変わりました。工業化住宅を手がけるメーカー各社も従来のままではいけないと、今、こぞって長寿命住宅づくりに力を入れています。

 で、実は、日本の伝統工法でつくられた住宅は300年持つという説もあるそうです。そんな伝統工法の良さを見直そうというのか、ノスタルジックな風情に癒しを求めてか、古民家再生の動きも全国各地で活発になっています。

 そして、観光資源になっている古民家もありますね。例えば、熊本では「江藤家住宅」(国の重要文化財)。築170年以上で、農業に密着した造りの地主屋敷が完全な形で残されていて、しかも、今でも11代目当主が暮らす現役の住まいのよう。保存のご苦労もいろいろとあるようですが、素晴らしいですね。
 http://homepage3.nifty.com/etoukezyutaku/index.htm

 関西には、ものすごい長寿の住宅がありますよ。神戸の山奥にある「箱木千年家(はこぎせんねんや)」。現存最古の民家として知られる国の重要文化財です。最新の調査技法によって、700年ほど前の鎌倉時代に建てられことが判明したそうで、修繕とリフォームが長寿の秘訣だとされています。住んではいらっしゃらないようですが所有者の箱木さんも、この家を大事に守っていらっしゃるので、時の流れが止まったような古い佇まい、造り、設(しつら)いなどに、訪れる現代人は安らぎを見出すというか、ほっとするそうです。
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AE%B1%E6%9C%A8%E5%AE%B6%E4%BD%8F%E5%AE%85
 http://www.feel-kobe.jp/asobo/hokusin2.html

 また、三重県(一般的には三重県は東海地方ですが、場合によっては関西ないしは近畿に入ることも)の松坂市には、築145年の武家屋敷があります。同じく国の重要文化財の「御城番屋敷(ごじょうばんやしき)」。武士の長屋だったそうで、小路を挟んで2棟が並んでおり、熊本の江藤家のように子孫を中心に16世帯が今も暮らしています。こちらは子孫が合資会社をつくって屋敷を維持管理してきたそうで、いつも間にか市民の共有財産となり、高さ制限など周辺の地区計画にも影響を与えているようです。
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%A1%E5%9F%8E%E7%95%AA%E5%B1%8B%E6%95%B7
 http://www.kankomie.or.jp/db/result.php?id=3145

 「住まいの短命化は人々の考え方も短気にしたのではないか」とは、ある新聞の論説委員の言。そして、長寿命住宅づくりの推進によって、「日本人の考え方の時間軸がもっと長くなる」。それにより「子孫や環境のことを大切に考える。そんな波及効果も期待したい」とその委員は述べています。

 ミヒャエル・エンデの物語『モモ』で、人々は「時間貯蓄銀行」と称する灰色の男たちによって時間が盗まれ、心の余裕を失っていました。日本の短命住宅も、結果的に灰色の男たちのような企みをすることになっていたのかもしれません。物語の人々はモモという不思議な力を持つ少女の力によって、奪われた時間を取り戻すことができました。現実の私たちは、自らの気づきと反省によって、そうした企みを阻止していかなくてはならないのですよね。