Vol.34 島<その2>[2007.12.25]
 大阪湾の南東部に広がる人工島、関西国際空港。今年の夏、完全24時間空港を目指して第2滑走路(2期空港島)がオープンし、朝夕のラッシュ解消、国際物流の強化などが期待されています
▼詳しくは、オフィシャルサイトの下記ページで。
http://www.kansai-airport.or.jp/otanoshimi/explor/2nd/index.html
▼期間限定で無料の「現場見学ツアー」も実施されています。
http://www.kald.co.jp/tour/japanese/012.html

 人工島の造り方は、大きくは3工程。 (1) 海底地盤を固め、(2) 囲いを造り、(3) 土を入れる、です。しかし、広大にして重たい空港がのっかる島です。驚くような数字を聞きました。この2期空港島は海上5メートル、水深20メートルですが、実際は43メートルも土を埋めて造成したというのです。つまり、43−(20+5)=18、これは沈下量。地盤をぐぐっと固め、土を運び込んでは固め、運び込んでは固め、ぐいぐい押し固めていったというわけです。

 土を運ぶ工事船や土を固めるブルドーザーなど巨大な“働く乗り物”を動員しての力技に、さまざまな先進技術を集めた大事業です。例えば、柔らかい海底粘土の地盤を改良するため砂の杭を打ち込んで中の水を抜く工法や、作業船を正確に目的の場所に誘導したり、地面の高低を計測し均一に固めならしたりするために、カーナビにも使われているGPS(全地球測位システム)を活用する、といった具合です。

 地球改造ともいえる人工島づくり。それは人類の英知の産物。そしてその英知は、“自然を損なわずには生きていけない生き物”という人類の業(ごう)なのかもしれません。しかし、破壊を食い止める、破壊した自然を再生する、それができるのも人類の英知です。関西国際空港でも、そんな成果に接しました。

 例えば、藻場(もば)づくり。大型の海藻が生えている所のことです。これをつくることで、魚介類の餌になる小さな生き物が多く生息し、多様な生態系が形成されます。藻場は、護岸に海藻の種を付けたり・撒いたり、海藻の付いたブロック(藻礁ブロック)を沈めたりしてつくるのですが、2期空港島では、海藻が付きやすく剥がれにくいように溝を施したブロックを開発し護岸に設置、また、1期空港島で活用していた藻礁ブロックを移設し胞子を安定的に放出するなど、新たな工夫をいろいろと重ねました。その結果、1期では7年かかった藻場形成が、今回の2期では3年でできたそうです(ちなみに1期の第1滑走路オープンは1994年)。

 この藻場には、海藻類約90種・魚介類約190種が確認されているとのこと(私が取材した2007年7月現在)。大阪湾の環境や漁業に、光明がさしている感じですね。と思っていたら、つい先月のこと、あるニュースが報じられていました。関西国際空港に限らず各地の空港で、航空機が離発着時に鳥とぶつかる「バードストライク」が後を絶たないというのです。

 空港は、騒音や事故防止のため広大な草むらを確保しているため、周辺は野鳥の楽園。しかし、鳥たちは人間の都合(飛行機の飛行)に合わせて避けてはくれません。飛行機のエンジンは鳥を吸い込んでも安全性を保てる構造になっているものの、ひどい損傷を受けて膨大な修理費用を要すこともあり、最悪の場合は事故にもなりかねない、いうわけです。空に進出した人間のおかげで、鳥も災難です。さてもどんな解決を、人類の英知は導くのでしょうか。

 火をおこし、道具をつくり、文字を使うという生き方を知った祖先に始まり、私たち人間は“夢”や“欲望”を抱き、それに挑む“探究心”によって未知を既知に、不可能を可能に変え、不便・不快を便利・快適にしてきました。人間の夢や欲望に終点はありません。探求する科学も、面白いことに「一つのことがわかると、わからないことが10個見つかる」(脳科学者・茂木健一郎さん)そうです。その不可解を解明せずにはいられないのも、人間ならではの欲望。人類の歴史とは、無限連鎖するそれらの諸々に突き動かされながらの歩みなのでしょうね。

 つい最近も、日本の研究チームがヒトの皮膚の細胞から万能細胞(下記参照)をつくることに成功し、再生医療に大きな一歩が踏み出されました。人工島が大地創造なら、万能細胞は人体創造。何やら神の手まで人類は欲望しているといえそうですね。そんな2007年も、残すところもわずかとなり、また、夢と欲望と探究心が連鎖する新しい年を迎えようとしています。

●万能細胞とは
 通常の細胞は特定の組織や臓器の細胞になる運命が決まっていますが、万能細胞は違います。さまざまな組織や臓器の細胞になれます。だから、病気や事故で臓器や組織が損なわれても、万能細胞でそれを再生するということが可能になりそうだという、まさに夢の細胞なのです。
 ヒトの受精卵を使うES細胞という万能細胞の一種の研究が先行し、倫理的物議をかもしていましたが、今回の日本人の研究チーム(京都大学再生医科学研究所)の研究では、患者本人の皮膚からつくるため倫理上の制約が抑えられます。再生医療より先に、発がんの実験や薬剤の効果判定などへの活用も期待され、世界から注目を浴びています。