Vol.28 <学校(2)>[2007.5.31]
例えば、イタリアのルネサンス期を代表する万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチ。芸術家であり、科学者であり、技術者であり、その足跡は幅広い分野に及びます。それは、彼が「すべてを統合して見る」人であり、「興味の趣くまま分野を超える」人だったからのようです。

熊本市立飽田東小学校・前田康裕先生と、大阪の羽衣学園高等学校・米田謙三先生。昨年の冬、お話をうかがい、授業を拝見し、今回、改めてメール交換した私は、お二人がダ・ヴィンチのような一種の「求心力」と「遠心力」を働かせながら、公立の小学校と私立の高等学校という違いはあるものの、学校という職場にしっかり足を降ろし、教育という仕事に立ち向かっているのだと思いました。

まず、私が見せてもらった授業。つまり、昨年度、(財)松下教育研究財団の助成を得て行っていた研究実践の一コマについて簡単にご紹介しましょう。同財団は、情報機器やネットワークを活用した情報化時代の教育の普及・振興を図っている研究機関で、私たちライターがまとめた、両校を含む取材記の詳細は以下にあります。
http://www.mef.or.jp/activity/a02_jissen/a02_03list_h18.html

●前田先生(熊本市立飽田東小学校)の実践から

情報化社会をよりよく生きるために必要な「メディアリテラシー」の育成が、教育現場での新しい課題になっています。メディアの情報を一方的に受け入れるのではなく、客観的に解読すること。そして正しい有益な情報を活用することで、子供の世界は広がっていきます。また情報化社会では、自分が情報発信者となり、他者と交わって世界を共有していくことも大切です。

前田先生は、そうしたメディアリテラシー育成のための授業を設計し、教材を開発していました。伝えたいことを順序だて、構成や音楽を工夫し、1分ほどのビデオ番組をつくる小学5年生。自分たちが情報の“受け手”ではなく“作り手”になることで、情報には作り手の意図があることに気づき、また、情報を相手にきちんと伝えるには工夫して送らなければならないことを学ぶ、というわけです。

機器の扱いもさることながら、チームを組んでビデオ番組を企画・撮影・編集する子供たちの共同作業の見事なこと。往年の小学生である私は、隔世の感です。役割分担して一つのことを仕上げるという学びと喜びもあるのでしょうね。題材を校内から拾うため、他の先生も出演者として協力するというかかわり合いも微笑ましいものでした。

●米田先生(羽衣学園高等学校)の実践から

情報技術によって地球の距離は縮まった、などとよく言われます。学校現場でも、遠くの国内外の学校がテレビ画面でつながれ、一緒に授業することも珍しくはなくなりました。イベント的な交流だけでなく本当の学習も含めた授業へと発展しつつあるようです。米田先生の授業は、そうした学びのある国際交流「日米合同授業」でした。それぞれの土地の水質調査の発表、教室でのpH測定、自国の文化・風習の発表など、つまりは、理科・社会・英語・情報といったいろんな科目が一体となった授業です。

しかも、両校を結ぶテレビ画面には「ハイパーミラー」という先端技術が使われています。両校の様子を一つの画面に合成・融合できるので、臨場感を高めたりいろんな演出もできます。ハイパーミラーの開発・運用には産業界や大学の研究者が携わっていて、授業はまさに産学連携の場でした。

さらに、この授業は「国際ボランティアスペシャリストの育成」という大テーマの研究実践の一環です。英語が苦手な生徒も一生懸命、発表します。臆せず自己プレゼンすることや、他者と一体感をもって事を成すことは、ボランティアをする上でとても大切なこと。この授業によって、そんな心も培われるのですね。

さて、実は、熊本の前田先生のご専門は美術です。コンピュータに興味を持ってからは情報教育にも力を入れ、以前の赴任校で「総合的な学習の時間」(各学校が創意工夫して、学校ごとに教える内容を決めて行う授業のこと)の専科になるや、「ダ・ヴィンチ魂」全開。自由に発想を広げ、カリキュラムをつくっていったようです。その後、英語の指導も要請され、コンピュータを使った英語教育も開発。そして、現在、国語専科。「メディア創造力」をテーマに、言語教育・情報教育としての国語に取り組んでいるそうです。

「私は、文字や映像を含んだものは全てメディアだと考えています。だから、その読み書きの能力を身につけさせることが第一だろうと思うのです。そのためには、送り手と受け手の『意志』が極めて大事であり、『意味』と『感情』を伝え合いながら、相互によりよい関係を作り上げる力が要求されるのだと思っています。」(前田先生)

▼前田先生のブログ「授業研究空間」
http://jugyoukenkyu.cocolog-nifty.com/kuukan/

一方、大阪の米田先生は、もともとは経済学を専攻した社会科の先生です。グローバル時代の波を感じて英語科の資格も取得。情報技術が子供の深い学びと、視野・世界の広がりをサポートすることを実感するにつれ、「ダ・ヴィンチ魂」全開。教科・国境を超えた授業や、小中などの他校種・大学・社会施設・産業界や一般の人々を巻き込んでかかわり合う授業へと広がっているのです。

「大それた目標かもしれませんが、私は、子供たちが世界的プロジェクトに連動した学びを通して明確なプロダクトを作成し、人と人がかかわり合いながら、モノをつくっていく喜び、人のためにつくす喜び、やりがいを学んでほしいのです。」(米田先生)

▼米田先生が参加している「D-projectのユネスコ運動」(上)と
その運動の中での「カンボジア訪問報告07年3月5日」(下)
http://unesco.d-project.jp/contest.html
http://www.d-project.jp/blog/1/