Vol.24 <路面電車>[2007.1.29]
昨年の後半あたりから、なにやら気がひかれるニュースがあります。路面電車が見直されているというのです。熊本の方にとっては見慣れた交通機関でしょうから「何を今さら」でしょうが、一部の地域を除いて街からその姿が消えてしまっている大阪では「ほぅ〜」に値するニュースです。

私にとっての路面電車初体験は、多分、熊本時代。大分県の田園地帯で育った私には、何でも揃った子飼商店街と同じように、街の中を悠々堂々と走る電車は都会を感じさせてくれる晴れやかな存在でした。それでなくとも、路面電車と言えば、洋館などと同様、近代都市の象徴のひとつとして、ノスタルジーの対象ではないでしょうか。

昔、荒俣宏原作の『帝都物語』を映画化したシリーズ第1弾(1988年)を観たことがあります。帝都・東京の破壊をもくろみ、平将門の怨霊をよび覚まそうとする魔人・加藤を嶋田久作が怪演し、話題を呼んだあの映画。舞台は明治末から昭和初期。再現されたあのころの街の風景として路面電車が印象的でした。まだ見ていませんが、一昨年の名作映画「ALWAYS 三丁目の夕日」でも、建設中の東京タワーや、東京都電(路面電車)など、当時の東京の街並みがCGで再現されて郷愁をそそったとか。

そもそも、路面電車の日本初登場は、1895年(明治28年)開通の京都電気鉄道(後、京都市電)。その後、大正から昭和初期にかけて数多くの軌道が整備されましたが、1960年代の高度成長時代、モータリゼーションの波が押し寄せたことで渋滞の元凶とされ、1970年代にかけて各地で路面電車は廃止されました。

多くの都市でバスが代替となりましたが、大都市では地下鉄を建設。大阪も地下鉄時代になりました。車を運転しない私にとっては、地下鉄と自転車は大事な足。地下に潜り、外が真っ暗な電車に乗るのを当たり前にして生活しているわけです(一部エリアを走るときは地上に出る線もありますが)。

で、なぜ今、路面電車なのか。自動車依存による交通渋滞が深刻なこと、同時に省エネや環境問題が大きな課題になっていることから、近年、欧米で盛んになっている次世代路面電車(LRT)が日本でも注目され出したとのことです。相互乗り入れなど交通ネットワークの充実や魅力あるまちづくりといった地域おこしなど、さまざまな狙いのもとにLRT計画を進める地域もあるよう。冒頭で触れた、大阪でも走っている路面電車(大阪南部と堺市を結ぶ阪堺電気軌道)でも、廃止の瀬戸際にあった路線の一部が、先ごろ、堺市のLRT計画推進によって存続決定したとのことでした。

私は、昨年の秋からいろいろな地方都市を取材する機会があり、路面電車にもいくつか乗りました。大阪の地下鉄よりも車内は狭くて、スピードものんびりしていて遅いけど、陽の光が入り、外の景色が見える路面電車は明るくて、開放的で、のどかで、とっても気持ちいい。路面電車を葬って、地下に人が集合する空間をつくった大都会の殺伐とした空気は、暗い地下鉄空間も影響しているのかしら、と思えました。

そんなこんなで、路面電車の走る熊本に思いを馳せながらの一筆でした。ついでに、映画「帝都物語」で思い出したことをひとつ。あの物語は、史実や実在の人物が絡んだ壮大なフィクションですが、実在人物の一人に、地下鉄工事現場に巣食う鬼を、学天則という名の人造人間で退治しようとする西村真琴なる学者が登場しました。

演じていたのは、もう故人ですが西村晃(テレビ番組の二代目黄門様)。彼は、西村真琴の実の息子さん。で、東洋初のロボットとされる学天則は、映画でも手でペンを動かしたりしていましたが、実際、その画期的ロボットは、各地の博覧会で人気だったようです。実物は行方不明になったそうですが、そのレプリカが大阪市立科学館に展示されています。帝都物語ファン、荒俣ファン、西村ファン、嶋田ファン、黄門さんファン、ロボットファンなどなど、興味を持たれた方は、大阪に来られたら中之島にあるこの博物館に足を運ばれるのもいいですね。