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Vol.22 <豆腐もう一丁>[2006.9.26] |
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あっさりしているのが身上の豆腐なのに、しつこくて申し訳ない。しかも、豆腐にちなむ熊本と関西のつながりなど、もうとっくになくなっている。面目ないが、とにかく、もう一丁。
前々回紹介した『豆腐バカ 世界に挑む』(雲田康夫著、光文社発行)にこんなくだりがあります。豆腐が人間の食物であることを知らず愛犬に食べさせていた米国人のご婦人が、愛犬がベジタリアンになり、毛並みツヤツヤで脱毛知らずになっただけでなく、気性も穏やかになったと言う。それを聞いた雲田さんは考えます。草食動物に獰猛さはない。犬の祖先はオオカミなどと同じ肉食動物だったはず。それが人間のパートナーになり、ベジタリアンになれば、だんだんおとなしくなってきたというのはまんざらウソではなさそうだ、と。(高部注:犬は人間と同じ雑食動物)
そこで思い出すのが「豆腐小僧」です。大きな傘をかぶり、手にはお盆に載せた豆腐を持っている子どもの妖怪。人を怖がらせることも、化けることもできず、豆腐を手にうろうろするだけ。なんともはや間抜けな脱力系キャラなので、「どこが妖怪やねん!」とツッコまれそうですが、江戸時代の絵草子などに頻繁に登場する、れっきとしたその世界の出身です。京極堂ファンにはお馴染みでしょうし、妖怪のブロンズ像100体以上が集まった、鳥取県境港市の観光名所、水木しげるロードにもちゃんと並んでいます。
▼境港市観光協会ホームページ
http://www.sakaiminato.net/
「豆腐の角にぶつけて死んでしまう」ほどにナンセンスな「豆腐小僧」ですが、ナンセンスを楽しめる心の余裕って、いいかも。江戸時代文化研究家である田中優子さん(法政大学教授)は、豆腐小僧を「無目的であることを愛した江戸文化の象徴」と語っています。
ところで、こうした脱力系キャラと少し近いところに、「あかんたれ」「へたれ」がいます。特に男性の場合、頼りなくてふがいないけど、どこか憎めなくていとしい。甲斐性なし、根性なしだけど、その情けなさがかわいい。そんな男です。そして、そんな男に惚れた女は大変です。その顛末が、近松浄瑠璃の『曽根崎心中』や『心中天網島』などの心中物だと言ってよいのではないでしょうか。織田作之助の小説『夫婦善哉』の映画版では、その手の柳吉を森繁久彌が上手く演じていました。テレビ番組でも人気だったお笑い人、「夫婦善哉」のミヤコ蝶々・南都雄二、「おもろい夫婦」の京唄子・鳳啓助も、そのコンビだったように思います。倉田真由美さんの話題の漫画『だめんずうぉーかー』のだめ男たちもそうなのでしょうか? 読んでいないのでわかりませんが。
ということで、これらの男を“豆腐男”と呼ばせてもらうと、強引なこじつけですが、前回の『にごりえ』の源七もその一人だったのか、と。源七の好物が豆腐というのはできすぎですね。で、女房が豆腐を食べさせようとしたのは間違いで、なおさら軟弱になるというもの。しかし、それを一口も食べなかったから、愛人のお力を無残に殺し、自分も死ぬという悲劇の結末を招いたのかも。まあ、豆腐を一口でも食べればすぐに優しく穏やかなになるという、“逆・ポパイのホウレン草”のような即効性があれば、ですが(ない、ない、って!! でも好物なら、その美味しさにほっこりと幸せ気分にはなっただろう)。
で、件の雲田さんは言います。「夢のようだが、世界中に豆腐を広げることは、争いのない平和な世界をつくることに通じるのではないか」と。そして、妻が夕食の酒の肴の一品として、いつも冷奴を出すのは、「草食動物に見習って“やさしい夫”になることを期待してかもしれない。でもおれは女房の尻には絶対しかれないぞ」と。
そろそろ食卓に湯豆腐ものぼる季節へ。肥後もっこすの男性諸氏も、どうぞお気をつけあそばせ!! |
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