Vol.59 紀尾井町すずめ [2007.8.17]

 紀尾井町は四ッ谷と赤坂の間にある閑静な町。
弁慶橋を渡ると、 ホテルニューオータニや赤坂プリンス、素敵なテラスの
あるカフェもある。
ある日の夕方、ひさしぶりにホっとして、ひとり此処に来てテラスに座る。
と、足下に動く小さいもの。
-すずめ-
 彼等はどこにでも居るが、こんなに人間の近くへはなかなかやってこない。
ところがここでは、心地よくテラスを被う木々の枝にとまっては、チュンチュンと
可愛い声で互いにさかんに呼び合い、おどけたポーズで、時に羽をふくらませて
真ん丸になったり、せわしなく首をかしげたり。
そして降りて来ては、こぼれたフランスパンの切れ端を遊ぶようにうれしそうに
食べている。
そんなやんちゃな彼等がいた。

おっと!おおきな動くもの。-ハト-
でも、鳩は彼等をおどかしたり、食べているものを奪おうとはしない。彼等は彼等で
そういうことを知っているかのように大きな相手に警戒もせず、相変わらずクリクリと
せわしない。
 私の足下で、くちばしでつついてはボールのようにころがるパンの切れ端を遊ぶように
追いかけては、少しづつ食べているヤツがいた。

 この世の住人は決して人間だけではない。地下に地上に天上にと、さまざまな住人が
いる。
けれど、眼に見える人間以外の住人は、みんな人間を見るとあわてて逃げてしまう。
時に人間だけが横柄な顔をして住んでいる。
それでも此処に『人間』の足下まで安心して来てくれる、そんな関係があった。

 ある日、玄関先で仰向けにもがくカナブンを見つけ、切ない気持になりながら
元の姿勢に戻して外出した。
そしてあくる日、同じ所で息たえているのを見つけた。
その夜の友人からのメール。
『あんなに鳴いていた蝉の声も今夜はほとんど聞こえず、今は鈴虫のような声が
聞こえます』
移り行く夏の宵。滝のような汗が流れ出る季節も、夜は殊更にせつなく。

******* 

 風神雷神の季節も今まさに過ぎ去ろうとしている。
部屋のまん中から今年も窓越しに見上げる空のエネルギー。劇場を見るようだ。
部屋があるからって安心できるわけでもないのに、でも、この夏は訳もなくしごく
安心している。

そういえば、以前、日本語勉強中のアメリカの友人からもらった日本語のメールを
思い出した。

『安心になった?』 

変な日本語なのに、なんだか心にしみるフレーズだったな。
...徒然なるままの2007年、夏。

-END-
 バックナンバーはこちら