Vol.49 東京カフェ事情 [2006.10.24]

  私の家の近くにとってもきもちいいカフェがある。
働いているのは店長をはじめ、平均26才くらいの若い人たち。シェフは24才。ホー
ル担当も24才。30才が一番年長かな?

 4年も前だったか、『失恋』なんて、今思うとテレくさい傷心で、どうにもいても
たってもいられなかった寒い寒い2月の日曜があった。泣き腫らした眼のままでそこ
には行きはじめた。
 その時、当時のシェフで今は四国の実家にもどって農業をしているという男の子が、
大きなうつわからおおきなスプーンですくってお皿によそってくれた、ひさびさに食
べるティラミス。それが、笑顔と共に私を癒してくれたのは本当だった。
私はよっぽど寂しそうだったのだろうか。
「よかったらお名前お聞きしてもいいですか?」
今年の誕生日にはケーキを焼いてもらった、今は店長の女の子がその時そっと聞いて
くれた。お互いにそっと教えあった名前、次に行ったら皆が私を『マリコさん』と呼
んでくれた。

 お店の子たちも2、3人いろんな良い展開があって少しだけ入れ代わったが、新し
いスタッフとも皆相性が良くて、こっそり、はじめてつくった料理をお皿につけてく
れたりする。
この間はシェフがこう言った。
「今日、おやじが来るンで、ローストポーク焼いてみたんです。よかったら?」
やってくるお父さんのために作るなんて素晴らしい。
ここはカフェといっても、ビストロなみのいっぴんが食べられるし、スイーツは絶品
だ。私が好きなカプチーノにはいつもふっくらとしたハート。
「今日はちょっとおもしろい形になっちゃった」笑って持って来てくれる。

 奥のテーブルでは男の子がカボチャにそれは素敵な彫刻を入れている。グラフィティ
のようなちょっとストリートな模様を入れた、ハロウィーンのジャックオランタン。
彼はこの店のお客さん。
「緑を彫るとオレンジが出てくるなんて、スゴイ」
そう言いながら。

 この店を立ち上げた男の子が、別の店もプロデュースした。そのお店にオープニン
グに呼んでくれると、そこでもまたこのお店のお客さんと友だちになった。
 こんな風にこのお店は今では私の生活に大切な場所となっている。

 そのディレクターの男の子がこう言った。
「新しい子、すごくまたイイんですよ。最初に来た時に『お掃除、これでいいでしょ
うか?』ってお掃除の事とかボクに聞くんです。厨房で働く子も、ホールの子も」
 かゆいところに手の届く、さりげない気配りはこういった心からのきちんとした気
持から来るのだろう。
 カフェの絶品レシピを作った女の子もまだ20代。今はフリーで料理家をしている
ということだが、一度このカフェにヘルプで来ていた時に一度しか会ったことないの
に、しばらくたって会った時に私の名前を忘れていなかった。
 ともかく、土日は26時=夜の2時まで営業しているのに、みんな本当にいつも変
わらず、自然に、やさしい気持になる空気をつくっている。

 ここには本も置いてあるし、もちろん音楽もある。北欧のジャズやアンビエントな
ジャンルのもの、その他、掘り出し物など。
そして、その本や音楽がどういうものか、ちょっとしたそれを買ういきさつなどもさ
りげに教えてくれたりする。
ある日お願いした、お使い物のチョコレート。
「パッケージ、考えてみたんですヨ!どうかなあ」
そう言って渡してくれた。
こっそり自分用にも頼んでいた紺色の小さなひと箱をあけると、チョコレートは眼の
さめるようなターコイズブルーの薄紙につつまれ、その薄紙の上に小さな鮮やかなオ
レンジ色のカードが添えられていた。
私は本当にうれしかった。

 「じゃあ、マリコさん、これからいってきま〜す」
ホール担当の一人の子は5時以降はキーパンチャーをかけもちしている。

 とにかく、いつ行っても心が皆と溶け合って、親しい友だちの家に行ったような気
持になる店がある。               

-END-
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