駅から自転車をこいで帰る。路地を曲がると、この季節、空にピンクの雲の広がる場所が在る。
そこは美しく手入れされた小さな禅寺の境内。まず、入り口に、そめいよしのが空いっぱいに咲く。そのあと、八重桜が枝垂れ桜と折り重なるように又空をおおう。桜は確か5本。
お寺はこの時期、その桜を人々のためにライトアップして、門をあけてくれているので、8時ごろまでにそこに辿り着くと、その桜を真下で見ることもできる。
ある日、門がまだ開いていたので、ひとりだったがおもいきって中に入った。はじめてその見事な桜を真下からあおいで見た。時折、花びらがひらひらと舞いおりて桜餅の香りさえしてくるような。
誰もいないとびきりのお花見。
2週間ほど前には、千鳥が淵の桜を行列して見た。皇居周辺に何キロにも渡って咲きほこる桜にはすごみさえあり、桜に魅せられ熱を帯びた人々も手伝って花の色に心が染まってくるような感じ。だが、この空に降るような桜。今何と、私は一人占めしている。
『そめいよしの』が咲くある日、この寺でお葬式が行われていた。ご家族は悲しい別れをされたに違いないが、こんな素晴らしい桜に見送られるなんて何と美しい最期。亡き方は女性の方だった。
ふと見ると境内にこんな言葉が。
叱られた
恩を忘れず
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