Vol.40  冬の宵 [2006.1.20]

 今年の冬は思いのほか寒〜い。
お正月を故郷熊本で過ごし、そして東京に戻った時、今年は一枝の百合の花を求めた。いつもの杉並区、おじさんとおばさんの近所の八百屋さん。格好なんてつけていない、正真正銘の八百屋さん。でも、ここでは、そう、花も売っている。
 で、チェコでは、パリのキオスクみたいな街角の露店で、必ず花を売っていて、
『これが心の潤いをあらわす。若者がガムでも買うように、気軽に花を一本買っていったりする』と、ある時、雑誌で読んだ。
ヘヘン! 今、私はちょっと自慢したくなる。--私は野菜を買うついでに、花も買える。

 さて、ひさしぶりの百合の香は思いのほか強く、ちょっとつきはなすようなツンとした香り。そのあと、苦いような甘いような、何とも春を思い出させる香りが...。
 
『冬来たりなば春遠からじ』(冬になり、春ってそう遠くなんだろうか?)
--If winter comes, can Spring be far behind?--
何と、高校の頃に暗記したのではなかったか?(...できなかったかな?)

 冬のさなかにこそ、不思議とこれを感じる。
けれど今、既にその気配を百合の香から感じている、何とも気の早い自分。                   

******
 実家の庭、ほんの腰の丈くらいの木に、たわわに実った檸檬。店では見たこともないようなスベスベとした皮。きれいな檸檬型。たまにちいさくて丸い檸檬も。
それを数個、東京に戻る時、両親が持たせてくれた。

 今、ギュっとしぼってホットレモネードにしてみる。そしてやわらかすぎるその皮をはちみつにつけて今度はホットワインに。クローヴやシナモンなどのスパイスを加えると、北欧のグリューワインだ。かつて東京に住んでいたスウェーデンの人の家に行った時には、オレンジの皮はもとより、ほしぶどうやブルーベリー、ナッツまで入っていた。--その真似をしてみる。

 実家の庭製の檸檬は、皮もはちみつに一晩もつけるとまるごと食べられてしまった。種だって、まるでナッツ。これが本来の『実り』の姿なのかもしれない。
 その合間に香るツンとした百合の香...。
『今、春を思いながら私は冬を満喫している』--そんな冬の自分がいる。
-END-
*If WInter comes, can Spring be far behind?(パーシー・B・シェリー/ 『西風に寄せて』)
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