家の前に柿の木がある。
今は柿の実がなっている。
確かこの柿の木が熊本の実家の庭の風景にとても似ているなあと、私はこの部屋に決めた気がする。
おいしそうなふゆう柿。父が若いころ、板に油絵で描いたといってしばらく居間にかざってあったのもふゆう柿の実の絵。
家の前の柿の木の実。そこの家人はそれをとって食べようとはしていないのかな。
もっぱらカラスや野鳥がついばんでいる。
この柿の木、もうすぐすっかり実はついばまれ、はげ坊主になってしまうのだ。
少し前には葉っぱの間に柿の実が見え隠れしていたのに、この間の強風で葉っぱはすっかりなくなってしまった。
まだ葉っぱがあったころ、ふと、センチになったある夜に、私はベランダに出た。
たくさんの実の中で、なぜかとても気になる実があった。てっぺん近くにあった色と形の良いひとつの実。
最近ふさぎたくなることがあったので、私は自分をはげますつもりで、それをマリコの実と呼んでみた。
そしてある日、ものすごい強風の12月。
夜中に風雨は最高潮で、雨戸をしめても怖いくらいだった。
「明日の朝にはあの、”マリコの実”もきっと落っこちているだろうなあ」
そう考えながら私はその夜、眠りに落ちた。
朝。
昨日の暴風雨がウソのように晴れわたっていた。雨戸の隙間からもその気配がかんじられるくらいに。
私は雨戸を開ける。
そして、目の前の柿の木を見た。
そしてそこには昨日の大風にもまけないで、ちゃんとマリコの実がなっていた。
最近は他の実はすっかり鳥たちにつつかれて、穴があいていたり、黒くなったりしているのに、私がなぜかある夜に気になったマリコの実。
てっぺんより少しだけ下のほうで、まるまるとオレンジ色をしている。
裏側も穴があいた様子はない。
渋いのかな?それとも、成長が遅いのかな?
どちらにしても、30個は成っている実のなかで、なぜか気になったその実だけがきれいにしているのにはなんだかはげまされる。
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