仲間と食べる昼食も楽しいが、たまに一人のランチもなかなかいい。入った店は、ベルギービールを出すお店。ランチにはなかなかおいしい料理があり、所望すれば、コーヒー、紅茶のかわりにホワイトビールかチェリービールを飲むことも出来る。私が座ったのはカウンター席。ガラスのカウンターで、厨房を囲むつくりになっている。
食事も半ばのころ、ふと、目に入ったものがある。緑にひかる電光板。店のレジに付属しているもので、レジの上で小さく光っていた。それが、私が腰掛けたカウンター、そのガラスのカウンターの下にひょっこり顔を出していた。
『ドウモアリガトウゴザイマス マタノゴライテンヲオマチイタシマス』
無機質で、並んでは消え、又同じカタカナの言葉を繰り返す。しかし、その日はなんだか愛らしく見えた。
「ちいさなロボットみたい」
流れていた音楽はチャールストン。その音とこのデジタルな感じ。なぜか、ジェーン・フォンダがまだ、お色気のかわいこちゃんだった頃の映画『バーバレラ』を思い出す。コンピューターやロボットを空想する時代にいる錯角に落ちた。
店のつくりはとてもちいさいけれど、なかなかに凝っていて、道に面した部分は総ガラス張り。そのガラスの上部には、かわいらしい白い線描きのドット。そして店の壁と天井と床とが面する部分は、直角でなく『丸い凹』になっている。まるでグラスの内側の曲線のよう。
そのコンセプトは、私達が『ビアジョッキの中にいる』ということらしい。さっきのドットはビールの泡だそうだ。『ワッ、いいじゃない!』こはく色のやわらかなベルギービールのジョッキの中で、泳ぐように飲んでいる自分を想像した。
昼食の最後のほうでジャズが流れた。
「何だっけな〜、この曲。知ってる、知ってる。でも、思い出せない…..」
なんだか滑稽。でも、微妙にシャレた感じのその曲は、支払いする時も続いていた。あー、でも、まだ思い出せない……思いきってお店の人にきいてみた。
「この曲、何でしたっけ?」
「ジャズですよね、え〜と、あ、なんだっけ、、、あ!」
お店の人が思い出してくれた。その曲名は私のもうろうとした記憶と瞬時に一致。
『ウォーターメロンマン』
日本語で直訳すると『西瓜男(すいかおとこ)』
夕方になるとこの店で、バケツみたいに大きなベルギービアジョッキをくみかわす人たちが見える。
「あー、夕方また、今度は同僚を誘ってビールを飲みにこようかな」
それにしても『Watermelon Man』とは、何か意味があるのかな?確かハービー・ハンコックだっけ?今度友達に聞いてみよう。そして店を出た。
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