寒い日にサルサを聞いてみた。そうしたら連鎖反応でレゲエを聞きたくなった。
暖房器具あっての幸せな過ごせ方なのかもしれない、自分がお気楽だからなのかもしれない、でも、そんな暖かな気分になれたその日は幸せだった。レゲエのリズムは心臓の鼓動のリズムと一番近いと言う。
ロンドンで、とあるラスタマンに偶然会って、2年間文通をした。彼と会話したのはほんの15分かそこらだった。しかも、路上で一度きり。ブリクストンという移民の多いロンドンのとある街の入り口、ボディーショップの角でのことだった。
その時彼は私に、ラスタの大事な3つの事、を教えてくれた。ウィズダム(叡智)ナレッジ(知識)オーヴァースタンディング(理解)。「これでピースに暮らせるさ」と。
どこかの大統領にこの言葉を聞かせたい、と瞬時に思ったりしたものだった。「ラスタファライとは宗教ですか?」と私はたずねてみた。すると彼は言った。「いや、そうじゃない。ものの考え方だよ」バリトンのゆっくりとした深い、幾分かすれた声を思い出す。そんなことがあいまって、この3つの言葉は私の記憶に深く印象づけられた。オーヴァースタンディングという言い方。これはアンダースタンディングのことだ。アンダー(下:ネガティヴ)でなくオーヴァー(上:ポジティヴ)とするそうだ。
ラスタとはラスタファリアン(ラスタファライの人:ラスタマンとも言う)の略。ラスタファライ(考え方)のことは一言で言えないし、とても長くなる。私もきちんと説明できないのでここでは説明しない。でも、ただ感じてほしい。そういう人たちがいるのだ。
ラスタ達の使う「言葉」については、私は以前、少し聞きかじっていた。ほんもののラスタマンに会うずっと以前に、友人がジャマイカのおみやげとして私に1冊の本をくれた。その中に書いてあった。この「言葉」は「ジャマイカのパトゥワ」とも呼ばれているようだが、その昔、黒人たちが耳に聞こえる英語をアフリカ流の音とアクセントで喋り、それがしだいに意識の面でも意味を持つようになった。奴隷としてつれてこられた自分達の考えやポリシー、力を大切にしようとしたのだろう、言葉の音や意味から徹底してネガティヴなものをポジティヴに作り替えようと、言葉に心を織り込むようになった。そしてそれはポジティヴで美しい意味と、彼らのもともとのアフリカの言葉の音とリズムを持つように、彼ら独特の音と感覚で創造されてきた。その担い手がそういったことに敏感で熟達したラスタファリアン達だったということだ。
これは歴史的なものでもあるし、精神的なものでもあるが、私達にとっては、知ればとても興味深いものでもあるので少し紹介したい。例えば*Appreciate(アプリシエイト:評価する、感謝する)の"ate"という響きがHate(嫌う)と似ているため、それを使わず、かわりにLove(愛する)にする。Apprecilove(アプリシラヴ)。*Birthday(バースデイ:誕生日)。Bという音は"Bad"(悪い)のB。だから使わない。そのかわり、Earthday(アースデイ)。BをEに変えると自分達が生まれ出た「地球」となる。地球の日、それが生まれた日という意味に。*Banana(バナナ)Ban(禁止)の意味を含むのでそれを"I"に変えてInana(アイナナ)。禁止という意味の単語"Ban"の反対語でポジティヴな"Free"(フリー:自由)に置き換て"Freenana"(フリーナナ)とまで言うそうだから、その徹底ぶりや創造性はすごい。彼らの大事な"Jah"(ジャーcreatorクリエーター;創造主)に置き換えて"Jahnana"(ジャナナ)ということもあるそうだ。*単語のみならずフレーズにも。
"Go back to Jamaica"(ジャマイカに帰ろう)は"back"(うしろに)というネガティヴな単語が含まれている。そこで、"back"を"forward"(先に)にかえて"Go
forwardto Jamaica"......スゴイ。*I(アイ)は大事な彼らの言葉。いろんな言葉の最初に変えて使われる。食べ物は生命を司る大事なもの。それで例えばフルーツは多く"I"のヴァイブレイションに変えて呼ばれる。
Irange=Orange, Imato=Tomatoなど。このようにOverstanding(オーヴァースタンディング:理解)のみならずポジティヴな意味のものと変えて使う。
*I(アイ:私;I, He, She, That woman/man, The woman/manなど人称に使う)*I&I(アイアンアイ:mine,
yours, theirs, us, oursなど個別に所有を表すものすべてに使う)などなど。とてもLove and Peaceな心がそこにある。
ちょっとかじっただけでも、強く、暖かで人間らしいハートを大事に生きようとするのを感じることができるものだ。 |