Vol.5 心の音 [2003.2.22]
 寒い日にサルサを聞いてみた。そうしたら連鎖反応でレゲエを聞きたくなった。
暖房器具あっての幸せな過ごせ方なのかもしれない、自分がお気楽だからなのかもしれない、でも、そんな暖かな気分になれたその日は幸せだった。レゲエのリズムは心臓の鼓動のリズムと一番近いと言う。

 ロンドンで、とあるラスタマンに偶然会って、2年間文通をした。彼と会話したのはほんの15分かそこらだった。しかも、路上で一度きり。ブリクストンという移民の多いロンドンのとある街の入り口、ボディーショップの角でのことだった。

 その時彼は私に、ラスタの大事な3つの事、を教えてくれた。ウィズダム(叡智)ナレッジ(知識)オーヴァースタンディング(理解)。「これでピースに暮らせるさ」と。 どこかの大統領にこの言葉を聞かせたい、と瞬時に思ったりしたものだった。「ラスタファライとは宗教ですか?」と私はたずねてみた。すると彼は言った。「いや、そうじゃない。ものの考え方だよ」バリトンのゆっくりとした深い、幾分かすれた声を思い出す。そんなことがあいまって、この3つの言葉は私の記憶に深く印象づけられた。オーヴァースタンディングという言い方。これはアンダースタンディングのことだ。アンダー(下:ネガティヴ)でなくオーヴァー(上:ポジティヴ)とするそうだ。

 ラスタとはラスタファリアン(ラスタファライの人:ラスタマンとも言う)の略。ラスタファライ(考え方)のことは一言で言えないし、とても長くなる。私もきちんと説明できないのでここでは説明しない。でも、ただ感じてほしい。そういう人たちがいるのだ。

 ラスタ達の使う「言葉」については、私は以前、少し聞きかじっていた。ほんもののラスタマンに会うずっと以前に、友人がジャマイカのおみやげとして私に1冊の本をくれた。その中に書いてあった。この「言葉」は「ジャマイカのパトゥワ」とも呼ばれているようだが、その昔、黒人たちが耳に聞こえる英語をアフリカ流の音とアクセントで喋り、それがしだいに意識の面でも意味を持つようになった。奴隷としてつれてこられた自分達の考えやポリシー、力を大切にしようとしたのだろう、言葉の音や意味から徹底してネガティヴなものをポジティヴに作り替えようと、言葉に心を織り込むようになった。そしてそれはポジティヴで美しい意味と、彼らのもともとのアフリカの言葉の音とリズムを持つように、彼ら独特の音と感覚で創造されてきた。その担い手がそういったことに敏感で熟達したラスタファリアン達だったということだ。

 これは歴史的なものでもあるし、精神的なものでもあるが、私達にとっては、知ればとても興味深いものでもあるので少し紹介したい。例えば*Appreciate(アプリシエイト:評価する、感謝する)の"ate"という響きがHate(嫌う)と似ているため、それを使わず、かわりにLove(愛する)にする。Apprecilove(アプリシラヴ)。*Birthday(バースデイ:誕生日)。Bという音は"Bad"(悪い)のB。だから使わない。そのかわり、Earthday(アースデイ)。BをEに変えると自分達が生まれ出た「地球」となる。地球の日、それが生まれた日という意味に。*Banana(バナナ)Ban(禁止)の意味を含むのでそれを"I"に変えてInana(アイナナ)。禁止という意味の単語"Ban"の反対語でポジティヴな"Free"(フリー:自由)に置き換て"Freenana"(フリーナナ)とまで言うそうだから、その徹底ぶりや創造性はすごい。彼らの大事な"Jah"(ジャーcreatorクリエーター;創造主)に置き換えて"Jahnana"(ジャナナ)ということもあるそうだ。*単語のみならずフレーズにも。

 "Go back to Jamaica"(ジャマイカに帰ろう)は"back"(うしろに)というネガティヴな単語が含まれている。そこで、"back"を"forward"(先に)にかえて"Go forwardto Jamaica"......スゴイ。*I(アイ)は大事な彼らの言葉。いろんな言葉の最初に変えて使われる。食べ物は生命を司る大事なもの。それで例えばフルーツは多く"I"のヴァイブレイションに変えて呼ばれる。 Irange=Orange, Imato=Tomatoなど。このようにOverstanding(オーヴァースタンディング:理解)のみならずポジティヴな意味のものと変えて使う。

 *I(アイ:私;I, He, She, That woman/man, The woman/manなど人称に使う)*I&I(アイアンアイ:mine, yours, theirs, us, oursなど個別に所有を表すものすべてに使う)などなど。とてもLove and Peaceな心がそこにある。 ちょっとかじっただけでも、強く、暖かで人間らしいハートを大事に生きようとするのを感じることができるものだ。
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 ラスタマンと文通、というのは我ながらめったに起こることではないと、自分でも今もその出会いに不思議な気がしている。ロンドンの路上で偶然出会ってほんの数分話した、その記憶をとどめたくて写真を撮らせてほしいと申し出ると、彼は少しの間考えてから、「じゃあ、送ってくれるかい」と、私に自分の名前と住所だけ書いて渡してくれたのがきっかけだった。その後、東京にもどって写真ができると私は、どうしようかしばらく考えたが、思いきって送ることにした。すると、日本語でいえば「大変恐縮しております」とでも言うような、大変堅い謙虚な、左角をホチキスでとめた2枚の手紙が詩集といっしょに送られてきた。

 その後の文通で彼は自分で書いた詩の本を全部で3冊も同封してくれたし、2人の息子さんの写真まで送ってくれた。ちなみにChildren(チルドレン:子供達)のことはBrethren(呼吸するもの達)と言うようだ。日本語の「息子」ととても似ているではないか。しかし、その文通は2年たったある日、お互いにPeace!と手紙で言葉をかわしあったあと、突然プッツリ消えてしまった。しかし、それもラスタマンらしい。私にしても、消えてしまってもなぜか執着も寂しさも疑問も何もなかった。ただ、とてもまじめに意見をかわしあった2年間だけが心の中にしっかりと鼓動しているのを感じるだけだった。
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 ここで、彼が教えてくれた”アイタルフードドリンク”を特別に紹介しようと思う。
              
             -5〜6カップのアイタルフードドリンクの作り方-

+ふつうの大きさのバナナを3本、3センチくらいのカットする。 ブレンダー(ミキサー)に入れるが 、まだブレンドしない。
+1.5カップのオーツ麦を入れる。
+バナナとオーツ麦をざっくりと混ぜておく。
+テーブルスプーン2〜3杯のココナッツクリームを入れる。
+皮をむいたリンゴ半分を小さくきざみ、入れる。
+デーツ(なつめやし)のタネをとって3個ほど。デーツが小さい時は6〜7個ほど入れる。
+4分の3カップのピーナツと4分の1のアボカドを加える。
+テーブルスプーンに2〜3杯のはちみつとグラス(カップ)1杯の豆乳を入れる。
+これで良くブレンド(ミキサーにかけ、良く混ぜる)する。
+仕上げにシナモンとナツメグを加えさらにブレンド(ミキサーにかける)するとできあがり。
*濃すぎる時は豆乳を増やし、もっと濃くしたければオーツ麦を増やすと良い。
自然の栄養満点のアイタルフードドリンク、Enjoy it! -END-
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