寒い日が続いています。先月、ロンドンの友人が東京に来ました。私の、数少ないけれど大切な友人のひとりです。その彼女のことをお話しようと思います。
1998年の夏、ロンドンに旅した。その年の5月ごろ、ロンドンのテキスタイルデザイナーと仕事で知り合い友達になった。ある日、私の勤める会社にエージェントといっしょに彼女はやってきた。ふつうそういう場合、私は特に個人的に話をしたことはなかったが、その日はエージェント先の女性が私に話しかけるようにうながした。「彼女、もうすぐこの仕事をやめちゃうそうなんですよ、28年もやってきたのに。疲れたんですって」と。
私は彼女の目に好意を持ったし、前日にヨーロッパの出張から帰ってきた同僚が「ロンドンおもしろかったよ」と私に言ったのも思い出して、話し掛けた。すると、どうだろう、初対面だというのに話しは流れるようにはずんだ。そして彼女は言った。「今度ロンドンに来る時にはうちに泊まりなさいよ。でも、秋以降、冬のロンドンはとてもさびしいから夏の方がいいわ」
そして、その夏、私はロンドンを訪れた。しかしさすがに私は、いきなり宿泊を甘えるのは失礼な気がしたので、自分でホテルを取って行った。しかし、空港まで彼女は親切にも迎えに来てくれて、私のホテルまで案内すると、がくぜんとする私にホラネ、と視線を送った。それは1泊1万5千円はするホテルなのに、カビくさいバスタブもないホテルだった。「ロンドンのホテルはこんなものよ。だから、うちに来なさいよ」
以前何度か出張で泊まったホテルは全く申し分なく、私はそのつもりで1万5千円ならビジネスホテルという感じかな、なんて思っていたのだった。ところがドッコイ、質素どころではなく、きたないのだ。私は彼女の好意に甘えることに決めた。「本当にありがとう。でも1泊だけはここに泊まって観光をするわ」彼女はOKと言うと「ゆっくり荷物をほどきなさいよ、その間私はフロントに1泊だけにした、と言っておくわ」私がフロントに降りて行くと、彼女はさっぱりした顔で「言っといたわよ。ノープロブレム」
その後彼女の家でランチをごちそうになった。御主人は元俳優。あの、スティーブマックイーンの大脱走に出ている。家系は3代俳優というが、元俳優というにはあまりに自然すぎるほど自然なかわいらしい
初老のおじいちゃんだった。
ランチは庭で楽しんだ。8月でいろいろなお花が咲いて、まさにイングリッシュガーデン。蚊はいない。大形犬のメイとネコのトミーも気持ちよさそうにひなたぼっこしている。食事は彼がその後もずっと担当してくれた。必ず手製のデザート付のフルコースのおいしい素敵なロンドンの家庭料理だった。私がマリコだからといって、焼いてくれたチキンパイのパイ皮にはしっかり、Mの文字付。食事のたびに量や何を多めにしてほしいのか、必ず聞いてくれていた。いつも最高においしかった。
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