令和3年 9月1日  庭下駄の重きあゆみや露の萩(永井荷風)
 9月2日  雨つよし弁慶草も土に伏し(杉田久女)
 9月3日  花野来て白き温泉に浸りけり(松本たかし)
 9月4日  茶屋の灯のげそりと暑さ減りにけり(小林一茶)
 9月5日  スイツチョと先ず啼きそめぬ庭の虫(高濱虚子)
 9月6日  みどり児の名前は翼秋高し(あまの樹懶)
 9月7日  音のして海は見えずよ草の花(木下夕爾)
 9月8日  翔ぶ鳥の形細身に秋の雲(今村潤子)
 9月9日  桔梗やまた雨かへす峠口(飯田蛇笏)
 9月10日  道のべの木槿は馬に喰はれけり(松尾芭蕉)
 9月11日  秋の日や畳干したる町のうら(芥川龍之介)
 9月12日  二三点灯りし森へ月の道(川端茅舎)
 9月13日  左向く阿弥陀の頬や初紅葉(永田満徳)
 9月14日  猿は啼かで鹿笛の夜こそ淋しけれ(正岡子規)
 9月15日  一歩出てわが影を得し秋日和(日野草城)
 9月16日  鵙鳴く下小さき家を掃き終る(橋本多佳子)
 9月17日  大風の紫苑見て居る垣根かな(松窓乙ニ)
 9月18日  エプロンにとびつく露や朝の畑(東千秋)
 9月19日  毬栗を入れし袋をおそるおそる(正木ゆう子)
 9月20日  月見るや山冷到る僧の前(原石鼎)
 9月21日  名月や畳の上に松の影(榎本其角)
 9月22日  ひと束の萱負ふは野を負ふごとし(正木ゆう子)
 9月23日  芋の葉影土に蒐まれる良夜かな(西山泊雲)
 9月24日  しかと着て身に沁む紺の絣かな(長谷川かな女)
 9月25日  おもむろに月の腕を相搦み(竹下しづの女)
 9月26日  とんぼうや羽の紋透いて秋の水(室生犀星)
 9月27日  山門といふべく萩の嵐かな(石橋秀野)
 9月28日  人の如く鶏頭立てり二三本(前田普羅)
 9月29日  八朔や町人ながら京留守居(炭太祗)
 9月30日  取り留むる命も細き薄かな(夏目漱石)