令和3年 4月1日   かぎりなく出てしやぼん玉落ちて来ず(橋本多佳子)
  4月2日   茶房より引鴨仰ぐことも江津(鈴木泰子)
  4月3日   花薊おのれも餓鬼に似たるよな(芥川龍之介)
  4月4日   鶏の声もきこゆるやま桜(野沢凡兆)
  4月5日   橋落ちてうしろ淋しき柳かな(正岡子規)
  4月6日   蘖の眼をつく丈けや山平ラ(飯田蛇笏)
  4月7日   女遠しぐんぐん伸びる松の蕊(西東三鬼)
  4月8日   メス入れてみたき牡丹の蕾かな(正木ゆう子)
  4月9日   遠足や出羽の童に出羽の山(石田波郷)
  4月10日   筍の藪を覚まさせる地震ひとつ(鈴木泰子)
  4月11日   天秤や京江戸かけて千代の春(松尾芭蕉)
  4月12日   春の雨埃のやうにはたきけり(永田満徳)
  4月13日   考へ事をしてゐる田にしが歩いて居る(尾崎放哉)
  4月14日   桜草の鉢またがねばならぬかな(高濱虚子)
  4月15日   大和岡寺菩薩の子なり蛙子も(松瀬青々)
  4月16日   葉ざくらや人に知られぬ昼あそび(永井荷風)
  4月17日   アネモネやひとりのお茶のしづごころ(日野草城)
  4月18日   あかるいうちに風呂をもらいに行く海が光る(尾崎放哉)
  4月19日   春眠や起きてゐるから眠くなる(あまの樹懶)
  4月20日   紫の映山紅となりぬ夕月夜(泉鏡花)
  4月21日   鶯の忍び音を鳴くガラシャ廟(今村潤子)
  4月22日   これきりに径尽きたり芹の中(与謝蕪村)
  4月23日   二渡し越えて田を打つひとりかな(小林一茶)
  4月24日   今蒔きし籾華やかや藪の影(西山泊雲)
  4月25日   春宵や指の先まで酔うてをり(井芹眞一郎)
  4月26日   山独活に木賃の飯の忘られぬ(炭太祗)
  4月27日   葱の花ふと金色の仏かな(川端茅舎)
  4月28日   永き日を書架の背文字に立ちくるる(吉川英治)
  4月29日   防人の妻恋ふ歌や磯菜つむ(杉田久女)
  4月30日   春惜しむ宇治十帖をひらきしまま(長谷川かな女)