平成30年 8月1日   汗舐めて十九世紀の母乳の香(西東三鬼)
  8月2日   チェロで弾く黒人霊歌夜の秋(今村潤子)
  8月3日   風鈴をさがし当てたる夜風かな(井芹眞一郎)
  8月4日   堰口や毛見を尻目に鰻掻き(内藤鳴雪)
  8月5日   見覚えの日傘傾げて遠会釈(成定ちえ)
  8月6日   かるわざのはやしきこゆる端居かな(久保田万太郎)
  8月7日   立秋の避けて通れぬ水溜り(あまの樹懶)
  8月8日   化学とは花火を造る術ならん(夏目漱石)
  8月9日   みづうみの水のつめたき花野かな(日野草城)
  8月10日   水琴の一節いつか秋の声(東千秋)
  8月11日   無花果や隅の座敷は吉之丞(中村吉右衛門)
  8月12日   別れ蚊帳老うつくしきあしたかな(石橋秀野)
  8月13日   密やかに雲より出でず稲光(正木ゆう子)
  8月14日   額へやる我手つめたき花野かな(原石鼎)
  8月15日   魂棚の奥なつかしや親の顔(向井去来)
  8月16日   葡萄食むいのち殺める心地して(永田満徳)
  8月17日   病間や桃食ひながら李描く(正岡子規)
  8月18日   江鮭ありもやすらん富士の湖(松尾芭蕉)
  8月19日   虫売や宵寝のあとの雨あがり(富田木歩)
  8月20日   鬼灯のくちつき姉の指南哉(小林一茶)
  8月21日   新涼の浅間晴れんとして蒼し(長谷川かな女)
  8月22日   秋蝶に猶美しく老いにけり(橋本多佳子)
  8月23日   またしても狐見舞ひぬ下り簗(黒柳召波)
  8月24日   秋の雲しろじろとして夜に入りし(飯田蛇笏)
  8月25日   彼の船の煙いま濃し秋の海(松本たかし)
  8月26日   遠鹿や枕にちかき山おろし(高井几董)
  8月27日   山の宿残暑といふも少しの間(高濱虚子)
  8月28日   三径の十歩に尽きて蓼の花(与謝蕪村)
  8月29日   月草や昼より後の露の色(三浦樗良)
  8月30日   秋雨の限涙の限かな(松根東洋城)
  8月31日   一時に無人になりし蚊帳の秋(小沢碧童)