インタビュー
 今、輝いている熊本ゆかりの舞台芸術家の素顔に迫ります。
 
写真(河野 みちゆき) 人間をみずみずしく描き、五感で感じられる 舞台を目指す
0相代表 (劇作家・演出家)河野 みちゆき
 
 高校時代に野田秀樹の戯曲を読んだのが、演劇との出会いでした。小説とは違う表現形態が新鮮で、夢中になって読みました。でも、高校には演劇部がなかったので、実際に演劇と関わるようになったのは大学に入ってからです。その後、芝居を離れ就職した時期もありましたが、やはりどうしても芝居をやりたくて会社を辞め、熊大演劇部OBに声をかけて劇団を立ち上げました。「0相(ゼロソー)」という劇団名は、電気用語でニュートラルを意味し、表現形態にとらわれないで熊本に新たな演劇の礎を築こうという理念が込められています。
 旗揚げ公演は「劇団八時半」の鈴江俊郎さんの戯曲でしたが、第2回公演からはすべてオリジナル作品を発表してきました。だれも見たことがない芝居をやりたかったのが、オリジナルにこだわる理由です。人の残像や空気感を大事にした静かな舞台で、人間をみずみずしく描きたいと思っています。台詞はストーリーの牽引役に過ぎず、静寂も表現の一部ですから、お客さまには嗅覚や味覚なども含め五感で感じてほしいですね。ただ、5年間劇作を続けてきて、これまで静寂にとらわれすぎていたのではないか、との思いもあり、今後は静かではない作品を、とも考えているところです。
 一昨年からは客層を広げるために北九州や福岡でも公演を行っています。また、昨年の日本劇作家大会をきっかけに九州演劇人サミットが行われて、九州各地の劇団との交流が活発になってきていています。これから九州演劇のムーブメントも盛り上げていきますよ。
 熊本リージョナルシアターでは、田舎で農業をしている兄と都会からふらりと帰ってきたミュージシャンの弟との葛藤など、スローライフというキーワードを軸に浮かび上がる複雑な人間模様を描きたいと思っています。私たちの舞台に主役はいません。だれに感情移入していただいても構いません。ただお客さまには、見終わってそれで終わりというのではなく、何か心に手みやげを持って帰っていただきたいですね。

プロフィール(河野 みちゆき)
1976年、牛深市生まれ。学生時代に演劇活動を始め、熊本大学在学中の1995年から同大学演劇部の活動に参加。
その傍ら、熊本・福岡の他劇団の公演にも役者として精力的に参加し、2000年に「劇団0相」を旗揚げ。第2回公演以降の作品はすべて自ら作・演出を手がけ、その叙情的で繊細かつ艶やかな劇世界は、心のひだをも感じさせると定評がある。2005年3月に熊本で行われた日本劇作家大会では、短編戯曲コンクールの一次審査員を任され、ワークショップの講師を務めるなど、いま注目を集めている若手劇作家である。
 
熊本県立劇場広報誌「ほわいえ」Vol.58より

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