Vol.97 秋の風景 [2010.9.21]

 今年はどうにも秋が来ない感があったが、自然界はいつものようにちゃんと秋を迎えた。
まず、あんなに懸命に鳴いていたあぶらぜみからつくつくぼうしやひぐらしへと変わり、そして、いつの間にか、こおろぎが聞こえはじめた。これはまさに秋の風情だ。

 商店街にお目見えする御祭禮(ごさいれい)の提灯は、秋に見ると、格別にその気分にさせてくれると感じるのは私だけだろうか。
昔は、おじいさん、息子、孫、というかたちで営んでいた商店街も、近頃は、皆ひとりでやっているから、準備や片づけが結構大変なのよ、と酒屋のおばさんが言っていた。神輿の担ぎ手は来てくれても、詰所の設営や準備、そして片付けは、なかなか人手が足りないらしい。
 ついこの間開かれた高円寺阿波踊り、祭のあとは、まるで潮が引くように人波は消えた。
皆、ゴザを敷いたり、祭を見ながらてんでに小宴会をやっていたが、ウソみたいにサッと人の消えたあとの道端はまるで何もなかったかのようにきれいだった。しかし、自動販売機の横にはペットボトルの山。みんなひとりで何十本も飲むわけじゃないんだから、ペットボトルは持ち帰ろうよ。他にもボランティアたちがかため集めたゴミ袋は、まるで堤防のように堆く積み重なっていた。

 金曜は8時までやっている美術館が増えた。九段下の会社から歩いて10分とかからない、隣の竹橋にある国立近代美術館へ上村松園展へ行った。会社の終わった夕刻。

 北の丸公園を囲む清水濠沿いに歩いていく。
すると、どうだろう、一羽の白鳥がお濠に浮かんでいた。
「白鳥がどうして?」
首の長い白鳥は夕焼けの中にことさら優美に見えた。願わくば、お濠の水がもう少しきれいだったら…。いや、この苔むした感じがお濠には似合っているのか…。
すると、その白鳥と並ぶように、上方の木に白いものが舞い降りてきた。
それは、おそらく鷺。一体、どこから飛んでくるのだろうか。お濠には、ぴったりお似合いだ。
水辺に、木に、2羽の白い鳥のいるお濠の風景。珍しくも、上村松園を見に行くにはぴったりの優美な偶然の風景。
そして、お濠端を歩いて、ちょうどその2羽と同じ位置に来た時、私は見つけてしまった。
お濠端にとまる黒いカラスを。
真っ黒い瞳とちょっと立った黒い頭の毛でこっちを見ていた。僕も(私も、なのかもしれない)どう?っていうような具合に。
 一直線に並ぶ、白い鷺、白鳥、そして黒いカラス。こんな風景はなかなか偶然でもおめにかからないのではないだろうか。写真を撮ってお見せしたいくらいだったが、私はお濠に沿って、半円を描きながら九段下から竹橋へ向かった。

 

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