Vol.94 夏の予感 [2010.7.1]

 あまり暑くない今年だが、梅雨の晴れ間には、夏を感じるようになった。
昔から、夏に空を仰ぐと感じる。空がブンッと張っていて、そこから太陽光線もブンブン音を立てて降り注ぐような感じ。
 夏はちょっと苦しいほど暑い。でも、何かが心の中で圧倒的に楽天的になる。

 あくせく過ごしているうちに時は駆け足で過ぎていく(…と、感じる)。でも、ふと、立ち止まって肩の力を抜いてみると、せわしなさが、ふと時間と無関係の『とき』に変わる。

 火曜。昔勤めていた神谷町にあるベルギービールの店の8周年記念のお誘いメールが入った。ウィークデイ、どうしようかと思ったけど、思い切って行ってみた。少したつとお隣の人が話しかけてきて、その隣の人もいっしょに、いろんなことをしゃべった。9時近くまでお店にいて、帰ったのは10時過ぎだったのにちっとも疲れてなかった。

 夜8時半ごろ、まだ開けている八百屋さん。いつも行く八百屋さんとは違うが、ここは、フルーツに強い。さくらんぼ1パック買って話しかけると、おじちゃんの話がとまらなくなった。結局9時過ぎまでいろんな話をきいた。家に着いたのは9時半近く。でも、7時半に帰れた時と比べて、2時間も家に帰るのが遅くなったのに、そのあと休むまでの時間の感覚が同じだった。

 激しい雨の朝、私の部屋は駅まで遠いから、しかたなくタクシーを呼んだ。でも、なかなか現れない。イライラするのをやめて、私はあきらめることにした。するとタクシーが現れ、中から運転手が頭をさげている。陽気な人で、お詫びにと、迎車料金はとりません、ワンメーターでとめます、と言ってくれた。会社には間に合った。

 去年の夏の終わり、若い友人夫妻が誘ってくれて、おそろいお供状態で湘南の海へ行った。
 海辺なのに芝生が植えられている小さな丘があって、そこでピクニックをした。
 その足で立ち寄った海鮮料理の居酒屋で、隣り合わせの壮年のご夫婦といつのまにか意気投合して、お宅へ呼ばれるー楽しいサプライズもあった。
 湘南からの帰りは終電になり、最初は空いていたが、横浜あたりから混んできて、東京都内でどうにか乗れた地下鉄も終電。そして超満員だった。

 ルーズで気儘な時間のことを『ジャマイカンタイム』なんていうが、それと同じ意味で『神奈川タイム』というのがあるそうだ。
 「じゃあ、待ち合わせはいつものところで2時から4時ごろね〜」なんて。
 神奈川ボーイの彼氏のいた友達が、昔「だから困る」と苦笑していた。

 いいじゃないか。本来そのくらいの歩調で行くのがいい。
 急いでも焦っても、のんびりしていても、本当は、時間は同じ速さで過ぎていく。

 

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