Vol.93 純真 [2010.6.1]

 五月晴れもつかのま、また雨の朝。
あまりにつまらなくて、混雑した電車に乗り込むとき、頭の中でChoo Choo Trainを唄ってみた。
♪みんな巻き込み急ぐEdge of time…
駆け出して飛び乗るChoo Choo Train♪

 ZOOからEXILEに引き継がれたこの名曲。
毎日乗っている本物の電車には、みんなに全く一体感はないんだけど、こんな風にみんなでニコニコしながら「まだ知らないZoneめざすよ」な気持ちで乗り込むChoo Choo Trainなんだと妄想してみる。…でも無理。

しかしそこに。
乗り換えたぎゅうぎゅう詰めの電車、ふと気が付くと私の目線より少し低い位置に、なんだかピチピチしたかわいらしい空気を感じた。ぎゅうぎゅう詰めの中に、巣の中のひなのような何か。目の前には、白いシャツと黒いズボンの制服を着た、坊主頭の男の子がキラキラとした瞳で仲間と静かにニコニコしている。そして仲間の2人の男の子と2人の女の子。静かに5人はかたまって、そして、なんだかはにかんだ表情でそこにいた。
昔ながらのまじめなごく普通の着こなしの制服がとってもさわやか。おそらく中学生。もしや修学旅行かな?血色のいいつやつやの顔、それが静かに、はにかみながらもわくわくした笑顔。笑顔になるとなぜか空(くう)を仰ぎ見ている。混雑した電車の中で、お互いに時おり微笑み合う、その白い前歯がまだ大きく見える。
中学生というある意味微妙な時期の子たち。なのに、まだこんなに素直なものが。

 そして私の会社のある九段下で、彼らは混雑の中、荒々しく降りる大人たちの波に合わせるように、やはり静かにニコニコしながら降りてきた。私は彼等が静かに発する、そのキラキラした素直な空気に何か吸い寄せられるように、彼らを視界に入れていた。
彼らは少し出口の案内板を見ていたが、改札に着くと、帽子をかぶった一番背の高い男の子がインフォメーション窓口に身を寄せ、またはにかんで駅員さんに尋ねていた。他のコはそのコの後ろにかたまってひっそり素直に立っている。すべてがなんだか楚で静か。そして少し照れたようにうつむきかげんに笑顔。見るとまだ若い駅員さんも同じような顔つきになっていた。
 このなんとも素朴で純な様子。きっと、毎日ごはんを食べてこの先もどんどん体も大きくなるだろう、そのまだ小さな体の内側から、とても健康なエネルギーを発していた。突然出会ったこの稀な空気、この先何にでもなれそうなエネルギー。

******* 

「あなたたちは今、一番何でも吸収できる時、どんどんおおきくなる時。今覚えたことは大人になってからも忘れない」
あのころ先生は言った。それを信じて、わけもわからず古典文学の暗唱をしたり。私たちもきっとこのコたちみたいに見えていたんだろうな。まだまだ成長し続ける子供たちが、それぞれに冗談を言いあったり、悩んだり、がんばったりしていたんだ。

 純粋であること、それは自覚したら終わり。
その、自分でどうするものでもない、ほとばしる純真さは、何か不思議なすごい未知数を秘めた静かなエネルギーで魅力いっぱいなんだなあと、私はとても感動した。

 

-END-

 バックナンバーはこちら