Vol.92 一瞬の出来事 [2010.4.30]

 気象がおかしいのと、どんどん過ぎるのが今年。もうゴールデンウィークだなんて。
先週は、仕事で、東京ビッグサイトという場所での国際展示会に参加した。直前にアイスランドが噴火し、副社長をはじめ、ヨーロッパ勢は来れなかった。
 幸い今回の噴火そのものでの死者はなかったということだが、アイスランドは、氷の国ではなく、温泉の多い火の国だというのを知った。金融危機やビョークの出身地としか知らなかったが、金融危機以前のGDPは世界5位だったらしい。何も知らなかった。

 展示会期中は、ずっと冷たい雨。搬入出も自分たちでやったが、どうにかその時間は、小雨に落ち着いてくれて助かった。
 達成感と疲れを背負って雨の中を濡れながら帰った金曜の夜。その後爆睡。

 週末は気持ちよく晴れていた。ひさしぶりにカフェで甘いものをいただく。疲れているときの甘いものはシミる。
それでも今週末は彫金。去年、東京芸大で教わってからとりこになった。月に数回だが、朝10時半からのクラスをとっている。実は休みの日に早起きするのはかなりしんどい。
でも、行ってしまえば、終わるのは早い午後だから、少し街をぶらついても、まだ日のあるうちに家に帰ることが出来る。

 この1ヵ月余、時間のある週末に、2つ目の透かし彫り銀細工を作り続けていた。平らな銀の板を糸ノコで切り、火であぶり、たたいて、みがいて、この硬い鉱物を「かたち」にしていく。今日はロウ付けの日。完成まであと一歩。これを過ぎればあとはひたすらまた、砥いて、みがいて、磨いて。そして完成。

 5分銀を小さな破片にして、ふたつ合わせた両側のパーツの間に火で溶かしいれる。細かな細かな作業。小さな破片は火であぶると、液体になって隙間溶け流れて固まる。
火山の中はきっとこんな様子なんだろう。
 あと一個、ここのすきまに入れたら終わりだ!
しかし、なぜか、その破片が溶けない。思わずバーナーを持つ手が一点をあぶり過ぎ、私の作った「かたち」は真っ赤になった。おっと、と思った瞬間、ぐしゃりとかたちを変えた…。あと少し、というところで、大切に大事な時間を込めた、その「かたち」が溶けてしまった!私の気持ちと時間が一瞬で流れ溶けてしまった!

 こうなると、もう「あとの祭り」というわけ。もう元には戻らない。
一瞬の出来事だった。固体として維持できる温度を越えた瞬間、液体になって流れてしまう。物理とはこういうことか。くやしいから、私は気持ちをそこに残さないように努めた。

 「こんな風なんだろうなあ…」
目の前の、ぐにゃりと溶け固まった塊を見ながらぼんやりと私は考えた。
きっと一瞬の出来事で、なんでも、なくなってしまう。成し遂げるにはたくさんの積み重ねが必要なのに。でも、台無しにすることは、知識や経験があれば回避できる。
この見事な失敗は、大事な失敗だったように思えた。

-END-

これはちゃんと創れた一個目
表(front)
裏(back)

 バックナンバーはこちら