Vol.86 映画館 [2009.11.17]

 さて、ずいぶん長い間、ひとりでふと映画を観にいくなんてことをしなくなっていた。
小さいころ、家族で映画を観にいく時、行く前のわくわく感も大好きだった。
学校からもらう推薦映画の中にも、おとぎ話に混じって洒落た洋画も多くあったし。
夏には出かける前に、妹とシャワーまであび、シッカロールまではたいたりして、その服専用の「シュミーズ」とセットの子供服に着替えたり、気合が入っていた。
父だけは劇場の他の映画を観たりすることもあった。母と妹と私は映画が先に終わり、そのあと父のいる劇場に最後の20分くらいそっと入れてもらったこともあった。私が大学の頃までは、映画はロードショーでなければ殆どが入れ替え製でもなく、二本立て時には三本立てだったり、一日劇場に座っていることだってできた。

 また映画を観に行こうと思ったきっかけは、”地下鉄のザジ” のポスター。フランスの古い映画で、お昼に時々行くビストロにちらしが置いてあった。ブルーの地にいたずらな女の子のかわいいポスター。上映は古いままの新宿の映画館。伝統的に古い映画館におきまりの、前の人の頭が気になるこの映画館。内容はポスターの洒脱な感じというより、フランス風に洒落てるけどあまりのドタバタナンセンスだったが、映画館の古さはこの映画を見るにはうってつけだった。ポプコーンもぴったり。映画中食べてもぜんぜん大丈夫、そんな感じ。でも、もっときれいなところでも見たいな、と。
 そして、マイケル・ジャクソンの”This is it”。私は普段テレビを見るよりラジオを聴く。映像で見る死の直前の彼は何とも変わり果てて見え、彼が一番輝いて見える”Rock with you” のころとはまるで別人。あのころの彼には、ほとばしるような独特の魅力があって、唄いながら本当にキラキラしている。この人間的な魅力が、一体どこから後の彼の別のあの感じに変わっていったのだろうといつも思っていた。でも、ラジオからこの秋になって流れたマイケル・ジャクソンの新しい歌声は、なかなか良かった。そして、この映画をわけもなく観たくなった。それに、マイケルのダンサーとして世界中を回ったユーコ・ジャクソンさんは熊本出身。10月のユーコさんのワークショップで、ユーコさんがステージで踊ったマイケルの”will you be there” の振り付けを教わり当時のリハーサルの貴重な映像も見せていただいた。
 さて、ネットで映画館を検索すると最新式の映画館がヒットした。音響が素晴らしいというその映画館のほとんど満員の中から、オンラインでやっと席を確保した。
ビルに入って映画館のある最上階までに夜景を楽しめるように設計されていたり、やっぱりなかなかいいもんだ。そして、映画の中には、輝いて見えたころと何も変わっていない、才能にあふれ、心優しいマイケルがいた。

 水曜はレディス・デイ。今は1800円もする映画が1000円で観れる。また映画に行きたくなった。松田優作の記録映画を観ることにした。
当時、「ものすごく足が長くてかっこいい俳優」と友達が言う彼を私はあまり知らなくて、初めてTVで見た時には、背は高いけどどこがかっこいいのかわからなかった。
今回見終わると彼は「男の塊(かたまり)」のように見えた。前にオダギリ・ジョーが大河ドラマで演じた時「ちょっとかっこよすぎるよなァ…」と思ったが、今回もまた同じ印象。かっこよすぎて笑ってしまうほど。でも、そこには笑わせてはもらえないすごみがあった。
 「演じる」ということには興味もないほど、私の中には全くない資質だが、演劇や演じることが好きな人にはたまらない、何かすごい魅力の、深い深い世界らしい。

******* 

 映画館。今はすっかり設備が整ったアメリカ式の映画館が各地にたくさんある。
私の以前の会社は、このアメリカ式の映画館が全国に建てられる時も、その床に敷かれる「カーペット」を提供する会社だった。だからいろんな映画館や劇場の床面積や階段までカーペットの割図作成もした。ひとつの建物の中に10以上もスクリーンがあることに驚き、建物の床しか見ていないので、その量が多いのにくたびれたり。
でも、今ではそこで、私もすっかり楽しんでいる。

 

 

-END-

 バックナンバーはこちら