Vol.85 瞬間 [2009.10.26]

 雀がこちらを見ている。「今食べてるそのパン、くれない?」
雀といっしょに食べるお昼時。
 蚊が、電車の中で眠っている人の、無防備に上を向いた手首にいる。
たっぷりと用を果たし、大きくお腹がふくれあがったその蚊は、そのまま『歩いて』その人の膝の上に折りたたまれたスーツの折り目に。私が電車を降りるまで出てこなかった。一体どうなったのか。

 いろんな瞬間があるもんだ。知らないところに気付かないドラマがある。

 一瞬のとほうもない積み重ねが何かをかたちづくる。
一瞬を軽んじてはいけない。けれどあまり神経質になってもいけない。気持ちを静かにして、淡々と清々と打ち込めば、自然と正しい時に鏨(たがね)は動く。たとえ間違っても修正できる。心を落ち着けて、ひたすら砂山の砂、ひと粒ひと粒を動かすように気持ちを込める。少しづつ、少しづつ、思い描くかたちができていく。
物を作っている時、ひさびさに何かを創っていると思えた時、私はこんなことを感じた。

 仕事で、何かで、困った時、これを思い出すことは私の助けになる。
最近、そんな一番わかりやすい体験をした。
けど、やっぱり仕事は仕事。なんだか、一瞬を急かされることばかり。だから、きっとこれを思い出してやることも大事なんだろうな。それこそ瞬間芸にできるほどに。ふう…。
仕事はそれとやっぱりコミュニケーションだ。コミュニケーションしない上司は本当にやりづらい。

 いつのまにか秋も深まり、年末も遠くない。こんなふうにあっと言う間に一瞬が積み重なってゆく。それにしても素晴らしい秋晴れ。こんな日はテラスで木々をながめ、一杯やって楽しもうじゃない?!

 

 

-END-

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