Vol.81 梅雨の晴れ間に [2009.6.19]

 ひさしぶりに銀座に行った。
 10代、ここ東京に暮らしはじめたころからのともだちが、かれこれ10年ほど毎年一回開く個展を観に。ともだちは3代続いた、そう、江戸っ子かな。
 梅雨の晴れ間、銀座は歩行者天国になっていた。せっかくだから、歩道ではなく、車道側を闊歩してみた。いつものくせで、つい歩道を歩きそうになる自分がいるのに気がつきながら。
 ジュースを片手によちよち歩いているちっちゃな子と目があって微笑む。
歩行者天国では通りにパラソルなども出され、そこで皆が休んでいたり、道ばたに腰掛ける若者もいる。昔とくらべると海外ブランドショップが増えてしまい、人もますます増えた。それでも銀座は銀座。なんとなくすっきり颯爽としている。

 今年はいっしょに行った、若い友達カップルと待ち合わせしたのは、裏手にホテル西洋銀座のあるテアトル銀座(旧セゾン劇場)。
 30分も早く着過ぎた私は、ひさしぶりの銀座の空気を楽しんで、30分待つのも全く苦ではなかった。と、そこに私より前からいた、どうやら待ち合わせの人がなかなか来ない風情の、背の高い、白髪の方。梅雨の晴れ間にはぴったりの、着古していい感じになった白い麻のジャケットにストライプのシャツとネクタイの色合わせも素敵なその方から声をかけられた。
「大変失礼ですが…レイナさんではありませんか?」
もちろん違うから返事をした。今日は、少しほほえみを浮かべる余裕もあった。
「いいえ、違いますが?」
「あ…これは大変失礼しました」
 私の顔は『レイナさん』という柄ではないと思うのだが、この方はその『レイナさん』とははじめて会うのだろうか。顔を知らないから、聞いて来たのだろう。ふと、私が「はい、そうです」なんて言ったらどうなっただろうなんて考えて、頭をかいた。そのあともしばらく待っていたその人は、携帯か時計を見ると、街角にゆっくり消えて行った。

 ほどなく、ちょうど約束の時間に友達夫婦が表れた。いつもビーチにいるような格好のカレシも今日は素敵なハンチングをかぶって。カノジョも、薄いブルーのストライプの素敵な夏のブラウスを着ていた。アーウィン・ショーの『夏服を着た女たち』が浮かぶ。いいなあ、やっぱり、銀座。梅雨の晴れ間。

 そうしてともだちとギャラリーで一年ぶりに会う。毎年、同じギャラリーでシンプルなコンテンポラリーアートを創る彼は、今年も気持ち良さそうな笑顔をしていた。
 10代から知っている私達。それでも、どこが変わったわけではない。ギャラリーのオーナーの女性に会うのも楽しみな場所だ。この人はいくつになってもきれいなんだろうな、と。
 ひとしきり談笑のあと、彼のかわいい息子さんと奥さんが毎年恒例で、かたづけを楽しみにやってきた。やわらかな家族の風景がそこにある。

 そのあと、青山学院裏の知り合いのカフェに夕食を皆で食べに行った。ここもひさしぶりだったから、その彼と会ったとたん、どちらからともなくお互い抱き合ってしまった。厨房で働く彼女も知り合いだ。いつも行く近所のカフェのスイーツのレシピは全部彼女が創った。彼等もまだまだ30代前半で大活躍だ。
 私達は幾品も注文した。すると、「これ、おごり」といって、彼女がそれは素敵なひと品を持って来てくれた。どの皿も違う味わいでスパイスが効いている。彼女はいったい日々どれだけの食事を造り上げるのだろう。近くの席では、誕生祝いをしていて、バースデイケーキを囲んでいた。それも彼女の作なわけ。店の彼も私達の席に参加してくれて、友達のカレシのほうと年の近い同士たくさんたくさん話をしている。友達のカノジョのほうもなんだかうれしそう。
「こんなにしゃべってるの見るの、はじめてってかんじ」
私もひさしぶりに心もお腹も充実の土曜の夜を過ごした。 

 日曜は父の日にテープを編集した。会社の上司が、神保町にある『レコードショップ』を教えてくれた。神保町や神田はアナログな街で、古いレコードや本を売る店が未だあるわけ。
 編集は仕入れた、父の好きなビング・クロスビーのレコードに、私の好きなナット・キング・コールのCDを合間に登場させた。

 ふと、夜半、急にシンと雨のにおいがしたと思ったら、瑞々しい雨の音。
紫陽花が実にきれいな、今日この頃のこと。

-END-

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