Vol.79 春が来て [2009.4.22]

 あっという間に散った桜だが、「千鳥が淵の桜を見ないで春は迎えられない」
ここ九段下に住む甘味屋のおばさんも、そう言った。
桜の花が咲きはじめると同時に、人々もにこにこと、千鳥が淵の桜の木の下は笑顔も満開に集まる。本当に日本人は桜に惹きつけられるのだなあ、と思う。
終わりには、桜の花びらは千鳥が淵のお堀、そして神田川さえもピンクに染めた。
はらはらと散り、水面に浮かぶそれは、まるで着物の柄のよう。
散り際さえなんとあでやかな、桜。

 夜桜も家の近くの桜上水を歩いた。知り合いと自転車で。
若い人もお年を召した方も、カップルが何組か夜桜のもと、ふたりしてお花見をしている。桜の花びらの舞う夜桜のもと、ふたりしてお弁当を食し、お酒をたしなむ。最高に楽しそう。ただ寄り添うより、素敵。と、ハッ…。
「夜桜花見デートってしたことないねえ〜。残念」
昼間よりいっそう風情が増している。すれ違う人々の表情も皆、美しく見えたりして。

 ふと見上げる夜空には月と星。夜空にまたたく光は何光年も前の光を今私たちは見ているという。思えばこんな素敵な夜空を私たちは毎日見ることができる。いつもは気が付かないけれど、これこそが現実。素敵じゃないか。

 今、花も一斉に咲きそろい、ひさしぶりに快晴の日が続いている。
土曜と日曜続けて干したふかふかのふとん。ひだまりの香のするふとんに寝転んで、部屋の電気を消した。
と、つけていたTVには何と、桂離宮の月見台からの月の映像。
なんとまるで私は、桂離宮の月見台で月を愛でているのだった。

-END-

 

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