Vol.71  空 -夏- [2008.8.26]

 今年の夏は甲子園にオリンピック、そしてお盆が重なったテンコ盛りの夏。
そんな中お盆を少し過ぎて帰省し、今年も両親や家族と幸せに
過ごすことができた。短い夏。

 いつものように熊本から東京に戻る機中。空を見るといつも思う。
そこにあるその風景は、いつもは決して見ることのできない風景。
飛行機から見る風景は、空に浮かんだ時にしか見れない風景だから。 
 
 瞳に入って来た、まるで屏風絵のように見事な夕焼け。空の風景の中でも
それははるか彼方に。その彼方に桃源郷のような風景が見える。
ひろがる海のような雲の彼方にそれがある。まるで『オーヴァー・ザ・レインボウ』。
オリンピックの陸上の選手の背中に見える小さな日の丸の赤い丸も
私はとっても好きだ。余談かな?
 『もうすぐまた羽田かな...』しばしうっとりとした。......と、その夢のような夕焼けが
突然途切れて、ギョっとする黒雲が壁のように立ちはだかった。その黒雲の
ところどころには穴があいていて、そこから真っ赤な夕焼けが見える。 火事のよう。
そう、地獄絵を思った。その瞬間、視界のはしっこで ピカッ!と何かが閃いた。
            .......ピカッ!ピカピカッ!......
 こんな広大な風景でこんな光が瞳に映ると何がなんだかわからなくなる。
少したって気付いた。それが雷だということを。この視野からのあの大きさは一体?
きっと関東地方がすっぽりと入ってしまうくらいの大きさだ。雲がまるで
劇場の演出ように、ふいに突然に光る。光はやがて私の気持ちの中で
無気味さに変わった。

 飛行機がその中を全力で旋回しながら進んでいる。やがて来る闇の中に
まだ見えている雲海の大海原。その中を黒く小さく見える飛行機が少なくとも2機、
同じように旋回しているのが見えた。乗っているとその旋回は、まるで
その黒雲の渦の中に突っ込んで行くように感じてしまう。
 私の乗った飛行機から、こんな同じ風景が3回見えた。雲の位置は3回ともほとんど
変わらない。東京の上空を何度も旋回しているのがわかった。黒く光る雲は厚く、
東京は全く見えない。どうするのだろう。降りられないでいる飛行機。
 やがてアナウンス。
『悪天候のため羽田に着陸が許されません。当機は名古屋セントレアへ向かいます』
空の稲光りはあまりに恐ろしく、おもわず隣の人に声をかけてしまうと
何の違和感もなく会話が成立した。気持ちは同じなのがわかった。

 飛行機はやっとライトの点滅する滑走路に降りてくれた。ほどなく
人を乗せたままの給油がはじまった。いつもはくり返し絞めるように注意される
シートベルトは「必ず『はずして』立ち上がらずにお待ちください」
なんだか恐い。しかし幸い、再び名古屋から羽田へと飛んだ。しかし終止揺れている。

 こんな夜間飛行の醍醐味の上空からの夜景は怖くてほんの一瞬着陸前に
見れただけだった。開いた瞼から瞳に映ったのは、東京湾に浮かぶ船と
宝石のような滑走路の誘導灯。
飛行機はいつものほとんど3倍の五時間かけて東京に無事着陸してくれた。
                       

******* 

 風神雷神の図を私はいつも夏の終わりに思い出す。それをこの夏は
上空で『感じ』た。 それはあまりにエレクトリカルな図。
自然の不思議で驚異的な力。きっとそれが『自然』というものなのだろう。

-END-

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