Vol.68  雨音 [2008.5.14]
 目覚めて窓をあけると隣の屋根に小さな『しみ』が見えた。
「あ、また雨か...」
 東京は桜の後は雨続き。
働きに出かけても、しぐれたり曇ったり、お昼をとりに出かけると雨が降り出した。
傘を持たずにお昼に出た私の顔も一瞬曇ったが、しかたないとあきらめてお昼を
とりはじめた。
と、終わるころに雨は止んでいた。帰宅時も傘は抱えていただけで、結局その日、
傘は使わずじまい。

 仕事を終えて帰宅すると、知らぬ間に外界を忘れる。
だが、夜半にパラパラという音がしはじめたのに気付いた。それがいつになく、
とても爽やかに感じた。
 外に出てみると雨。今夜の雨は何だか今までと違うと、身体中が感じた。
足下がなんだかやわらかい。若葉のにおいがする。濡れても寒くないし、
潤すような心地良い雨。
雨の音を聞きながら、「雨の日は雨の日の楽しみ方があるものだなア」
なんて感じたのはその夜がはじめてのような気がした。
 ふと足下を見ると、自転車置き場のコンクリートのすきまに、きれいに一列、
緑のアクセント。タンポポ。
そして最近急に増えた気のする『けしの花』。これ、ナガミヒナゲシというらしい。

 今朝、その角を曲ると白いハナミズキが垣根から美しく咲き乱れていた。
家々のかきねや玄関には大事に育てられた古典的なひとえのバラやパンジーに
チューリップ。
たわわに塀をかざっているのはジャスミンだろうか。
空地には、ヒメジョオンだけでなく、ちゃんとすみれやシロツメクサも咲いている。
小さい小さいオオイヌノフグリもきっと咲いているだろう。
 しかしこの花、実にかわいらしいのに全くもって変な名前をつけられたものだ。
そういえば小学生低学年のころだ。植物図鑑に凝ったころがあって、その中に
もうひとつ、とんでもない花の名前があったっけ。つんできた、小さなとげのある
可憐な花をさがすと、あった!ん、なになに....?
-ママコノシリヌグイ-
一文字一文字を目で追いながら名前を読み上げて、母と目を丸くして驚いたっけ。

 『春の宵、桜が咲くと...』
高校の音楽室から良く聞こえていた美しい歌声も思い出した。
さくら横町という楽曲。
そのメロディーが季節の心地良いのにせつない空気感とあいまって、私は春になると
いつも想い出す。

 雨の音から脈絡もなく、さまざまなことを思うこのごろの宵であった。
-END-

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