Vol.64  詣拝 [2008.1.15]

 『新年は二人でお参りすることからはじめませんか?』
年末に友だちからのメール。
昨年は何かと大変な一年だったので、是非そうしようと決めていた。
あわただしく新年も始まったある日、友だちから再びメール。
『この連休中にお参りに行かない?』
二人でどこの神社にしようか考えて、赤坂山王の日枝神社が浮んだ。
そうして私達は、1月も10日を過ぎた日曜にお参りに出かけた。

 広々とした境内には列が出来ていたが、ほどなく私達の番になった。
お参りをして、ふと今並んでいた列に気がつくと、
さっきの倍以上の長さの列になっていた。
 おみくじを引くのが何となく怖く、いつもひかない私だったが、
友だちの『え?ひいちゃえば?』に誘われてひさびさに試みた。
-吉-と出た。
『努力を続ければ尻上がり』とのお言葉。
新年にふさわしい、ひんやりと澄んだ空気を感じながら、私達は境内をあとにした。
東京のまん中、境内から赤坂見附への道には私達以外ほんの数人。
とてもシンプルな感じがした。

 お参りの後、お気に入りのカフェで食事をするのが私達のもうひとつの楽しみだった。
シャンパンで乾杯して、食事をとりはじめた。木のボウル一杯に盛られた
シーザーサラダ、キッシュロレーヌ、フリットのシンプルな組み合わせにした。
あとで二人とも赤ワインをグラスに一杯づつ。
ひさしぶりに会う友だちとの話はつきない。
ふと時計をみると軽々と3時間が過ぎていた。
デザートにガレット・デ・ロワ。日本でいうと何だろう、黒豆とかきんとんかな?
フランス人の新年にはかかせない、この季節ならではのお菓子。
はすむかいの席にいた家族の赤ちゃんが、紙の王冠を手にした。
私達のガレット・デ・ロワにフェーブは入っていなかったけれど、
今日一日過ごせたことこそが幸せの神様に守られているようで、
きっと今年は穏やかな気がした。
 また一年が始まった。乗り越えることはたくさんあるが、
まずは精神統一からはじめよう。
もう三日月の輝く空の下で、私は深呼吸をした。

-END-


*ガレット・デ・ロワ*
キリスト教の行事『公現節』の1月6日に食べるお菓子。
中にフェーブ(そら豆の意味)と言われる小さな陶製の人形が入っていた人は
紙で作った王冠を受け、その幸運は一年間持続するという。

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