そこは芝の香りがした。
雨のにおいだったかもしれない。
乃木坂から防衛庁の跡地へ歩く。すると夕刻の灯りの中に庭が現われた。
「どこまで続いているのかな」そう思うくらい、それは奥へ続いていた。
見上げると空にそびえ建つビル。『東京ミッドタウン』
「雨が降りそうな夕方なら空いているかも、しかも今日は月曜」と、同僚と
アフターファイブに安藤忠雄さんの展覧会へ出かけて行った。
思惑通り、人陰はまばら。
その『庭』を歩き、展覧会場の"21-21Design Sight"へ。
21-21Design Sightは安藤忠雄氏設計で中に入ると『懐の中』に
入り込んだような安心感。うちっぱなしの壁は、その表面がなめらかで美しく、
決して冷たくはなかった。
外へ出ると、雨が降っていた。傘をさして庭を歩くと、土のにおいがした。
ちょっと一杯やっていこうと、庭からメインのビルへ弧を描いた橋を渡って入る。
どの店も盛況だが、ビル内の印象は広々としている。店に入り、ワインを
何口かいただくとすっかりくつろいでいた。
帰り、タウンを六本木駅の方面へ散策すると、パノラマのような景観の中に
店が続く。まさに位置的にも『ミッドタウン』なのだが、空間を感じるせいか、
どこか心をホッとさせるものがあった。
次の朝、とても元気に目覚めた。
会社帰りの月曜に何処かへ立ち寄り、その次の日にこんなに元気なのは、
全くひさしぶりだと思った。カーテンをあけると新緑がやわらかに萌える柿の木。
その奥になにやら動くものが。
バルコニーのように小さく突き出した屋根の上で、黒猫が一匹、身繕いを
していた。身体の隅々まで丁寧に丁寧に。肩、足、しっぽ...。
いつ起きてきたのだろう。本当に気持良さそうな場所を見つけたものだ。
向こう側とこちら側で猫と私はそれぞれに、なんだか同じように朝の支度を
していた。
猫も私も黒かった。私は着ている服が。
出かける前にふとまた見ると、猫はひだまりにまどろみ、朝日にうっとりと
していた。『朝』を全身で楽しんでいるかのような猫の姿。
みんなに朝がやってくる。
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