Vol.37 マリコところどころ [2005.10.24]

 ゴダール監督の『パリところどころ』をまねて、今回題名だけ、『マリコところどころ』と洒落てみよう。
9月は3連休が2度もあり、気持にゆとりができたようで、『家で気楽にくつろげたら至上の喜び』と思っているマリコも、ところどころへ足をのばしたもよう。

−部屋で−

 いつものように、休日部屋でラジオを聞いていたら、世界で活躍している若い日本の人たちが、各方面でとてもたくさん。
地理的に大きなアメリカや中国、ロシアと比べると圧倒的に小さいし、広さでは近いイギリスがあっても、私達はアジア人。独特の文字と言葉を持ち、アルファベットではない。
 でも、イチローや松井のように、大リーグという「アメリカの文化」のような中で大活躍している人もいる。レゲエやヒップホップスタイルに完全になりきっている若者もいれば、クラシックで小澤征二さんのような人もいる。
 何故か、ふとこんなことが頭にひらめいた。私達は各国の食べ物をここ日本で心の赴くままにおいしく食べることができる。実はこんなに『食』に自由な心を持つ国はめずらしいみたい。

 良く日本に来ていた、若いイタリア人デザイナーの女の子は『茄子味噌』が大好きになったが、韓国の『キムチ』やタイの『トムヤムクム』、はたまたアメリカ南部の『BLT』のことは知らなかった。イギリスの友だちも、知っていても、案外保守的。まず、各国のレストランのあり方が日本と正直違うみたい。
 それから、日本はフランスでのパンのコンクールでも、今やトップクラスを評価されたらしい。これはすごいことだ。
 アメリカで『SUSHI(寿司)』は、ニューヨーカーの間で『オシャレな食べ物』となり、昨今、ブーム。けれど、その『カリフォルニア巻き』というのは、アボカドを米と海苔で巻いたもので、なるほど。おいしいけれど、その心は全く違うと感じた。他の『スシ』なるものも、全然風情が違った。おそらく似ているのは、日本で言うところの『ラーメン』。日本流にアレンジして、お国料理のように発展した。
 このように、多分私達は、あらゆるものを「おいしい、おいしい」と食べている。
 しかし、例えば秋になると『さんま』、冬は『鍋』というように心には『お米と味噌汁の心』がやっぱり?
 ちょっと重い話になってしまうが、日本は歴史的に世界で唯一『原爆』が、それも2つも落とされてしまった国。逆に、日本人だけが知らない事もあるようだけれど...。こういうことには落とし穴も待ち受けてるようだが、その前に、そう、良い悪いではなく、いろんなことがあった後に、今、こんな風に過ごせている国は本当にめずらしい。そういうことに通常、案外気付いていない。ひとりひとりの差こそあれ今、さまざまな情報も得られ実践できる暮らしがある、というのは実際、世界でもとても杞憂なことなのだ、な〜んて思った。

−街で(新宿/町田/近所)−

 大阪の出張から東京へ戻ると3連休。その初日のこと。
出張先でのリズムが良かったからだろう。体調が良く、珍しく休日の朝、平日と同じ6時半に、しかもさわやかに目覚めた。

 起きるやいなや、妙に『日本的な何か』を見たくなった私。
茶道具などを収蔵する青山の『根津美術館』へ行こうと調べると『漢の時代の書』。う〜ん、シブすぎ。とにかく、何でもいい、今日は『日本のもの』を見たかった。

「あ、あそこに行こう!」

 東京では昨今、無料の雑誌、それもなかなか素敵な編集の『メトロ雑誌』が地下鉄の駅に配付されている。
毎日地下鉄を使うけれど、なかなかその雑誌にお目にかかれない。いつしか同僚が「自分が手にとったものだけど」と、それを私の仕事場の机に置いてくれるようになった。

 その中にあった記事。
−暮らしの息吹 家とともに−

そう題された記事の中にあった、ある『お宅』。それを思い出した。
 『花の命は短くて、苦しきことのみ多かりき』で有名な女流劇作家の林芙美子さんの家。
新宿区、西武新宿線の駅。中井。今では、都営大江戸線も通っている。
−今日、できれば白洲二郎、正子さんの旧邸、そこまで足をのばそう−そう思った。ここは少し遠い町田にある。

 その日、私の住む町の商店街の祭りで、神輿が出る。
このあたりは、多くの人が世代に及んで、ここで生まれて育ち、この町を『村』と呼ぶ人もいる。
 駅近くで丁度、しょっぱなの『子供神輿』をかつぐ元気な声に出合った。
 顔見知りの商店街のおじさんを神輿誘導の中にみつけて、お互い気付いて手を振る。まるで自分がここの町っ子のようで、なんだか幸せな瞬間。
「何時までやってますか?おっきな神輿は何時?」
「5時っくらいかな〜。大人の神輿は1時からネ」
神輿をかつぐ子供達の声はさわやかで、近所のおじさんも法被姿で、楽しそう。
 それから地下鉄に乗り込み、地上に出ると、訪れた『林芙美子邸』
 『すずめのおやど』と言われたという竹林の残る入り口で、「まだ蚊が出ますから」と渡された、あさがおのもようの『うちわ』。
「お帰りの際に又お渡しくださいね」
訪問人は私一人。庭ではひとり、初老の女性が掃除をしていた。
「こんにちは」私は声をかけていた。

 林芙美子さんは北九州の出身で、四国の尾道育ち。
しっかりものだけど自由かっ達な気質。格別美人というわけではないが、なんだかモテる女性だったみたい。
そして彼女は、ここに心地良い生活感さえある、素敵な日本建築の家を建ててしまった。
帰るころ、50才過ぎくらいだろうか、ひと組のご夫婦とすれ違った。
「失礼します」どちらからともなく声をかけた。

 その後、中井駅でひとり『そば』を食べると、町田の旧白洲邸にも足をのばすことにした。新宿からおよそ1時間。
バスも使って到着。
ここは人が多かった。きっと素敵な白洲夫妻を好きな人たちなのだろう。そんな中、人気のない裏庭をひとり歩いた。(決してさびしくはなかった)

 我が本拠地へ戻ると、八百屋のおばさん、それから酒屋のおばさんと、祭りの話。
「神社の方にも言ってらっしゃいよ。今頃は神輿が一斉にそこに集まるから」

−再び部屋で−

 何かが身体の中からポロリとこぼれ落ちて、知らぬ間にそこに新しい何かが息づくような不思議な感覚。
太陽が私達に『感じるゆとり』をくれるようになると、空気の中にこんな自分をみつけた。
 今、葡萄の房や、まるまるとした果物が店先を飾る。
−豊穣−
秋は物思う寂しい季節ではなくて、そう、きっと、円熟した大人の季節だ。
『葡萄の房』を今年は妙にいとおしく感じる。去年を思い出してちょっとキュンとしているマリコがいる。
だが、食卓に山盛りの『葡萄』が盛られるのを想像して、なんだか幸せな気持になっているマリコもいる。
濃い丸いベリー色や淡い楕円のみどり色。幸せでたわわな形。   - END-

−参考−
『BLT』:ベーコンレタス&トマトバーガー:ハリケーンカトリーナでのダメージも近いアトランタで、日本にはない『”青いトマト”をフライ』してパンに挟んでいた。おいしかった。これが本場のやり方らしい。料理の関係ではないが、映画で『フライド・グリーン・トマト』(キャシー・ベイツ、ジェシカ・タンディー出演)というのもある。

◆林芙美子記念館
http://www.regasu-shinjuku.or.jp/46humiko
◆旧白洲邸
http://www.buaiso.com/
◆根津美術館
http://www.nezu-muse.or.jp/

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