Vol.102 自転車 [2011.2.15]

 最近私は幸せな事にとても楽しく毎日を過ごせているが、寒い朝、いつものように雀が車道で何かをついばむのが見えたとき、『今日は自転車の運転に気をつけなきゃ』ふと、そう思った。
そしてほんの数十秒後の交差点、いつもはここ、小学校の生徒たちのために町の人たちが交代でいてくれるが、なぜか今日だけはいなかった。少しカーブするその道、何もいない道を渡ろうとすると突然、左側に猛スピードの自転車が現れた!
「きゃー、ちょっとー」
私は叫び、それにかぶさるように「すみません、すみません!」そんな声が聞こえ、その自転車は私の後輪に消えた。瞬時に助かったと思った次の瞬間、ここからはスローモーションの記憶。私は(ゆっくりと)右側に倒れた。『ザリっ』という音とともに、右肩と両手をつく形で。ふりかえると青年が『すみません』を連発し、手にはなぜか私の自転車を支え持っていた。まだスローモーション。ザリっ、の音で私は右肩のコートの生地が破れたと思った。が、コートは無事、手袋をしていたせいか打ち身もなく、私は無傷だった。
『すみません』がBGMのように聞こえる中、どう答えるべきか私は思いつかず無言で立ち上がる。後輪を見ると、ぐにゃり曲がっていた。やっと私は
「はい。でもタイヤ、曲がっています…」
漕ぐと自転車はびくともしなかった。
「こげませんけ…ど」
そのとき彼が去っていくのが見えた。
スローモーションの間に私は実にたくさんの事が頭によぎるのを覚えているが、彼の顔を見ることもできなかったし、言葉も出なかった。それにこの記憶も実に断片的だ。
動かない後輪はひきずって行くしかなく、自転車置き場に到着する頃にはタイヤはすり切れてしまった。

 会社についてお昼時、携帯から家の周辺の自転車屋さんに電話するが、なぜかどこも出てくれない。出てくれたのは、なんと20年近く前にこの自転車を買ったお店の支店。今回初めてその存在を知った。
この自転車は車輪に衝撃を受けた場合、車輪が曲がる事で他への衝撃を減らす構造になっているそうだ。
「じゃあ、僕、とりにいきますから、また駅に着いたら電話してください」
駅に着いて電話すると、その人は電話口で言ったとおり10分で現れた。でも、その、現れた人は自転車に乗っていた!どうやって私の自転車を運ぶ?
彼は極寒の中、てきぱきと私に地図を渡し、お店の場所を説明し、私の自転車を点検し、ははーんという顔をしてハンドルをしばると、なんと、私の自転車をかついで夕暮れの闇に消えていった。自転車は軽量とはいえ…。その朝、私はしばらく後輪を持ち上げながら運んでみたが、続けるのは無理だった。
「じゃあ、待ってます!」
まるでその姿は馬に乗っている人のように素晴らしく見えた。けれど近くに交番があるけど大丈夫かしら…。

 お店に徒歩でつくと、修理はもう出来上がっていた。
「車輪はもう使い道無かったです。これで助かったと思ったほうが正解です。気をつけてくださいね。太い車線のほうが優先ですから、必ず『止まれ』の標識では『立ち止まらないと』いけません」

 その翌日、TVでも自転車についての番組があった。子供を乗せた3人乗りは法律で禁止はまだされてはいないそうだ。でも、いろいろと注意しないといけませんと言っていた。そう、一人でも危ないんだから。世のお母さん、お父さん十分注意してほしい。二輪車は非常に不安定なものだということを忘れてはいけない。あの素敵な自転車屋さんも言っていたが、反動で頭を打ってしまうのが一番危険だそうだ。しかも、自転車は歩道を通行する事も同じくかろうじて容認されているそうだ。自転車はガスも何も出さず、本来素晴らしい乗り物なのに、今や通るところがないのか…。

 同じ頃、なじみのパン屋さんの女性がやはり自転車で倒れ、彼女はもう少しで頭を打つところだったと言っていた。危ないあぶない!
私も次の日、打ち身ひとつなかったが、両腕が妙に筋肉痛になっているのを感じた。全力で自分を救おうと筋肉が働いてくれたらしい。

 自転車は素晴らしい乗り物なだけに、注意して乗らないと、と心から思う。

 

 

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