熊本のお菓子メーカー「お菓子の香梅」さんから「私とおやつ」というテーマで原稿の依頼を頂いたのは確か去年の中頃。RKKラジオ番組「お菓子の香梅ハイティートーク」(同社提供)に出演した人たちに依頼されたらしい。
はて、何を書こうか?自分にとって「おやつ」って何だろう?と色々考えたのですが、結局、同番組出演のきっかけとなった自分の素人ピアノの話とからめた原稿を書いてみることにしました。
先ごろ、それが1冊の立派な本になって送られてきました。熊本で文化芸術活動に携わっておられる方々約50名の、おやつにまつわるそれぞれの思いのこもった文章が綴られていて、興味深く読ませていただきました。(私自身は文化芸術活動と呼べる程のこともやってませんが…)
改めて自分の文章を読んでみると、いわゆる「おやつ」とはちょっと離れた文章になっていて恥ずかしいのですが、せっかくなのでお菓子の香梅さんにご了解をいただいて、ここでご紹介(転載)させていただくことにしました。
「Jause(ヤウゼ)」
店の奥にグランドピアノ。
この時間帯は弾く人もなく静かに佇んでいる。
通りすがりに入った昼下がりのカフェレストラン。
がらんとした店内の窓際の席に、レースのカーテンから午後の柔らかな日差しが差している。
「レモンティー」
そう注文してからメニューの裏にCafe & Dessertというコーナーがあるのに気付く。
「あ、この、本日のオリジナルケーキ?も一緒にいいですか」
こんな店に一人で入ってケーキを注文することは滅多にないけど、今日は何となく食べてみたい気分だ。
こうやってお洒落な店にグランドピアノが佇んでいるのは見るだけでも楽しい。ピアニストがいて耳障りのいい演奏をしてくれたら心が和む。もしこんな所で自分でも弾けたらきっと嬉しいだろう。
実は、ずっと憧れていたピアノを大人になってから始めたのだ。そうしたらすっかり虜になってしまった。楽譜の通りに弾くピアノではなく、コードを頼りに自分で好きなようにアレンジしながら弾く奏法だ。なかなかうまくはならないが、タラタラと気分に任せて弾くのが楽しい。これを自分では勝手に「鼻歌ピアノ」と呼んでいる。
ヘタな素人ピアノながら、夜の街のバーなどでたまに弾かせてもらったり、パーティーのウェルカムピアノを頼まれたり、それなりに楽しんでいる。
レモンティーと一緒に、パープルのフルーツ?が入ったショートケーキが出てきた。
「中に入っているのはリンゴをカシスで煮たもので…」
私が不思議そうに見ていたら、ウェイトレスさんが説明してくれた。
「ウィーンの言葉で『午後のティータイム』という意味のJause(ヤウゼ)という当店オリジナルケーキです」
少しキズのあるどっしりとした木のテーブルに白いティーカップ。同じく白い皿に淡いクリーム色とパープルが縞模様になったショートケーキ。通りすがりにたまたま寄ったカフェレストランだけど、こんな『午後のティータイム』もたまにはいいかな。
レモンティーをすすりながら、しばらく皿の上の上品な縞模様を眺めてみる。見ているだけでも美味しそうだ。フォークで切って口に入れる。甘酸っぱい香りが広がった。
ふと、ピアノもお菓子も同じだなぁと思う。なくても多分生きていける。でも、あればきっと人生の時間がふくらみそう。もっと言えば、そんなひと時を一緒に過ごしてくれる家族や親しい人が傍にいたら、もっと楽しいはずだ。今日は一人だけどね。
次はピアニストが演奏している時間にこの店に来てみよう。いや、いつかあのピアノ、自分でも弾けたらいいなぁ。その時はきっと、甘酸っぱい人生のJause(ヤウゼ)を共に味わいながら私の鼻歌ピアノを聴いてくれる人と一緒だ。
妄想は広がる。だから妄想も人生の「おやつ」のひとつ、と言ったら、言い過ぎ、かな?
(続く→原則毎週火曜日更新)
an弾手(andante)
■Q&Aコーナーのご質問を募集しています。
随時、このコラムの中で取り上げてみようと思います。このコラムはコード奏者超初心者から中級の入口位の方を想定していますので、その範囲ならどんな内容でも結構です。メールお待ちしています!
piano-roman@kumamoto-bunkanokaze.com
ちょっと、ひと言。 |
前回のコラムでご紹介しました、被災地の福島県相馬市から熊本に来て募金活動などをしていた中高生10人が、一昨日(4月3日)福島に戻ったと新聞に出ていました。(前回コラムでは中学生10人と書いたのですが、実際は中学生と高校生だったようです)
記事によると、この中高生に熊本市のNPO法人「グランド12」から漫画本約400冊が贈られました。相馬市ではライフラインの復旧は徐々に進んでいるものの、娯楽が足りず、避難所では雑誌を回し読みしているらしいのです。贈られた本はそれぞれの手で避難所に届けられるとか。
「津波で家族を亡くした友人もいる。現地で若者にできることを頑張りたい」「熊本の人たちは親切で励まされた。今度は私たちが被災者を元気づける番」という彼・彼女らに、陰ながらエールを送りたいと思います。
(一部、熊本日日新聞記事より引用)
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