第21回「自己流練習法(その2)精神論編」 [2003.1.21]
 第13回に「自己流練習法10連発」というのを書きましたが、今回は(その2)として、ちょっと違う角度から書いてみようと思います。まあ、練習法というより精神論みたいなものですが・・・。

●その1 好きになる
 当たり前のことですけどね。ピアノを弾くのが好きだ。楽しい。やはり、ここから出発して、ここに帰るのではないでしょうか。鍵盤から伝わる指の感触、弾き手のアクションに敏感に反応してくる音の響き、曲の情感、全てが耳から聞こえるというより、カラダ全体に生理的な快感として伝わってくるイメージですね。これはもうクセになります。

●その2 しょせん遊び
 まあ今さらプロになる訳でもないし、しょせん遊びと思えば気が楽です。あまり強迫観念にとらわれる事はありません。(中にはストレス解消のために始めたピアノのレッスンが重荷になって、かえってストレスがたまる!という人もいますが)。好きなように、楽しいように弾けばいいんじゃないでしょうか。そして、又、たかか遊び、されど遊び。と考えると、これはこれで、なかなか奥深くて興味は尽きません。

●その3 「弾かされている」から「弾いている」感覚へ
 コード奏法を覚えてから、自分の中で一番大きく変わった感覚はこれでしょう。ピアノに触りだした当初、二段譜を見ながら必死でその通りに弾こうと努力しました。頑張って暗譜して何も見ずに弾けるようになっても「どうしてここでこれとこれの音を弾いているのか」という意味は分らず、ただ楽譜にそう書いてあるから、というだけで弾いていました。でも、コード奏法を覚えてからは、自分で弾いてる音の意味が一応分るのです。次の鍵盤に指を動かす前に、曲のイメージが先にあって、その響きを出す為にこの鍵盤を押さえるんだ、というコントロールができるのです。自分の意志で「弾いている」という感覚。やればやるほど、ますます楽しくなっていく好循環があります。

●その4 細かい事より物語性
 細かい理論やテクニックはもちろん大切ですが、あまりそこばかりに意識が集中すると「木を見て森を見ず」と言うか、もっと大切なことを忘れてしまいそうな気がします。まず曲全体のイメージや起承転結の流れを想い描いて、自分なりの「物語」をイメージしましょう。自分が描いたイメージ以上の演奏はできないはずです。だったら、どこまでこのイメージをふくらませることが出来るかが重要だと思います。イメージを拡げる訓練はピアノの前に座っていなくても出来ます。

●その5 劣悪な環境に慣れる
 これはちょっと笑われてしまうかも知れませんね。マンガみたいですが、時々、部屋を真暗(隣室の光がかすかにもれてくる程度)にして練習します。たまにライブの店などで弾く時の為の訓練です。そういう店は暗いことが多いのです。暗い中でスポットが当ったりします。前の方からスポットが来ると、目はまぶしい上に、手元は影になって鍵盤がほとんど見えません。横からスポットが来ると黒鍵の影が長く伸びて鍵盤がいつもと全然違う形に見えます。また、椅子の位置も自由にならない事が多い!すぐ後に壁があったり、足元に音響機材があったりして実に窮屈な姿勢で弾かざるを得ない事もしばしばです。よくプロはこんな所で弾いてるなぁと感心してしまいます。その為に、普段から劣悪な条件の中で弾く模擬訓練で心の準備をしておくと、イザという時に、あわてずに済みます。

●その6 音楽好きの仲間を増やす
 共通の話題や体験を持てる仲間がいると励みになりますよね。似た者同士の仲間もいいですが、それだけだと発展性に乏しいので、自分より上級の人、出来ればプロかセミプロ位のミュージシャンと知り合いになれると理想的ですね。私の場合は、そもそもライブの店でレッスンを始めたこともあり、プロ、アマ織り交ぜて色々なジャンルの「名人」の人達と知り合いになることが出来ました。そういう空気に接していると、何気ない会話の中からも学ぶことが一杯あるし、プロの演奏に身近に接したり、自分の演奏をそういう人達の前にさらすことで恥をかいたり、おだてられたりともまれる中で、自分の意識や目指すイメージのレベルもいつの間にか変わっていくような気がします。(続く)
−an 弾手−


第22回「今度はジャズピアノのプロに入門」 [2003.1.28]
 クラシックのピアノ教室を挫折した話をしましたので、今度はジャズピアノトリオのピアニストの先生に入門した話もしておきましょう。(みんな中途半端なんですけど・・・)
 先生は本格派ジャズピアノトリオとして、地元を中心に活躍中の女性ピアニストです。こちらは、前に通ったクラシックピアノ教室の若い先生とはまた違った、キャリアのあるバリバリのプロ。私が出席していたあるパーティーのアトラクションで演奏に来られていたのがきっかけで知り合いになりました。話を聞くと、ジャズピアノの個人レッスンもやっているとか。「それじゃ、私も教えてください!」と話はトントンと進みました。(この辺が自分でも軽薄だなぁと思うんですが)
 この時は、まだ最初のライブバーでのレッスンも進行中の頃です。今度の先生も、そのライブバーの店長は良く知っているという事で、そこでのレッスンの話をしたら「私のところにレッスンに来るようになったことは、一応内緒にしておきましょうか」と、気を遣っていただきました。(こんな事をホームページに書いたらみんなバレバレになってしまいますが、もう時効ということで・・・)
で、レッスンは人のいない昼間のとあるジャズクラブ。
「まず、あなたがどの位弾けるのか、何か1曲弾いてみて下さい」
 ああ、あのライブバーでの最初の体験レッスンの時と同じだなあ、と思いながらも、もう、あれから私もずい分人前で弾くことに関しては、色々な場面で鍛えられてきたという密かな自信がありました。
 特に深い理由もなく、「If we hold on together」を弾き始めました。先生はじっと聞き入る風でもなく、向こうを向いてゴソゴソと自分のバッグや楽譜を整理したりしています。でも所々で、私のピアノに合わせて「ホーッ」とか「イエーィ」とか声を掛けるのです。すると不思議と私もノリが良くなってきて、気分よく最後まで弾き終えることができました。
 弾き終わると、先生は
「なかなかいいじゃない!ポピュラーだったらそれで充分ですよ!」とほめてくれました。そして続いて一言。
「でも、それじゃジャズは弾けないわね」
かくして、又々、ジャズピアノの入門編から、新たなレッスンが始まることになりました。 (続く)


ちょっと、ひと言。
 この連載を書き始めてから5ヵ月。今回で22回になりましたが、まだ話題は何年も前の話です。今のリアルタイムの話も少し入れてみようかと思って、この「ちょっと、ひと言」コーナーをつくることにしました。本編の後の雑談のようなつもりで軽く読み飛ばしてください。
 
 今、森山良子の「さとうきび畑」を練習しています。同じフレーズが何回も繰返し出てくる曲で、単純なのに、なかなか心にしみる情感がありますね。この曲は、ある程度息の長い方だと思いますが、流行りの曲を練習する時は急いでマスターしないとすぐ流行遅れになってしまって、やっとマスターした頃には人前で弾けなくなってしまうんですよね。
−an 弾手−


第23回「カルチャーショック」 [2003.2.4]
 ちゃんとレッスン料を払って教わる先生がこれで3人目です。よくピアニストの経歴に、「○○○氏に師事」とかいうのを何行も書いてあったりしますが、私もこれで将来は「○○○氏に師事」を3人も書けるなぁ、などと冗談で思ったりしました。(先生から、迷惑だとクレームがつきそうですが・・・)
 先生によって、教え方も色々ですね。今度の先生は女性ながらバリバリのプロだけあって、教えるテンポの早いこと!
「どんどんいきますからね!分らない事があったらストップをかけてください!」
と言うなり、まず12のキーの説明。教えるというより、自分で発見しなさいという感じ。スケールのスタートの位置を半音ずつ上げていきながら臨時記号の付く位置を見つけて五線紙に書いていき、12のキーのスケールと調号を完成させます。それが出来ると、今度はジャズの基本というか、トゥファイブ進行の連続を、右手、左手、両手で繰り返していきます。
「ジャズの場合は全部にセブンスを入れますからね!」と言われながら、今までポピュラーを弾いていたのとはちょっと勝手が違うヴォイシング(コードのつかみ方)にとまどうことしきりです。
 息つく間もなく1時間が過ぎ、ドッと疲れてしまいました。レッスンが終わって、少し世間話というか、先生がジャズを始められた頃の話とか色々聞きたいなあと思っていたら、
「今日はこの後、予定があるから」
と、さっと切り上げられてしまいました。このテンポ!ジャズのノリというか、リズムというか、まごまごしていると、どんどん置いていかれるようなスピードに、「これがジャズの感覚なのかなあ」と軽いカルチャーショックを受けたレッスン初日ではありました。(続く)


ちょっと、ひと言。
 この前、私あてのメールで「練習は毎日しているのですか?」というご質問をいただきました。毎日したいとは思っているんですけどね。1週間弾かないでいると自分でも何となく下手になったような気がしますし。でも、私も昼間は仕事しているし、帰宅はいつも深夜に近いのでなかなか毎日という訳にもいきません。夜は電子ピアノにヘッドホンですから音の問題はありませんが、このところ寒いからですね!夜中に、冷え切った部屋に暖房を入れ直すのも、もったいないし。そんな時はほんの2〜3分、なるべく鍵盤の感触だけでも確認するようにしています。電子ピアノの電源を入れずに黒鍵の並びを指の先でさぐって、頭でコードの響きをイメージしながら指先の感触を感じます。こんな事で何か効果があるとも思えませんが、何しろ寒いので寝る前のおまじないのようなものですかね。それにしても、早く暖かくならないかなあ!
−an 弾手−


第24回「まだまだノリが足りない!」 [2003.2.10]
 「枯葉とサテンドールと、どっちにします?」
 トゥファイブの連続を、家で一生懸命練習して次の練習に行ったら、いきなり、こう聞かれました。私としては、自宅練習の成果を先生の前で披露しなくちゃ、と張り切っていたのに、先生はそんな事はお構いなく、もう次のレッスン曲の話です。
「サテンドールでお願いします」と私。
 本当は「枯葉もいいなぁ」と思ったのですが、何となくミーハーっぽくて、思わず、逆の言葉が出てしまいました。(別にこんなところで格好つけることもないんですけどね)
「それじゃ」と先生は五線紙を取り出すと、シャカシャカシャカッとリードシートを書いていきます。その速いこと! 書くスピードが速いので、その音符も、コードネームも、ダイナミックで勢いが良くて、まさにスイングしてる感じです。
「ハイ、いきますよ!」という訳で、左手のコードヴォイシングと右手のメロディの練習です。
今までポピュラーのピアノソロでさんざんベースを効かせながら弾いてきたので、ベース音を省略したセッション用のコードのつかみ方には悪戦苦闘。それでも、1時間過ぎる頃には、少しはイメージがつかめたかなぁ、という感じでした。
 その後、ジャズセッションの構成の話。イントロから始まって、テーマ、ソロ、テーマ、エンディングといった、曲の進行について、これも五線紙の端にシャカシャカッと書いて説明してくれました。
フゥ。今日も、色んなことやったなあ! それにしても、レッスンそのものが先生との掛け合いのようで楽しい反面、「おじさん」としてはどうもノリきれてないんですよねぇ。(続く)


ちょっと、ひと言。
 この「・・・奮戦記」の愛読者と名乗る51歳の男性からメールが来ました。何でも、第2回から読んでいるとか。多くの人に読んでもらう為に書いてるとは言え、「知らないうちにこんな人も読んでいたのか」と思うと、うれしいやら恥ずかしいやら。でも、これって人前でピアノ弾くのと何か似てますね。
 聴いてほしくて弾くんですが、特にコード奏法では自分の性格や感性、技術レベルがモロに出てしまうので裸の自分を人前にさらすようでコワイ。でも、そうすることでコリ固まった殻が1つずつむけていくような・・・。演奏も文章も同じですね。
 ところでこの愛読者さん、ホームページもあるとのことで見に行ったらビックリ仰天! ジャズピアノ10数年のキャリアでバリバリの演奏活動もなさっているセミプロ級? ホームページも、内容、ボリュームともに圧倒されてしまいました。
 大人の初心者のための体験的アドバイスも豊富で、とても参考になります。(端から読んでいくと頭がパニックになる位、内容が深い)それと、随所にアダルト系の写真を配して、いかにも「ジャズ好き」「酒好き」「○○○?好き」のおじさんという雰囲気にあふれています。それでいて、決して下品にならず、ダンディにまとめてあるところなど、デザインセンスもなかなかです。一見の価値ありますよ。
http://www.sue.or.jp/smillytama/
−an 弾手−


第25回「美わしき誤解のリクエスト」 [2003.2.18]
 しばらくジャズピアノ教室の話が続きましたが今回はちょっとライブバーでの演奏の話です。
 もう数年前になりますが、例によってライブバーで弾かせてもらっていた時のことです。確か「ある愛の詩」だったような気がします。曲の途中まで弾き進んだ時、1人の若い男性がすっと近づいてきて、小さなメモ紙を黙ってピアノの端に置いていきました。何だろうと思ってチラッと目をやると、英語で何か曲名の様なものが書いてあります。
「えっ! これってもしかしてリクエストカード?」
私は飲みに行った時などに自分がリクエストカードをピアニストに渡したことはありますが、もらうのはもちろん初めて! 思わぬ事態に、弾きながら頭の中がグルグル回り始めます。
「すぐ弾ける曲、何と何があったかなあ。でもリクエストにお応え、は無理でしょう!」「何とか言い訳をしながら自分の弾ける曲に持っていくにはどうするか?」などと考えながら、もう一度よーく目をこらして見てみました。(何しろ店内が暗いもので)。曲名が読めた瞬間、私は心の中で「ヤッター!」と叫んでいました。そこには、つい最近、覚えたばかりの曲名が書いてあるではありませんか! その頃、巷でブレイクしていた、坂本龍一の「Energy Flow」。これ、なんとか弾けるようになったばかりだったんですよ! でも、「押さえて、押さえて」。ここで変にニヤケたり、張り切りすぎるのは禁物です。お客さんは私のパフォーマンスを見に来ているのではなく、お酒と、会話と、素敵な音楽のある雰囲気を楽しみに来ているのです。私がいくら練習のために弾かせてもらっているとは言え、いやしくも店の営業時間中は自分のための演奏ではなく、お客さんのための演奏に徹しなくてはなりません。(ちょっとカッコ良すぎるか?)
 平静を装いながら、「ある愛の詩」をしっかり弾き終えます。最後の音がグワァーンと響いて静かに消えていくのを確かめ、ゆっくり、ふた呼吸してからおもむろに「Energy Flow」の、あの冒頭を弾き始めます。この、弾き始めは重要です。この最初で、曲のテンポや雰囲気が決まってしまうからです。始まってしまうと、途中で軌道修正するのは困難です。弾き始める前のふた呼吸の間に、頭の中で曲のイメージを想い描きテンポを確認します。でも、これもやり過ぎると逆に構えてしまって肩に力が入り、思わず最初の音からボケかましてしまう事があるので要注意です。心の準備はしても、あまり考えすぎない。この絶妙なバランスでさりげなく弾き始めるという、心のコントロールが、実は意外と難しかったりするんです。
 無事に曲がスタートしました。さっきの男性の反応はいかに、と、うす暗い店内にチラッと目をやります。少し離れた席で、若いカップルが寄り添うようにしてじっとこちらを見ています。フム、フム。常連さんの顔はだいたい知っているので、もしかしたら初めてのお客さんか。・・・という事は、私がこの店の本物のピアニストだと美わしい誤解をして、リクエストくれたのか? 私もまんざらでもない気分でした。でも、ドンピシャ当たってくれて良かった! こんな経験、後にも先にもこの時だけです。(続く)


ちょっと、ひと言。
 いやぁ、いよいよと言うか、やっとと言うか、この「くまもと文化邑ドットコム」にも掲示板が出来ました。webマスターの渡辺さん、ありがとうございます。これまで、個人的にいただいていたメールにも、なかには皆さんで共有して話題が広がればいいなぁと思うものがいろいろありました。これからは、掲示板の方にも、ピアノの話題、質問、情報、ご意見、お待ちしています。もちろん、今まで通り、私あての個人メールもよろしくお願いしますね。
掲示板へ
−an 弾手−


第26回「上手と下手の差」 [2003.2.25]
 今回のテーマはジョウズとヘタの差、です。音楽上の専門的な解説はできませんが、私の体験から考えた、極私的偏見的、ヘタなのにジョウズそうに聴かせるための心得とテクニックのお話です。
 人前で「上手そう」に弾くためには、基本的に、ある程度のレベルは弾けないと確かに話は始まりません。でも、ある程度弾けるようになった時、聴いている人に「ウム、おぬしやるな」と思わせるか「ヘタクソ!」と呟かれるか、紙一重の差である場合が結構ありそうな気がするもので・・・。

(その1)途中で止まらない。
 曲の途中でつかえて止まってしまう。同じところを弾き直す。これは致命的ですね。その前後がどんなに見事に弾けても、1回でもつかえてしまうと、とたんに「ヘタクソ!」になります。家族や仲間どうしの演奏ではそれもご愛嬌ですが、夜のライブバーやクラブなどでは絶対に避けなければなりません。でも、そうは言っても素人の私などにはむずかしい注文ではあります。弾き終わった後、他のお客さんから
「まあ、人に聴かせるというより、自分で楽しむピアノですね」
と言われて頭が真っ白になったことも1度や2度ではありません。完璧に覚えていたはずなのに弾いている途中で突然フッとその先が飛んでしまって、全く分らなくなる。魔の瞬間です。思わず指が止まって、ちょっと前から弾き直して思い出そうとしてしまう。これがダメなんです。その対処法を自分なりに工夫しました。曲が分らなくなったら、「ホラ来た」と思って、まずはあせらない。音が途切れないようにペダルを踏んで、指を動かし続け、とにかく、何か音を出す。この時、コード進行の知識は役に立ちます。コードの中の音を何か出していれば、そんなアレンジに聞こえなくもありません。この時間稼ぎをしている間に曲の先のほうを考え、分らない部分は飛ばして区切りのよさそうな所から曲を続けて弾きます。この時、それまでの曲のテンポにうまく乗っていないと、ギクシャクしますが・・・。なかなか頭で考えてそうそううまい具合に出来ることでもありませんが、「こうやって切り抜ければいいんだ」という心の準備をしておいて、イザという時は絶対にあせらないことが大切ですね。

(その2)ミスタッチはごまかす。
これも上記の話と似ていますが、慣れないうちはミスタッチするとあせってしまって、反射的に正しく弾き直そうとしていました。でも弾き直した瞬間に「ヘタクソ!」になってしまいます。ちょっとくらい間違ってもテンポをくずさず、そのまま弾き進んでいけば、案外気付いていない人の方が多いものです。

(その3)曲の味付は派手目に。
これは積極的に「上手そう」に聴かせる工夫です。まずは選曲の時点で、自分のテクニックの範囲内でなるべくカッコよく聞こえそうな曲を選ぶことから始まります。自分が使えるテクニックを効果的に生かせるかどうかもポイントです。曲が決ったら、少々派手目の味付をほどこします。イントロから始まって、1コーラス目は普通に、2コーラス目はちょっと雰囲気を変え、フレーズの切れ目には適当にフィルイン(おかず)をちりばめ、サビで思い切り盛り上げて・・・など、やや大げさに変化をつけていきます。(この辺の具体的な方法は、又、別の機会に書きます)
派手目にする意味は、だいたい夜の酒場で素人のピアノなどまともに聴いている人などいないから。皆、ピアノなどそっちのけで飲んだり話したりに忙しいんです。弾き終わって席に帰ったら、
「あれ、今日は弾かないの?」
と聞かれて絶句した事もあります。ですから、曲の要所、要所に「聴かせどころ」を仕込んでおいて、その瞬間、「おっ!」とピアノのほうを振り返らせる必要があります。そしてエンディングです。ここは思い切り勿体付けます。だいたい、市販の楽譜(アレンジされた2段譜)などは、エンディングがすごく淡泊です(と、私は感じます)。エンディングは長目に「これでもか」という位に盛り上げて終わります。皆がピアノの方を振り向いて、思わず拍手してしまえば成功です。途中の小さなミスなど誰も覚えていません。(但し、これもやりすぎると下品になるので、失笑を買わない程度に・・・)

(その4)ピアノと格闘しない。
誤解を恐れず言うならば、「一生懸命に弾いてはいけない」ということです。弾き手が一生懸命になっている時、弾き手の意識は曲とピアノに向いています。自分の世界にこもってしまって、お客さんの事を忘れています。お客さんは聴いていないようでいて、それをすぐ見抜きます。どんなに素晴らしいテクニックで弾き通しても、お客さんに伝わってくるものがありません。一生懸命は練習の時だけにして、こういう場では曲の情感をピアノを通してお客さんに届けようとすることです。抽象的ですが、その差は大きいと思っています。
(続く)

ちょっと、ひと言。
 朝のラジオで、「武田鉄也・今朝の三枚おろし」という トーク番組があります。これ全国放送ですかね。時々、出勤途中の車の中で聞いていますが、先日、面白い話がありました。「最近のアダルトビデオは質が落ちている!」と武田鉄也。「アレの技術ばかり見せて内容がない」と言うんですね。「男と女の関係性が抜けてる! Make Loveって言うだろう。Do Loveじゃないんだよ」
 ナルホド、と思いながら私はピアノの事を考えていました。演奏「スル」ではない? Make Love! 弾き手と聞き手の関係性の中に数分間の物語(ドラマ)を演じ奏でること・・・?男と女の関係と同じだなぁと、一人でニヤニヤしながらの朝の運転席ではありました。
−an 弾手−


第27回「バンドにスカウトされた!」 [2003.3.4]
 私のレッスン場になっていたライブバーには、いつも色々な人が集まっていました。トランペット吹きのおじさん、チャランゴ(?)とか言う、不思議な民俗楽器を小脇に抱えてやってくるお兄さん、アマチュアだけど、セミプロのような顔をしていつも歌いに来るヴォーカルのお姉さん、決った曜日になると、楽器を下げて集まってくるアマチュアバンドの面々・・・。ここに来ると、誰か音楽好きの馴染みの顔があったり、初めての人でも音楽の話題さえ出せばすぐ親しくなってしまいそうな、そんな雰囲気を楽しみに私もよく足を運んだものです。
 そんなある日、私がカウンターの隅に掛けていると、顔見知りのバンドマスターが寄ってきてポツリと呟きました。
「そうか、そう言えばあなたがいたんだよね。」
「え?」
「いやね、今うちのバンドでピアノやる人探してるんだよ。どう、やってみない?」
 おっと!バンドでやる!? 思いがけない言葉に一瞬うろたえる私! でも、次の瞬間、生来の軽薄な私の口からは自分の思考回路とは別に、「あぁ、いいですね!」という言葉が思わず出ていました。というのも、以前から周りの人に、「あんたもそろそろバンドでやってみたら。バンドで弾くとすぐうまくなるよ。」などと、それとなくプレッシャーをかけられて、いつの間にか潜在意識の中に刷り込みがあったのかもしれません。でもバンドで奏る、というのがどういうものか全く分らないし、そもそも自分にやれるのか、全然自信がありません。
「やってみたい気持ちはあるけど、本当にやれるかどうか分りませんよ。」と、一応、常識的な言葉を吐いている私。
「まあ、少しやってみれば。あなたのメロディアスな部分を生かしてくれるといいと思っているんですよ。」
 へぇ? メロディアスな部分ねぇ? 人は私のピアノをそんな風に聞いているのかなぁ?
 まあ、やれる時にやれること、やってみるのも悪くないか!
 飲みかけのグラスを持つ手を彼の方にちょっと突き出して、小さくうなずく私でした。(続く) 

ちょっと、ひと言。
 いよいよ3月ですね。ここ熊本はさすがに随分暖かくなってきました。皆さんの所はいかがですか?(ニューヨークの朝はマイナス9度!らしいですけど)
 という訳で、深夜の自宅レッスンも、そろそろ暖房を気にせずに始められそうです。ただ、最近、仕事が忙しくて実はピアノの方だいぶご無沙汰なんですよ。イカン、イカン。坂道をこいでる自転車のように、ちょっと油断するとすぐズルズルと後退してしまうので、現状維持も努力がいりますね。まあ、楽しい努力ですけど。
−an 弾手−


第28回「ジャズはメインディッシュか? スパイスか?」 [2003.3.11]
 このコラムを毎回読んでいただいている方がいらっしゃるとしたら、ここ数回の間に、もしかしてややストレスをおかけしているのではないかと心配しています。
 ちゃんと読んでいるハズ(?)の我が女房に、そう謎をかけてみたら
「別に。どこが?あなたが思う程、人は熱心に読んでいないわよ!」
と軽くいなされてしまいました。
 私としては第22回〜24回まで、ジャズピアノ教室の話をして、その後パッタリ別の話題になってしまったものですから、ジャズピアノ教室その後を書かないと何となく納まりが悪いような気がしているんですが・・・。
 で、そのジャズピアノ教室です。6ヵ月くらい通ったでしょうか。レッスンの中で、マイナスワンのCD(ドラムとベースだけの、ジャズのカラオケのようなもの)を使った練習はしましたが、結局、生のトリオでの演奏は未体験のまま。会社の決算期と重なり、ピアノのレッスンどころではないという崇高な言い訳を考え出してちょっとお休み、という事になってしまいました。
 おいおい、6ヵ月でちょっとお休み、というパターン、確かクラシックピアノ教室の時にも聞いたような・・・。どうも私は6ヵ月しか根気が続かないのかなぁ。
 でも、このジャズピアノ教室を通して自分なりに自己分析したことがあります。自分はジャズの感性がないんじゃないか!ということ。ブルージーなバラード系のジャズフィーリングはとても好きだし、自分でも本当に弾いてみたいと思うのですが、いかにもジャズらしいスイング感には、どうも気持ちが付いていけないところがあるのです。
 楽しいには楽しいけれど、自分の体の芯から本当に湧き出してくるような感覚が感じられないような気がするんですよ。それに引きかえ、演歌や歌謡曲には何の違和感もなく一体化できている自分に気付いて、苦笑いしてしまいます。
 でも、ジャズのフィーリングはやっぱり好きだし、ジャズらしさをあきらめた訳ではありません。ポピュラーの演奏にもジャズっぽい「スパイス」を効かせたアレンジやアドリブを加えてみたいし、たとえ歌謡曲や唱歌、童謡でも、いかにもポピュラーピアノらしいテイストで弾いてみたいと思っているんですが・・・。

ちょっと、ひと言。
 大変申し訳ないお願いです。
実は先週、私あてのメールを開いたところVirusに感染してしまい、関係者の方に大変ご迷惑をかけてしまいました。おわび申し上げます。私の方は駆除ソフトで元に戻ったのですが、その後もあやしそうなメールが何本も入って来るため、念のために開封せずに全て削除しています。もしかすると、本当に私あてにメッセージをいただいている方のメールも削除してしまっているかもしれません。そういう方にはご返事も差し上げず、大変失礼をしております。
 そこで、今後しばらくは私あてのメールアドレスを休止し、メッセージは全て掲示板でやりとりさせていただく事にしました。今までメールをいただいた方には大変申し訳ありませんが、事情をお汲み取りの上、何卒、お許し下さい。
 もし個別にメッセージの交換をなさりたい場合は、大変お手数ですが、下記あてFAXください。こちらからもまずFAX(又は郵便)でご返事差し上げ、その後個別メールの交換をさせていただきます。
 IT時代に逆行するようなお願いで申し訳ありませんが、何卒よろしくお願いいたします。

[FAXあて先」
くまもと文化邑ドットコム編集室 an弾手担当行
FAX096-345-6299
※なお、編集室の電話で私(an弾手)あての伝言や取り次ぎはできませんので、何卒ご了承下さい。
−an 弾手−


第29回「ウキウキ気分のバンド顔合せ」 [2003.3.18]
 「今度バンドのメンバーが集まるから、ちょっと顔出してみませんか?」
リーダーからそう言われて約束の日に出かけて行きました。場所は、くだんのライブバー。日曜日で店の営業は休みです。入っていくと、ひとしきり練習が終わった後のようで、皆ステージの端や前の椅子に腰を下ろしてくつろいでいました。このバンドは最近メンバーが変わったようで、ほとんど知らない人ばかり。でも、リーダーから私のことは聞いていたらしく、「ああ、○○さん!」と言って皆で歓迎してくれました。リーダーは私と同年代のおじさんで、リードギター兼ヴォーカル。サイドギターは熊本弁をペラペラしゃべる変なフランス人の中年男性、ベースギターとドラムは若いお兄ちゃん、キーボードはうら若くてかわいい(!)女の子。ほかに、ヴォーカル専門の、同じく若い女性が2人(!)という編成。これに私が入ると、総勢8名の、何とも賑やかなメンバーです。
 私はピアノ(鍵盤)なので、当然、その若い女の子とダブルキーボード、という事に。なごやかなメンバーの雰囲気と相まって、私の気分も一気になごやかになってしまいました!
 今日の練習は終りらしく、私は顔見せだけ。そのバンドがどんな曲を中心にやっているのかも実は良く知らないまま、次から一緒に練習しましょう、ということになりました。この先、どんな事態が展開するのか一抹の不安がよぎるのを振り払いながら、とりあえず今日のところはウキウキ気分の私でした。(続く)

ちょっと、ひと言。
 またまた衝動買いをしてしまいました!「コード奏法マスターブック」という実習書、CD付き。副題が「ポップスからジャズへ。自然にカラダで覚える徹底基礎トレーニング集」。パラパラ立読みしたら私がやっているコード奏法の弾き方とピッタリそのまま同じだったので、何かとてもうれしくなったんです。(ひと口にコード奏法といっても、実際の弾き方は指導書によって色々違います)。私がやっている通りの部分は今さら本を読み返さなくてもいいようですが、その前後の基本的な部分で自分が出来ていないところもあるし、もう一度きちんとやり直してみるのもいいかなあ、と思っています。
−an 弾手−


第30回「バンドの譜面は、重い!」 [2003.3.25]
 いよいよバンドでやることになりました。新しい世界が始まる期待と、何がどうなるのか分からない不安とが入り混じった複雑な気持ちです。
 リーダーが私のことをどんな風にメンバーに説明していたのか分かりませんが、皆んなと話をした雰囲気から察すると、どうも結構やれると思われている気配です。私が謙遜のつもりで「私、譜面見てもなかなかその通りに弾けないんですよ。だいたいコード見て適当に弾いてますから。」と言うと、
「スゴイ! 適当に弾けるなんて、プロですね!」
 キーボードの女の子は、昔クラシックをやっていたらしく、コードはあまり慣れていないとかで、「教えてください!」と言われてしまう始末。
「いや、ホントにバンドの経験ないから良く分からないですよ」と、私は予防線を張るのに必死です。年齢も、バンドのメンバーからすると倍近く違ったりするので、相当ベテランだと思われてしまったのかなあ。ちょっとヤバイなぁ。とりあえず、私は何をどうしたらいいんでしょうか? リーダーに相談したら、
「明日にでも、今練習している譜面をコピーしときましょう。」という事に。
 で、次の日。とある喫茶店でリーダーと落ち合いました。
「はい、これが譜面ね。それと、これテープ。これを聴いて雰囲気つかんで下さいね。」
譜面は見慣れたリードシートに混じって、初めて見るバンドスコアも!それも何回もコピーを繰り返したらしく、音符もコードネームもにぶくツブレてよく読めないような代物です。しかも
「これ譜面はC#mだけど、実際は半音上げてDmでやりますから。あ、これはGだけどDで、ね。」
と軽く言われてしまいました。
 こりゃ大変だ! 相当下準備して行かないと手も足も出ないゾ!
「もうこの曲目は6〜7割出来上がってるんで、あなたも早く追いついて来てくれないと。」
別れ際のリーダーのひと言がズッシリ響いて、譜面を入れた薄い紙袋が異様に重く感じられた帰り道ではありました。(続く)

●リーダーから渡されたバンドのスコアの一部
CALIFORNIA DREAMIN JOY TO THE WORLD
 

●リーダーから渡されたリードシートの一部
LOVE WILL KEEP US ALIVE
   
ちょっと、ひと言。
 先週、抜けるような青空とうららかな陽気のもと、ここ熊本に桜の開花宣言が出されたその日、海の向こうではアメリカのイラク攻撃が始まりました。
 あ、スミマセン。このコーナーはそういう重いテーマを取り上げる所じゃないんですけどね。ただ、ネット社会の凄さというか、このコラムを書き始めるまでは思っていなかったようなことを実感したもので。と言うのは、このコラムが縁で、その、アメリカはニューヨーク在住の方とお知り合いになり、つい先日、このイラク攻撃と関連して、その方のビジネスへの影響などメールでお話しいただいたばかりで、テレビや新聞のニュースが、とても身近にリアルに思えたからです。
 インターネットは世界中にリアルタイムでつながっているというのは頭では分かっていたつもりだったんですが・・・。日本国内でも、千葉、東京、長野、山形、愛媛、大阪、そして熊本と、まだお目にかかった事もない方々と親しく情報交換させていただき、大変嬉しく思っています。まだ、当分この「・・・奮戦記」続けていくつもりですので、今後ともよろしくお願いしますね!、
−an 弾手−
バックナンバーリストに戻る   ピアノ奮戦記に戻る