第11回「レッスンはアルコールの香り」 [2002.11.5]
 少し理屈っぽい話が続いたので、今回は話題を変えて、ピアノ教室での一コマを。
レッスンは、予約制で、私はいつも日曜日の午後あたりにしていました。先生(店長)も本業は夜の仕事なので、午前中はダメ。
 「いやぁ、昨夜は遅くなってねー。店出たのが朝の4時だったから。」などという話を聞きながら、昼の日中から薄暗い、ガランとした店内で棚のボトルを横目にピアノなど弾いていると、何か、とても退廃的な気分になってきたりしたものです。でも、それがジャジーな響きのピアノの音には良く似合って、何だか少し上手くなったような錯覚を覚えるところが、又、何とも言えないところでもあります。
 そういう訳で、日頃は他のレッスン生と顔を合わせる機会はほとんどありません。
 ですから、たまには皆んなで集まろうという先生の呼びかけで、1〜2ヵ月に1度位の集まりがありました。何のことはない、夜、皆んなで、このライブバーに飲みに来るというもの。名称は一応「発表会」でしたが、要するに「飲み会」ですね。集まった顔ぶれは千差万別。上は50代のおじさんから下は女子高生。(女子高生がこんな時間にこんな所に居ていいんか!)
 職業も会社員あり、自衛隊員あり、看護婦さんあり、OLあり、ラジオのディレクターあり、小学校の先生あり、民間機のパイロットあり、専業主婦あり…。
 何とも不思議な集まりでした。でも、皆んな"カッコ良くピアノを弾きたい"という共通の思いとアルコールの香りの中で、あっという間に昔からの友人のような親しい空気に包まれてしまうのでした。(続く)
−an 弾手−


第12回「我が家にグランドピアノがやって来た!」 [2002.11.12]
 レッスンを始めて3ヵ月。家では娘の電子ピアノで練習し、レッスンではライブバーのグランドピアノを弾くと、そのタッチの違いにとまどうことしきり。本物のピアノの鍵盤の重さに、どうもついて行けません。ここはひとつ、我が家にも本物がほしいなあと思い始めました。そして、どうせ買うなら思い切ってグランドピアノにしよう!と思い立ったのです。早速、先生に安い中古のグランドピアノはないかと相談したところ、すぐに見つかりました。今思えば、相当古い品物でしたが、グランドピアノというだけで舞い上って、すぐに買う事に決めました。
 そして、いよいよ搬入の日。皆さん、あの大きなグランドピアノを、どうやって部屋に入れるか、ご存知ですか。よく、狭い入口の店の奥にグランドピアノがドーンと納っていたりして、どうやって入れたのか不思議に思ったことはありませんか。私も知りませんでした。あれは、足をはずして、本体の部分をタテにして運び込むんですね。すると、アップライトピアノより狭いすき間から入れることができるのです。
 我が家にも、そうやってやって来ました。しかも、あの数百キロのピアノを、2人でかついで運ぶんですからビックリです。そして、部屋の中で足を取り付け、ヨイショッと起こして、出来上りです。見ているほうが、力が入ってしまいます。
 かくして、部屋に電子ピアノとグランドピアノが並びました。何だか、見た目だけは音楽教室でも開けそうです。(続く)
−an 弾手−


第13回「自己流練習法10連発」 [2002.11.20]
 私は残念ながら、体系的なピアノの練習というのをやったことがありません。確かにライブバーでのレッスンでは、最初のうちはコードの基本や左手の伴奏パターンの入れ方、右手によるメロディ奏法のバリエーション、アルぺジオのテクニック、さらにテンションコードの入れ方などを立て続けに教わりました。
 それも最初の2〜3ヵ月位で、あとは実際の曲を弾きながら、そこに出てくる変わったコード進行やその響きに感心したり、自分で何とかまとめてみた曲の雰囲気と、先生が「私ならこんな風に弾くよ」と言って弾いてみせる曲想とのあまりの差に、不遜にも内心嫉妬しながら、それでも一生懸命真似してみたり(この真似がムズカシイ!)という具合でした。
 そこで私なりに練習法を色々工夫してみました。

●その1 独習書を買い漁る
楽器店に行くと、沢山の独習書が並んでいます。「コード奏法入門」「わかる!コード進行の基礎」「独りでマスター、ピアノ伴奏法」「ピアノ即興演奏入門」「誰も書かなかったメロディー作りの本」「ジャズピアノ教本」etc.…。
どれもタイトルを見るとすぐにうまくなりそうな本ばかりです。それらをパラパラと立読みしては、理解できそうなものを1冊2冊と買い込んできます。でも、結局通して練習した本はいまだに無し。みんな所々のつまみ食いです。そんな独習書がもう何十冊もピアノの横の棚に並んでいます。このコレクションは今後も増えそうな気配です(つい衝動買いしてしまうので)

●その2 コード進行のパターンを繰り返し弾いて覚える
これはなかなか効果があります。基本的なコード進行のパターンや色々な曲に出てくるカッコいいコード進行のパターンを書き出しておいて、コードだけを繰り返し弾きます。
 最初のうちはコードバッキング(コードでリズムを刻む)で、そのうちにアルペジオ(分散和音)にしたり、自分で勝手なメロディー風に変化させたりしながら同じコード進行をぐるぐる回して弾いていきます。これはけっこう、ちょっとしたアドリブや、イントロ、演奏の途中で曲が分らなくなった時にごまかしたりするのに使えます。

●その3 CDを聴いて真似る
こんな風に弾きたいと思うCDを何回もかけて、その雰囲気やフレーズを真似します。でも、これは、そもそもテクニックが違うので、相当ムズカシイ。そこでいきなり真似ようとせず、まずメロディー(フレーズ)と
コード進行を何とか書き写して、それを見ながら似た感じに弾いてみようとしました。数曲近いものは出来ましたが、あまりに大変なので、今、とりあえず挫折中です。

●その4 CDと合わせて弾く
CDと同じように弾くのではなく、セッション(合奏)する感じです。これはCDを真似るよりずっと楽で楽しいです。まず、かけている曲が何調なのか(キーは何か)をピアノの音を出して聞き比べながら探します。調が分ったら、その調の音階(ドレミファソラシド)を適当にパラパラ弾いていれば、何となく合った感じがします。またその瞬間のコードがうまく見つかれば、そのコードの構成音を適当に弾いていてもCDのメロディーとうまく絡みあって結構カッコよく聞こえたりします。

●その5 人前で弾く
これは絶大な効果があります。「部屋で1人で練習してもなかなか上達しないよ」これは色んな人から言われました。「とにかく場数を踏むこと」。そこでレッスン場でもあるライブバーで、夜お客さんがいるときに弾かせてもらうことにしました。最初は上がってしまって、ヒザはガクガク、指はブルブル、鍵盤は全部は真っ白に見えてどこがドかも分らなくなりました。今では、ピアノの所に行くまではドキドキしても、一旦ピアノの前に座ってしまうと不思議と落ち着いて弾けるようになりました。

●その6 テレビやラジオの曲を聴きながらコード進行を考える
テレビやラジオから何気なく曲が聞こえてきたりしますが、そんな時、その曲のコード進行を聞き取ろうと意識します(ほとんど分かりませんが!)。まだ、私には宙に聴き取るのは大変むずかしいですが、カッコいい曲想の進行するイメージなどは覚えておいて、後でピアノでコード進行を探したりしています。皆でカラオケに行っても、歌っている人より、バックのカラオケの演奏の方が気になります。

●その7 自分の演奏を録音して聴いてみる
これも大変効果的ですね。自分で弾いている時は、自分の演奏を客観的に聴くことができませんから。変なクセが良く分って、自分の声を録音して聞いた時のように気恥ずかしいものですが、ガマンして聴きましょう。ラジカセでは生ピアノの音をうまく録るのは難しいですが、録音機能の付いたMDで録ると、びっくりするくらいきれいに録れます。

●その8 次々に違う曲を弾いてみる
何百曲ものリードシートが載っている曲集があります。これのページをどんどんめくりながら、片っ端から弾いていきます。聞いた事もない曲はイメージがつかめなくてムズカシイし、あまり面白くないので適当に飛ばし、キー(調)やコードのムズカシイ曲もあまり無理しません。要するに、弾きやすい曲、知っている曲、弾いて楽しい曲を中心に楽しみながら次々に弾いていきます。気が付くと2〜3時間位、弾き続けている事もあります。

●その9 1曲をじっくり仕上げる
(その8)と対照的なやり方です。これは、と思う曲を徹底して練習します。人前(ライブの店)で弾いて一応サマになるかどうか、が目標基準です。イントロの入り方、2コーラス目の変化の付け方、アドリブをどうするか、サビの部分の盛り上げ方、エンディングのパターン等を色々工夫してみます。ひと通り曲の組み立てが固まったら、あとは何度も弾き込んで、自然に感情移入できるようになれるかどうかが勝負です。

●その10 イメージの中でアレンジの幅を広げる
実際に弾く時は、自分のテクニックが邪魔して、なかなかイメージ通りにまとめることができません。だったら、いっその事弾くのをやめて、頭の中だけでどんどんイメージを広げていくのも楽しいですね。色々なCDなどのフレーズも参考にしながら、いくらでもカッコイイ演奏が空想の中で広がります。頭の中にオシャレなサウンドがガンガン響いてきます。後は、いつの日か理論とテクニックが追いついてくれれば……。

 以上、思いつくままに書いてみましたが、どれも自己流なので、効果の程は保証の限りではありません。ただ、一度も「練習」と思ってやったことはありません。楽しいからやる。要するに楽しめればいいんじゃないでしょうかね。(続く)
−an 弾手−


第14回「コード奏法(その2)実践編」 [2002.11.26]
 この連載の第8回でコードの話を少ししました。又、第10回でCメロ譜(リードシート)について少しふれました。今回は、コードとCメロ譜 (リードシート)を使って、実際にどんな風にして演奏するのかを書いてみたいと思います。但し、このコラムは技術の解説をするのが主旨ではないし、私からそんな技術的な講釈を聴きたいという人もあまりいないかもしれないので、サラッとイメージだけ紹介することにします。(もし、もっと詳しく知りたい方がおられたら、メールください。私にできる範囲は何でもお答えします。)
 それに文字だけで説明するとなると、基本的なコードの知識と、ピアノの鍵盤の形くらいは知っていないと何のコッチャ分らないかもしれませんけど……。

(1)左手編
 親指と小指をオクターブに開いて、コードのベース音の位置に置きます(Cのコードならドの位置)。すると、人差し指が自然とソの位置に来ているはずです。これで、Cのコード(ド・ミ・ソ)のド(1度、8度)と、ソ(5度)に指が乗ったことになります。この時の指の形を覚えておきます。この形のまま色々なコードのベース音の位置に左手をスライドさせていくと、全てのコードで、小指がべース(1度)、人差し指が(5度)、親指がオクターブ上のベース(8度)をつかむことができます。(目をつぶっていても)
 これで曲のリズムに合わせて、適当に小指、親指、人差し指を動かしていれば、立派に左手の伴奏になります。
 時々、親指を右側へ2つ隣の鍵盤(ミの音、10度)へ移動して弾いてやるとサウンドに変化が出てgoodです(この時だけは、メジャーのコードとマイナーのコードでは半音ズラすことが必要)。

(2)右手編
 右手はメロディだけを単音で弾いても、上に書いた左手の伴奏に支えられて結構堂々と安定感のある曲になります。ただ、すぐ物足りなくなるので、右手でもコードの音を入れていく工夫をします。この時は、基本的に小指がメロディを担当します。メロディより低い位置で、残った4本の指のどれかを使ってコードの構成音のどれかを弾きます。構成音を全部弾くか、1つ2つにするかは曲の流れの中でケースバイケースです。但し、そのコードの特徴音(例えば3度の音。Cならミ)は、メジャーかマイナーかを決定する重要な音なので、基本的に抜かないようにします。
 
 以上、たったこれだけのルールを覚えれば、世の中の曲の半分以上は、もう一気にあなたのものです! 自分でも信じられないくらいに世界が広がります!しかも、変に初心者用に編曲した二段譜の音譜を忠実に弾くより、ずっとハーモニー豊かでオシャレなサウンドが楽しめますよ。        (続く)
−an 弾手−


第15回「自分が思った通りになってしまう恐い話」 [2002.12.3]
 夜の街に出た時、たまたま入ったバーやクラブにピアノが置いてある事があります。時間が来ると専属のピアニストが出てきて、しばしの間、オシャレな雰囲気の曲を演奏してくれたり、店によっては生演奏のグループが入っていない日は誰も弾かずに、ただピアノだけが置いてあったりします。そんな時は少し勇気を出して「チョッと弾かせてもらっていいですか?」と言うことにしています。知らない店だとあまりいい顔はされません。酔っ払いにガチャガチャ音を出されて店の雰囲気をブチ壊されるのが心配なんでしょう。その気持ちよく分りますよ。でもこちらは武者修行のつもりですから、初めての、知らない所でいきなり弾くことに、意味があるんです。周りの雰囲気、鍵盤に当たる照明の明るや角度(ほとんどの場合、わざと見えにくくしているんではないかと思う程、暗い)、鍵盤の重さやストロークの深さ、音の鳴り具合など、千差万別です。それに、他のお客さんがいたりすると、練習もできませんから、初めてのピアノでいきなりぶっつけ本番となります。
 最初は、こんな、日頃の練習とは全く違う環境にとまどって、「こんなはずじゃなかった」と思いながらすごすごと引き揚げていましたが、これも場数を踏むうちに、だんだん慣れてきたようです。上手になったというよりは、場慣れして本来の地が出せるようになったという事でしょうか。
 ただ、場慣れしたとは言っても、よく失敗して途中でつかえてしまう事があります。どうしてだろうと考えていたら、1つの法則に気付きました。間違えるのは、弾き始める前から、その曲のある部分に不安を持っている時です。「あそこの所は、もしかしたら間違えるかもしれない」と気持ちのどこかで漠然とでも思っていると、そこにさしかかった時に必ず間違えてしまいます。間違うぞ、間違うぞ、と自分に暗示をかけてしまって、その期待に応えるかのように、本当に間違ってしまうのです。だから、弾き始める前は、「自分はうまく弾けるんだ」と思うことにしました。そうすると、実際、うまくいく確率はずっと高くなりました。ただ、そのためには、「うまく弾ける」と自分を納得させる根拠が必要ですね。いつでもサッと弾ける曲を数曲、自分の中に用意しておくと安心です。(弾く曲を2〜3曲、もしも、アンコール(!)があった時のために別に1〜2曲用意しておくと万全!精神的に余裕が出ます。)また、あっちこっちの店で同じ曲ばかり弾くのもダサイので、時々、曲目をローテーションしてしっかり練習しておきます。そして、ピアノの前に出る時は、「あれだけ準備したのだから完璧だ!」と自分に言い聞かせます。うまくいく、と思うとうまくいく。失敗する、と思うと本当に失敗する。恐い話です。(続く)
−an 弾手−


第16回「クラシックピアノの教室に入門」 [2002.12.10]
 ライブバーでのレッスンは、およそ1年位続けました。最初の頃は、週1回、そのうち、月2回〜1回と、どんどん回数が減っていきました。深い理由はありませんが、レッスンで「教わる」より、自分で工夫して練習する時間の方がどんどん増えていったような気がします。その間、実は他の先生のピアノ教室も掛け持ちで出掛けたりしました!独習書を買い漁る私の悪いクセがピアノ教室のハシゴにも出たようで、これはヒンシュクものですね。でも、ちょっと言い訳させてもらうと、いずれも、それなりに目的はあったんですよ。ひとつは、クラシックの先生の教室。新聞の折込みにピアノ教室の生徒募集が入ってきました。見ると、自宅の近所です。某私立有名音大卒で、若い女性の先生らしい。(若い女性の先生だから訪ねて行ったのでは決してない事はここでハッキリ言っておきます。……でも、やっぱりうれしくない事はないか……)
 私は、指の基本訓練というものを一度専門的にやってみたかったのです。電話で、「指の訓練だけ見てもらえますか」と聞いたところ、「いいでしょう」とのこと。早速、日曜日に近所のその教室(先生のご自宅)へ行きました。今自分が練習している事も説明しながら相談し、「ハノン」というものをやってみる事になりました。クラシックピアノを少しでもやられた方ならよくご存知ですね。あの「ハノン」です。教則本を見ると、最初から最後まで単調な音譜の上り下りがギッシリ並んでいます。でも私にとっては初めての体験です。クラシックピアノの先生に「キチンと教わる」という期待で、気分はウキウキでした。でも、これが、そのうち、思わぬアクシデントを起こすことになりました。(続く)
−an 弾手−


第17回「ピアノが弾けなくなった!」 [2002.12.17]
 日曜日、近所のピアノ教室に通う生活が始まりました。こちらはライブバーでのレッスンと違って午前中に予定を入れてもらいました。予約制で1時間の個人レッスンです。明るい朝の光の入る部屋で、若い女性の先生とのレッスンは、薄暗い昼下がりのバーでアルコールの香りを漂わせながらヒゲ面の先生と1時間過すのと比べてずっと健康的で、何か中学校の音楽の時間に戻ったような気分です。
 まずはハノンの1番から。右手だけ、左手だけ、そして両手合わせての練習です。先生のお手本に合わせてゆっくり弾いていくと、一応クリアできそうです。すると先生から悪いクセを指摘されました。
「自己流で弾いている大人の人によくあるクセですね。鍵盤を下までしっかり弾いていませんよ。1音ずつグッと下まで押し込むつもりで確実に弾いて下さい。」
 ああそうか! ずいぶんざっと弾いていたんだなあ、という事に気づきました。
 それから、単純な音の上り下りでも、感情を込めて、抑揚をつけて弾くこと。
 なるほど、音がだんだん上がっていくところはクレッシェンド気味に、下って行くところはだんだん弱く、1フレーズがどこからどこまでかを考えながら、気持ちの中での息継ぎを意識して弾くと、こんな単調なハノンの練習曲でも何となく起承転結が表現できることが分かりました。
 レッスンは、最初の1ヵ月位はとりあえずハノンの第一部、練習曲の20番まで。家で練習してきては、先生に見てもらう形で進んでいきました。単純な筋肉と神経の訓練ですから、練習の成果はすぐ出ます。繰り返し弾いていると、だんぜん指がスムーズに動くようになるのが実感できます。何日か休むと、また元に戻ります。だんだん結果が見えてくるのが面白く、また先生にいい顔したい気持ちもあって、熱心に練習に励みました。そんな調子で半年ちょっと。レッスンは第二部のスケールやアルペジオ(分散和音)に進んでいきました。
 ところが、です。右手の小指に少し違和感を感じながらも特に気にせず弾いていたところ、突然、ビリッと痛みが走りました。小指の付け根あたりがビリビリ痛くてたまりません。ついでに、指につながっている腕の筋肉も痛みます。とてもピアノを弾くどころではありません。困ったことになりました。(続く)
−an 弾手−


第18回「私もピアニストの仲間入り?」 [2002.12.25]
 これが腱鞘炎とか言うやつでしょうか。とにかく小指が痛くて、鉛筆で字を書くにも、小指が机に触るだけでも痛いのです。薬屋で塗り薬を買ってきて塗ってみましたが全く効果ありません。もちろん、ピアノを弾くどころではありません。辞書で「腱鞘炎」を引いてみました。曰く「腱鞘の炎症。細菌感染、機械的刺激、手や指の過労などによって起り、疼痛・腫脹を主微とする。キーパンチャー・電信技師・ピアニストなどの職業病としても知られる。」
 なるほど、ピアニストの職業病か!自分も一人前のピアニストに近づいたか。なんて納得している場合じゃないですね。次の日曜日、先生の教室に出掛けて行って、事情を話し、しばらく「お休み」という事にしてもらいました。しばらく「お休み」ということになると、気分屋の私のことです。だんだん気持ちが遠のいていって、とうとうそのままその若い女の先生のピアノ教室は挫折してしまいました(何と中途半端なことか!)。でも、ピアノに対する私の気持ちは一向に冷え込みそうにありません。2〜3週間ほど指を使わずおとなしくしていたら、いつの間にか痛みも消えてしまって、又、自己流レッスンの再開です。

〈教訓〉ピアノを弾いていて、少しでも腕の筋肉や指に違和感を感じたときは、すぐ休憩を入れること。絶対にそのまま弾き続けないことですね。特に私のような年配者は、40肩、50肩の引き金になるかも。(続く)
−an 弾手−


第19回「大人のためのピアノ発表会に出場」 [2003.1.7]
 クラシックピアノの教室を挫折したことは前回書きましたが、その先生(仮にK先生としておきます)とは、その後もいろいろとつながりをもたせていだきました。K先生が所属している楽器店へも時々遊びに行ったりしながら、そこの社長さんとも知合いになることができました。
 その社長さんの話では、その楽器店所属のピアノの先生達のもとに、大人の生徒さんが沢山いるそうで、ぜひ、そういう人達のピアノ発表会をやりたいとのこと。私も「そういう機会があれば、ぜひ声を掛けてください」と言っておいたら本当に話がきました。その時は、私はもうK先生の教室に行かなくなって数ヶ月たっていたのですが、「一応OBということで」と参加させてもらうことになりました。
 さて、何を弾くか決めなくてはなりません。1人2曲程度ということです。色々考えた末に、短い童謡を4曲、メドレーにアレンジして弾くことにしました。春、夏、秋、冬、それぞれにちなんだ曲をつないでいく構想です。結局、「さくらさくら」「七夕さま」「十五夜お月さん」「冬の夜」にしました。
「冬の夜」なんて、最近の若い人は知らないでしょうね。
「ともしびちかくきぬぬう母は
  春の遊びの楽しさ語る〜」という歌なんですけど。
 早速、曲づくりです。楽譜は手持ちの曲集の中にリードシートがありました。童謡を普通に弾いてもダサイので、何とかカッコよくしなければなりません。目標レベルは(以前にも書いた様に)ライブの店で弾いても何とかサマになる(と自分で思える)程度です。乏しい知識とテクニックを総動員しながら、何回も弾いてみます。主に使うテクニックは、ちょっとおしゃれなサウンドになるセブンスコード、ベースが半音ずつ動いていくラインクリシェ、フワッとした雰囲気が出せるディミニッシュコード、フレーズの切れ目に入れるアルぺジオ、メロディのサウンドに変化を付けるためのオクターブ奏法、それにキー(調)の違う曲をメドレーでつないでいくための間奏部分のコード進行の工夫などです。
 何回も試行錯誤しながら、だんだん、1つのパターンに決めていきます。大体決まる頃にはすっかり覚えているので、特に譜面に書いたりしません。(と言うより書けない! 譜面に書き起こすのは、とても面倒だし難しいです)ただ、書いたものがないと、日にちが経ってから又弾こうとしても、以前どんな風に弾いていたか思い出せないことがあるのが難点です。(続く)
−an 弾手−


第20回「いよいよ発表会当日」 [2003.1.14]
 いよいよその日になりました。某ホテルのホールを貸し切って、ちょっとしたクッキーパーティー風のセッティングです。受付でプログラムをもらって、自分の出番を確認します。な、なんと、一番最後、トリではありませんか。これでは最後まで緊張しっぱなしで、他の人の演奏をゆっくり聞くどころではありません。席は自由ということで、いくつかある丸テーブルの1つに着きました。見回すと、大体皆さん出場者とその家族らしいグループです。私はと言うと、恥ずかしいので、家族には「ちょっとピアノの発表会が・・・」と言葉を濁して、一人で出て来ました。一人で来ているのは私ぐらいかなぁ。出場者の年齢は、「大人のための・・・」とは言っても、高校生位から20代位の人が多く、私のようなおじさん(おばさん)は少数の様です。
 いよいよ始まりました。1人ずつ、前のステージで演奏します。皆、日頃練習した曲を一生懸命演奏しています。特に印象に残ったのは、自衛隊の男性。年齢は私と同じ位、50歳前後でしょうか。「エリーゼのために」をどうしても弾きたいとレッスンを始められたそうで、途中つかえながらも最後まで一生懸命弾かれている姿が印象的でした。また、中には、出番になって係の人が呼ぶけれど本人がいない。年配の女性で、さっきまで「人前で弾くのはやっぱり恥ずかしい」と言っておられたとか。皆で探し回り、結局「帰ってしまったかな」ということになりました。
 さて、丸テーブルの上にはお茶とサンドイッチとお菓子。軽く、リラックスした雰囲気で、という主催者の演出でしょうが、私は出番が最後なので、結局ほとんど手をつけられずにお茶ばかり飲んでいました。夜の店ではそれなりに人前で弾く訓練をしていたつもりでしたが、こんな発表会で1人ずつ順番に進んでいくというのも、何か刑の執行を待っている囚人の様で、あんまり気持ちのいいものではありませんね。
 いよいよ最後、私の番になりました。司会者に紹介されて、ピアノの前に座ります。 「完璧だ」と自分に言い聞かせながら弾き始めます。それでも、緊張しているのが自分でも分ります。あっという間に弾き進み、後半のキメの部分で、まずいことにひとつずれた鍵盤からアルペジオで駆け登ってしまいました。でも、それがうまい具合にコード違いのアルペジオにはまって、ちょっと苦みのきいたジャズっぽいアレンジに聞こえなくもありません。そしらぬ顔で、そのままエンディングに入り、何とか間違ったことに気付かれずに弾き終わりました。あまり堅く考えず、感覚的に適当に弾いてしまうコード奏法の日頃の練習の成果(?)が、こんなところで生きたようです。それに、左手と右手でわざとコードを違えて弾くと、ちょっと濁った味のあるサウンドになることを思わぬところで発見しました。(続く)
−an 弾手−
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